概要
亡き父から引き継いだ温泉旅館《舶灯館》は、今や倒産寸前。
若き女将・氷川千尋は、たった一つ残された灯りを守ろうと、必死に立ち尽くしている。
東京での挫折と後悔を抱え、
帰る場所も失って故郷へ戻った青年・天城蓮。
住み込みで働き始めた蓮と千尋は、
かつて接点のなかった同級生同士。
ぎこちない距離が、少しずつ信頼へ変わっていく――
壊れた心と街が、お互いを支え合う関係性の物語。
しかし、現実は残酷だ。
板長の引退、仲居の離職、銀行からの融資断り、
そして役所から突然届いた《耐震診断》の通知。
さらに、町ではかつて造船を支えてきた中小企業が、
何事もなかったかのように静かに姿を消していた。
事故でも、不祥事でもない。
ただ――仕事だけが、なくなった。
その
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- ★★★ Excellent!!!爽快ではない。でも暖かく爽やかな物語。
寂れた地方の港町。商店街も活気を失い、かつて賑わっていた旅館も経営が厳しくなる。どこの地方でも聞いたことのあるような現状。
都会で大企業に努めていたが辞めて地元に戻ってきた主人公。この現状を機転と無謀な行動力で打破してくれるに違いない! という、よくあるエンタメ小説ではなく、淡々と厳しい状況が続く。
女子高生たちの活躍。さてはこっちが本命で、若い力でバズって解決! という、よくあるエンタメ小説でもない。
静かに淡々とゆっくりと終わりに向かっていく。
色んな人が少しずつ関わって、滅びに向かう道筋を少しずつ変えていく。
田舎特有の人間関係。強固かと思えば意外と脆い。
でもやっぱり最後は人なんだな…続きを読む - ★★★ Excellent!!!橙色の灯りの、その先へ
わたしは、この物語を読みながら、胸の奥に「潮風の冷たさ」と「橙色の灯りのぬくもり」が同時に残るような、不思議な寂寥感を味わいました。港町・蒼ヶ崎の描写は、観光ポスターの明るさと、一本裏へ入った途端に現れるシャッター街の静けさが対照的で、ただ「地方が寂れている」という説明ではなく、光の届き方そのものが歪んでいる感覚として迫ってきます。駅前だけが「普通の地方都市」みたいな顔をしている、という違和感が、とても現代的で、読み手の現実とも重なりました。
天城蓮の帰郷は、郷愁より先に「居場所がない」という現実が突きつけられる形で始まります。父の死、母の施設、実家の売却、そして帝都商事での退職。どれも単…続きを読む - ★★★ Excellent!!!地方創生のリアル
失われた30年の影響は地方都市に大きな影を落としています。
特に日本各地にある温泉地やその周辺の文化を形成する商店街や商業施設はバブルの遺産を残して衰退の一途を辿っています。
少子高齢化、経済の二極化、昨今の物価上昇と日本が這い上がれる材料を見つけられないまま時だけが過ぎていると感じます…
舞台は、“寂れた”港町。
今にも朽ち果てそうな“町”を守ろうと若い力が奮起します。
錆びた船に灯を灯し、大海原の荒波を乗り越えようと努力する姿に感情を揺さぶられます。
一つ一つの描写が丁寧なため、場面を鮮明に想像することができます。
今の日本が抱えている“地方”のリアルが描かれている読み応えのある…続きを読む