第4話 発熱
長門の部屋はどこだ?
二階に駆け上がったが、俺の寝ていた部屋すらわからない。階段近くの五つの部屋、のはずだったのに。
長門の部屋は、俺の部屋から奥側で朝比奈さんもいっしょにいるはずだ。
ずっと奥くまで続く通路には、ベタなCGみたいに完全に同一のドアが廊下の彼方まで並んでいるばかりだ。長門の寝室はそんなに階段から離れてはいないはずだが……くそ、時間がない。
階段側から順にドアノブに触れるが、どれも開かない。廊下を走り回って全部のドアを確認するヒマはないだろう。
「朝比奈さん! 聞こえたらドアを開けて下さい!」
――ガチャリ。
すぐ後ろのドアが開いた。と、中から心配そうな朝比奈さんの顔が現れた。
「あ、キョン君。どうしてこんなに遅く……」
「いいから早く、一階に戻るんです」
「ど、どうして?」
純真そのものというまなざしで俺を見上げた。
これ、間違いなく本物の朝比奈さんだよな?
俺たち一人一人にそっくりなニセモノを作り上げて侵入させたんだ。最悪、入れ替えるなんて簡単なんじゃないのか。俺はあのなまめかしい朝比奈さんを思い出しかけて頭を振った。
「キョンくん、怖い顔してる……」
ヒザまである白い厚手のロングTシャツを着ている。ハルヒと同じだ。ズボンの裾は折ってあるからサイズが合わないんだろう。栗色の髪の毛は寝乱れていているけれど、心配と困惑の入り交じった顔は……これは本物の朝比奈さんに違いない。
「理由はあとで話します。俺が長門を運びますから」
とまどう朝比奈さんの横をすり抜け、部屋に入った。
俺の視界にあり得ないものが入ってきた。
ぐったりした長門の額におしぼりをのせてやっているのは、さっき別れたばかりの古泉だ。そんなバカな。
「どうかされましたか?」
「おまえ、さっき下の玄関ホールにいなかったか?」
「あなたが氷枕をとりに言ってからずっとここにいましたが」
「朝比奈さん、ほんとですか?」
「えっ? 古泉君はずっとあたしといっしょでしたけど」
小首をかしげて俺を見上げる朝比奈さんだった。
とすると……まずい。ハルヒと一緒にいるほうがニセモノに違いない。
「古泉、ここを出るぞ!」
「なぜです?」
「理由はあとだ!」
俺は朝比奈さんに氷枕を渡し、相変わらず熱っぽい長門を両腕にかかえた。
熱い! 人形のように軽いが、体温は人間だったらとっくに……というレベルだ。
朝比奈さんは長門の額に氷枕をおしあてた。
「古泉、ベッドにある毛布も一緒に持ってきてくれ。長門、大丈夫か。ここから出してやるからな」
うっすらと目をひらいて何かを言いたそうだが、言葉が出ない。頼むからそんな目で俺を見つめないでくれ。
毛布を持った古泉が先頭に立った。ドアノブを回そうとしたが、
「ロックされています」
「なんだと?」
俺は、長門をベッドにそっと下ろして、ドアに突進した。チェーンはかかっていないし、ドアノブには施錠スイッチはない。オートロックにしてもこの部屋が客人用なら内鍵のはずだろう。
朝比奈さんは長門の氷枕を持ったまま、俺にすがるような目をしていた。
……頼りにされるときに限って難題ばかりなんだよな。
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