MHASC“せんかく”2022年//02_F-3“日本鬼子”
MHASC( エム・ハッシュ )“せんかく”2022年//02_F-3“日本鬼子(ひのもとおにこ)”
「せんかく、進入コースに乗るわよ、気を抜かないでね。」
『SENKAKU glidepath-beam on sight! attention! 』
『了解です。』
『了解なり~~~~』
艦長三津原は、胸からストラップで下げたタブレットを左手に持ち、指を走らせて、アクセスウインドウを開いた。
顔アイコンが写る:整備技術士官待遇:
狸山喜寿郎
「狸山(まみやま)クン、詩穂乃ちゃんがオーバーヒート!《ぽんた》を連れて待機してちょうだい。」
『は!了解』
艦長のそれは、民生機のタブレットとは違い、ウインドウの描画は瞬時である。
「天眼通02号のデータバンクからバイパスを許可しとくから、詩穂乃ちゃんの見通しを探っといてね。』
艦長は簡潔に指示した。
“あの子”なら出来る、そういう判断からだ。
天眼通02号は、今着艦してくるAITモビル1のサポートで21000m上空に待機していた早期警戒機。
“日本鬼子”が3機とも着艦してくるのを見守ってから天眼通も着艦する。
予定時刻は現在より37分後。
中央電子戦略統括室、航海士席、美人スタッフ数名。
「あの人、臭いのよね。」
艦長
「人の価値は見かけじゃないわよ、彼は詩穂乃ちゃんのメンテナンスファイルのチェックに毎日6時間はかけてるわ。おおめに見てあげなさい。」
「は~い!」
詩穂乃ちゃんは、任務の都合上、早期警戒機_天眼通のデータバンク直結のチャンネルをいくつも内蔵している。さっきまで天眼通02とやりとりをした詩穂乃ちゃんの通信ログをみれば、彼女が何をしていたかわかるだろう。
中央格納庫整備要員待機室、第一集中管制卓前。
年増だが、美人の艦長である。
気合いの入った返事を返した“狸山(まみやま)クン”は、 自分のナリはともかく仕事で無様な格好は見せられない、という自負はあった。
無精ひげ、ロン毛の肥満体とくれば“お決まりのイメージ”だったが、彼は純真で職務に忠実な男だった。
…愛しの詩穂乃ちゃん…今度はどんな不具合起こしたんだろ…
モニターを切って、ちょっとおやつのスナックをポリポリしながら、有能なデブ男くんは、愛おしさを押さえきれないように、所在なげに両手を動かしてから、一瞬遠い目をした。
“彼のような見た目”と“彼のような感性”を理解しがたい人間は決して少数派ではない。
しかし、寛容さは人の正しい資質を理解する助けになるという真理をもって、劣化市民革命によって進行する人心の荒廃をくい止める賢い手だてとする事は可能だろうう。
彼はキモい男だったが有能な男だった。
狸山は、ぽんたのドライブコントローラーに起動サインを入力した。
艦内通話用の専用携帯電話である。
見た目、二つ折りの携帯だが、50000pixの精彩資料キャプチャ用カメラ、衛星電話、軍事通話帯通信機、テラビット級ネットワーク、データ解析出力アプリケーションまで装備したハンドデバイスだ。
「ぷぴぴぴぴぴゃ、ぽ?」
「仕事だぜ、いくぞ」
「ぴぷぅ!」
たぬきのカラーリングを施した、見た目全く箱型のロボットは音も無く動き出した。
機体は向かい風コースに乗った。
F-3、3機、“小日本”6機、天眼通1機で構成されるAITモビル1の収容にむけて、ガイドビーム投影機、強制制動噴射ブロック、機体姿勢統括複合センサー…が次々と艦体構造部からせり出してくる。
『2分35秒後にAITモビル1、着艦開始します。』
着艦管制アナウンスが響きわたった。
同時に甲板上と艦内に和太鼓の音が鳴り始める。ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…
音声指示に邪魔にならないように押さえられているが、戦闘態勢に入った艦の緊張状態を維持するには最適だ。艦載機着艦時は、引き込み式の管制室が、すべての着艦機体視覚情報を仕切る。
せんかく甲板右舷側の一部をなしていた管制室がジャッキアップしてゆく。
フリッカーを持って待機していた甲板作業員がわらわらと駆けだしてくる。
ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…『甲板要員は速やかに配置についてください。02番機は事態コード131、各自“携帯”にて確認のこと』ドンつくつくつく…ドンつくつくつく…
1番機パイロットは、多面マルチのモニターを指でさわって、通話画面を切る。
F-3“日本鬼子”のモニターは一つだ。
タッチアクションの切り替えで瞬時に1面から12面マルチに切り替え可能。
現在は着艦進入機動制御画面。
正面数キロにせんかく船尾、自機からせんかくへむけた進入角他各パラメーターの変動が表示され、右上に現在の全周警戒モニターが待機している。
“日本鬼子(リーペングイズ)”の原義は中国人が日本人を蔑視する呼び名。
これを日本語読みで“ ひのもとおにこ ”と読み変える。
そのイメージは『黒髪、振り袖和服、般若の面、長刀(なぎなた)を構えた美少女』
F-3“ 日本鬼子(ひのもとおにこ)
”_失速後高機動空戦機(PSHiMaC) 航空自衛隊10機、海上自衛隊6機、アメリカ空軍2機(試験評価用)進空
F-3“ 日本鬼子(ひのもとおにこ)
”は、その呼び名を、全ての反日暴動を鎮める最強無上の真言(しんごん)として機能する全方位平和外交を支援する日本国最新鋭の機体だった。
1番機、2番機、3番機の腹面には、機体全面にわたり、日本鬼子の歌舞伎見栄が描いてある。
パイロットスーツのワッペンもそうだ。
1機の“ 日本鬼子 ”に対し、2機の無人戦闘電子偵察攻撃機(空戦ロボット)“ 小日本(シャオリーペン)
”が随伴する。もちろん呼び名は『シャオリーペン』ではなく『こ、にぽん』である。
1:2の比率で組まれた有人機と無人機のフォーメーションが絶対迎撃圏展開機動群の前衛打撃力を構成する。
2011年の東日本大震災を契機に、民主党政権によって、一気に表面化した『劣化市民革命(deteriorated citizens
revolition of democratic
party)』は、国民主権における国家的基盤の永続的浸食を具体化させた時点で、後世の歴史研究者の耳目を集めるところとなった。
民主党政権は、幻想的平和主義に耽溺し、日本国としてのその戦略的国家観の喪失は、果たして目を覆うばかりであった。
地域共同体治安の悪化、経済的資産の喪失、文化的独自性の損壊、政治的倫理の止まる事の無い溶解、偽善的イデオロギーの浸食による教育の荒廃…かくのごときの連続的国難を、国民が一丸となって受け止める機会を得た事が、この時代を記憶すべき最大のイベントとなった事は注目すべきである。
『劣化市民革命』は、イデオロギーのステイタスに依存しない。
高度ネット情報社会における人類としての種の疲弊である。
極秘裏に創設された暫定治安維持機構の戦略の根幹は、地球圏における人類の調和的存続を見据え、国家的同一性復興を機軸に確立した日本国国家創建計画にある。
最新鋭の装備と、先進的な人間性の定義がその基本的な戦略だった。
しかしまた、その実体は、その戦略に関わった個人の言葉によって、密やかに語られるのみである。
現在『空』に関わっている彼女の言葉によって、それはこれから度々、公式、非公式に語られていくだろう。
1番機コクピット。
「おに子01、これより着艦シークエンス」
『了解、ARC待機モード01で固定、14番スポットへのガイドビームに乗ってください。』
「了解」
管制室は完全にジャッキアップを終えている。
中を仕切る名物3人娘が、手際よく指示を流してゆく。
『『せんかく』500メートル圏内から近接風向きデータ送信開始します。現在のところベストコンディションですがスラストフルパワースタンバイでいてください。」
円形に配置された管制室の早瀬一尉の制御卓から、
甲板延長線上はるか海上に1番機の翼端灯の明滅が見える。
『ありがと、やっぱり緊張するわね、問題かかえているし。』
左京二尉が応えた。
「11番スポットは、緊急事態に備えて準備万端です。ご安心ください。」
『了解』
女性の編隊指揮官は、モニターの向こうで親指をあげて応えた。
おに子01_1番機は現在機速480km/h。仰角21度。
Fー4“日本鬼子”のエンジン噴射口まわりに設置された推力偏向パドル。
RCS減衰(ステルス)効果を実現するためにギザギザにカッティングされた『大』が2枚『小』が2枚。
パドル最大開位置_1回目は、4枚をすべて60度に開く。エアブレーキ角最大。
2回目、瞬間的に推力偏向パドル『大』を完全に閉じて『小』を120度完全に開く事により、小刻みに逆噴射をかけて減速してゆく。
機速は見る見る低下し、仰角を引き起こしてゆく。
機速121km/h、仰角35度。
前翼と全浮動式外翼が連動して、機体姿勢を安定させる。
機速72km/h、仰角43度、機体変形開始。
エンジンと一体化した両舷モジュールが、コクピット直後のジョイントで分離。
コクピットモジュールと左右のモジュールは、中央のY字型の連結機動肢を介して広がった。
主翼はエンジンモジュールと距離を保ちながら、全遊動式外翼の迎え角機動制御をうけつつ最適な迎え角を維持する。
機体の2基の『IHIXF5-5-5602511_爆縮流体圧縮エンジン』の運転音。
それは、推力重量比10.6/巡航推力6.65t/戦闘最大推力9.7t/全方位火器管制機動推力65.2t(75秒間)を叩きだす。
爆縮流体圧縮エンジン_戦闘用ターボファンのタービン前段に爆縮タービンを結合、双極螺旋形状の動圧管による求心的渦巻き流から生じる負性抵抗(負圧)を利用して爆発的に推力を増大させる。
『全方位火器管制機動推力』とは、地球上に存在するすべてのジェットエンジンでも、日本で開発されたこの機体にのみ実現可能な特殊モードだ。
空気取り入れ口が、爆縮流体圧縮エンジンの起動に応じて、龍の口のように変形する。
前方胴体下面にある複雑な回転軸を中心にして、胴体前半分が航空機とは思えないような形で折れ曲がり始める。
VTOL着陸時の折れ角は最大90度。
後部胴体(エンジン推力系)が直立した場合、中央胴体(コクピットモジュール)は回転軸を中心に前方へ最大140度折れ曲がる。
失速後高機動空戦機は、この機体変形を遷音速の飛行状態でも可能とするものでなくてはならない。
またエンジンストールを回避し、高機動時推力の維持を実現するために、強制電磁荷電式流体加速リングがアフターバーナーユニットに組み込まれている。
これにより致命的な緊急時の燃費上昇を押さえて推力維持をはかる。
また、被弾時、着水時などはこの前部胴体が救命ボートになり、F-3“日本鬼子”同型機は、この前部胴体を自機の胴体下に装着して収容する事が出来る。
機速42.5km/h。さらに減速中…
機体前半分は水平を維持し、機体後半分(推力偏向軸)は、変形回転軸を介して仰角52度。
推力偏向パドル作動筒に合わせて折り畳まれたVTOL時引き込み式接地橇(後ろ脚)が展開する。
機速25.6km/h、機体後半分仰角67度。
コクピットモジュール下面_30mmガンポッド”が後ろ側を支点に前方へせり出した。
まるで、猛禽類の脚である。
ガンポッドの砲口直後に折り畳み式の鍵爪があり、着地の橇、格闘戦補助、センサリング支援に使用される。高機動空戦時は、この猛禽類のような脚が、充電式レーザーガンポッドをつかんで振り回す。
『失速後高機動空戦機(PSHiMaC_呼称:ぷしまっく)』
戦闘機は前に向かってしか射撃できないが、この機体は機体自身を空戦機動中に変形させる事でその定義を根本から覆す。
同じ戦闘力を確保している機体に、台湾空軍の『経国・鬼神(発音:ちんくぉ・ぐいしぇん)_現在、先行試作機3機ロールアウト』
インド空軍の『Tejas・BRAHMAN(発音:てじゃす・ぶらふまん)_先行試作機(機動試験開始)1機_まもなくロールアウト』がある。
この時代、わが日本も、また先進同盟国である台湾や、南アジアで民主的価値観を共有する親日国インドが、かけがえのない国土を守るという国家的要請において革新的な防衛力を投入する緊迫した事態にあったという事は、改めて説明するまでもないだろう。
PSHiMaCは機体を失速させた後に、空中全方位姿勢制御に最適化した形になる。
その最適化形態が維持されるのは10~20秒間程度で、絶対的な射撃管制能力による敵戦力奪取後、元の機体形状に戻る。
「おに子03、着艦シークエンスに入ります。」
編隊リーダーが最終行程に入るのを確認して、3番機が続いて減速開始。
名物3人娘、桜川二尉の指示が返ってきた。
『了解、ARC待機モード01で固定、19番スポットへのガイドビームに乗ってください。』
『天眼通02号より介入!』
「え!?」
『空警2000』を中心に戦闘集団接近中!』
艦長が瞬時に対応を下した。
「まぁ、めざといわねぇ、」
若干、おっとりめの美しい大和撫子の繰り出した指示は的確だ。
「AITモビル2は発進待機!」
AITモビル1の着艦指揮をとるジャッキアップされた管制室へ視線を一瞬流した。
「AITモビル1着艦終了まではぎりぎり粘ってね、それから全天周索敵解析リンク、AITモビル1、2番機『いざなみモード』12%出力レベルで解析継続し定常出力。」
“小日本”が次々と着艦コースに乗る。
“日本鬼子”より一回り小柄な無人機は、着艦寸前に、大胆にもエンジンブロックを機体重心点下方に折り曲げて変形を始めながら接近する。
人間が乗っていないだけ、動きも敏速だ。
機体前半部が、エンジンの強制抽気制御でバランスをとりながら水をついばむ鶴のような形まで折れ曲がる。
甲板上の強制制動噴射ブロックのノズルが開いた。
ただし機体が小型なので、一番内側の一カ所だけである。
機体着艦と同時に変形した機体をやんわりと押し返すように、機体に噴射をあてて制動をかける。
制止した機体はすぐに、VTOL姿勢を解除、主翼が折り畳まれて、エレベーター区画へ牽引。
息もつかさず後続機が舞い降りて来る。
“日本鬼子”1番機は、『せんかく』の甲板上部へ進入した。
現在、機速9.88km/h
甲板員が、大きくオレンジ色のフリッカーを動かし、14番スポットを指示する。
この艦は日本人が日本を守るために動かしている艦だ。
14番スポット位置。甲板上部15cmで静止、ホバリング。
後部胴体空力中心付近:腹面/背面にある空戦機動用リニアスパイク型抽気ノズルからの噴射で、機体姿勢制御を行う。
推力偏向パドル最大開位置。
前部胴体コクピット脇の複合センサーが、VTOL時レーザートラッキング姿勢追随安定システムを起動させて、VTOL時のF-3“日本鬼子”の戦闘能力を維持する。
F-3“日本鬼子”は、VTOL(垂直離着陸)だけが売りの機体ではない。
超低速機動用のステルスウエポンベイ(エンクローズドポッド)を装備すれば、水平移動速度0(待機ホバリング)の状態で戦闘力を持つ希有な機体である。
「お疲れさまです、継原芙彌(つぐはら)三佐」
「ありがとう。」
1番機のパイロット編隊指揮官は女性。継原芙彌(つぐはら ふみ)三佐。
身長175cm。かなりきついウェーブのかかったボブカット。
●絶対迎撃圏展開機動群運用開発戦略顧問。
●継原詩穂乃の“身元引き受け人”_人工実存モデルパターンアソシエーター
知的でクールだが、愛嬌と冗談の通じる女だ。
草薙素子(くさなぎもとこ_攻殻機動隊元隊長)みたいな浮き世離れした冷たさは無い、というのがもっぱらの噂である。
*F-3 HINOMOTO_ONI-KO
*F-3“ 日本鬼子(ひのもとおにこ) ”_機体中央兵装ステーション(center weapon carriage)仕様
・口径2mmレーザーガンポッド
・30mmガンポッド+胴体内爆弾倉×2
・ステルスウエポンベイ×2
・増槽×2~4
・『失速後高機動空戦機(post stall hi-maneuvering combat vehicle_PSHiMaCプシマック)』
・現在18機が進空完了。
*暫定治安維持機構 provisional ORGANIZATION for MAINTENANCE of PUBLIC PEACE
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