第19話 訪問者
さっきまでハンバーガーをほおばっていた朝比奈さんはパンくずをほっぺたにつけたまま、机につっぷして寝息を立てている。
「キョン、古泉君と二人でみくるちゃんをソファに」
そっと肩を揺すったが目が覚めない。
「あっ」
古泉が何も言わず、朝比奈さんを抱え上げだ。おまえなにすんだ。うらやましい。
持ち上げられた朝比奈さんは一瞬目をひらいて、
「非線形が」とつぶやいたかと思うと、また眠りに落ちていった。
古泉は、朝比奈さんを優しい感じでソファに運んでやっている。
「どうせ銅鑼で起こされるんだからあたしも寝るわ」
ハルヒも朝比奈さんと肩を寄せてたちまち寝込んでしまった。
俺も、と言いたいところだが二つあるソファは長門とハルヒたちで満席だし、それより先に済ませておきたいことがある。
「古泉」
「なんでしょうか」
「俺たちは一緒に行動したほうがいいんだよな」
「もし懲罰があるなら、ですが」
「一人で行けないわけじゃないんだが」
「よくわかりませんが、お手伝いしますよ」
「トイレだ」
「…………」
二人は解答中に冷や汗で水分を蒸散させたかもしれないが、俺はあれだけ飲んだり食ったりしても三回ダッシュしただけだ。
「二階の客室が直近のようですが、さすがに一緒と言うわけにはいきませんね。二階に上がって直ぐの部屋で左右に分かれましょう」
調理場のさらに奥にもトイレはあるようだったが、そこまでいったらどれくらい時間が経過するかわからない。
俺と古泉は階段を素早くかけあがって、向かい合わせの部屋にそれぞれ入った。
しかし俺は、ドアストッパーで壁に連結しておいた。もう閉じ込められるのはごめんだ。
廊下の向こうで古泉がドアを閉めたのが見えた。
実は古泉が女子だったりする衝撃的展開はさすがにないと思う。ああ、この非常時になにを考えてんだ?
トイレで用を足して、ついでに洗面台に冷たい水を満たして顔を洗った。
ここに拘束されて何時間になるかわからないが、ほおが若干こけていてひどい有様だった。
この洋館に五人で迷い込んだのは午後四時頃だったろうか。
それから飯を食ったり入浴したりして、ほんの少し寝たところで、あのニセ者が侵入してきたんだった。体感的には今は深夜三時前後か。徹夜一歩手前のげんなり感がじわじわでてきてコーヒーが効かなくなる頃、くらいしかわからない。
「だが、眠るわけにはいかねぇな」
眠気を覚ますためにあえて大きな声で言った。時間はあまりない。
浴室の扉を閉めて、廊下に出ようとすると固定したはずのドアが閉じている。おもわずドアに向かおうとしたとたん、俺の両眼はふさがれていた。
「だーれだ?」
と、暖かい小さな手の持ち主が言った。
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