第5話 叫び
毛布を抱えた古泉の顔に笑みはない。
「わけを話してもらえませんか」
「ホールにおまえがいた。問題を解くと外に出られるとか言ってたな」
「問題?」
俺は大扉のスクリーンについてかいつまんで古泉に話してやる。
「ならば、我々をこの部屋に閉じこめる理由はないはずでは?」
「俺もわからん。だが、この洋館では時間の流れに異常があると言ったのはおまえだろ。ここを早くでないと」
それにニセ古泉とハルヒを一緒にしておくのは絶対的にやばい、と俺の本能が告げている。俺の寝室に侵入したニセ朝比奈さんみたいな行為をするかもしれない。ハルヒに張り倒されていなければな。
それでなくても玄関ホールはここより何倍もはやく時間が過ぎる。ほっておけない。時間? まてよ?
「朝比奈さん、未来と連絡が取れますか。長門がこんな状態じゃ、朝比奈さんの能力が必要なんです」
正確に言うと大人の朝比奈さんの能力、だが。
あの人は未来視点ですべてを知っているはずなのだ。
さっきまで、古泉イベントの伏線説を信じていたらしい朝比奈さんだが、さすがに長門がこんな状態ではもうイベントなんか信じてないはずだ。
俺の本気が伝わったのか、ちょっと首を傾げてこめかみに指を当てた。
「あっ!」
口を開けたまま、唖然としている。
「TPDDが見えない……」
「どうしたんです?」
「任務中は一時的にスリーブ状態になることがあっても完全停止にはならないの。これは管理者があたしを監視するために必要な……あっ!」
言葉を詰まらせた朝比奈さんの顔色がみるみるうちに蒼白になっている。
「禁則まで解除されてる。あり得ない……」
早くも瞳をうるうるさせながら、ベッドにぺたんとすわりこんだ。
「ちょっとまって、それはあとまわしにしましょう。今は脱出が先です」
「……ごめんなさい」
朝比奈さんは指で涙をぬぐってから、俺の手にすがって起き上がった。未来からの応援もダメならどうすりゃいいんだ?
ドアが開かないのは俺がここに入ったからか?
それとも古泉と朝比奈さんがここを出ようとしたからか?
違う。長門を連れ出そうとしたからでもない。ニセの古泉は全員集まるようにと言っていた。なぜだ?
……ここから出られないのは、ひょっとして、あの玄関の質問に長門が答えてはダメなのか。
あれは人間専用の問題なんだ。俺たちを観察するための。となれば……。
俺は天井を見上げておもいっきり叫んだ。
「ここで俺たちを見てるやつ! 俺の言葉がわかるか。このドアを開けろ! そのかわり長門には問題に答えさせない。かならず俺たちが解いて見せる! だからドアを開けろ。これ以上長門に負荷をかけんじゃねぇ!!」
朝比奈さんはびくっ、として目を見開いたまま俺を凝視している。俺も見つめかえした。いまさらどう思われようとかまわない。みんなのためだ。
ガチャリ。ドアノブから思い金属音が響く。俺がドアノブにを握りしめると確かに解錠されている。
一瞬、ドアの向こうの廊下を誰かが歩いているような、不気味な気配を感じたのは気のせいか。
「朝比奈さん、長門さんになにか着るものを」
古泉が冷静に言った。朝比奈さんがクローゼットを開ける。
「どうやら、これまでは単なる予行演習だったようですね」
「なぜわかる」
「この洋館に入る前から、長門さんは異常を感知していました。彼らは長門さんや我々を観察して、準備が整ったと判断した。これから我々一人一人が試されることになるでしょう」
「ハルヒが目的なんじゃないのか」
「もしそうなら、凉宮さんだけをこの洋館に引き入れていたはず。我々がここにいるのは何か意味がある。それがなんなのか今はわかりませんが」
「キョンくん、準備できたわ」
時間があれば理由を突き止めたいところだが、一刻も早くここから長門を出さないといけない。
長門を持ち上げたとたん、毛布を通してひどい熱が俺の腕に伝わってくる。
長門が解答に参加しないとしても、やつらは長門を無力な状態に置きたいらしい。クソ野郎が。
長門。俺は絶対におまえを助けてやる。全員そろってここを出るんだ!
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