MHASC“せんかく”2022年//07_I am OK,You are OK!

MHASC( エム・ハッシュ )“せんかく”2022年//07_I am OK,You are OK!/暫定治安維持機構



 20世紀後半から21世紀初頭にかけて、膨張の一途をたどる中国覇権帝国主義に媚びる日本の著名なマスメディアは、アメリカの独善主義を遙かに上回る愚かしいまでの媚中至上情報検閲を断行していた。

 2022年の現在、未だそれはやまない。

 第三国によって展開される情報戦における日本直接的支援は、媚中情報検閲を、情報権力としてより強固なもの、たとえば電脳空間における強固なセキュリティを張り巡らしたメガボリュームとして確立しようとしている。

 それは民主主義の機能検証停止と、人権の抜き難いマイナーチェンジに等しい愚行と言い換える事も可能だ。

 第三次世界大戦が、地球文明規模で進行する超巨大な非対称情報戦の様相を示している、と的確な分析を提示しているのは、未だに暫定治安維持機構のみである。

 暫定治安維持機構の戦略は、その地球規模で進展しようとしている愚挙をくい止めるところにあった。


 「彩実(あやみ)さま、おばんでございますなれ~~」


 機械の美少女は、天然系な笑顔で、両手を広げてポーズをつけながら現れた。

 まだ少しおぼつかない足取りのまま。

 よく聞くと、発声も変なノイズが混じっていて、エコーがかかっているようにも聞こえる。

 上半身は黒のタンクトップで、うなじから充電ケーブルが延びている。

 変な所に点滴をつけた患者のようでもあるが、本人はいたって気にしていない。

 「あらぁ詩穂乃ちゃん、もういいの?」

 「なんか、声が変よ。」

 狸山技術士官が、ぽんたといっしょに後から姿を現した。

 詩穂乃ちゃんのバッテリーを搭載したぽんたと、機械の美少女は、まだ充電ケーブルでつながったままだ。点滴台を自分でひっぱりながら病院をうろうろする患者のようだ。

 この機械の美少女は、充電中は何もやる事がないから、天然系の性格がもろに素のままになるようである。



 「みんなと早く会いたいっていうもんですから、充電途中で来ちゃいましたよ。」

 「あらあら、」

 「さっきのオーバーヒートで、上半身のリニアトルクコンバーターのいくつかに、動作不良をおこしているヤツが出てるんです。」

 「あ、声が変なのはそのせい?、対処は?」

 「番数チェックはすべて完了してるので、アライメント補整と、いくつかは交換でいけます。」

 「ありがとう、よろしく頼むわね。」

 「は!」

 機械の美少女は、技術士官と女性編隊指揮官のやり取りに、伏し目がちに照れるような表情をしている。

 きたるべき量子電脳と人間の仲立ちをするインターフェースになるべく、その使命を負った彼女は、そのための自分のあり方を充実させるために真面目に学習を重ねていた。

 彼女は、いつも支援記録用補助電脳と、自主学習用に分類された幾つもの外付け記憶巣(10~30テラバイトクラス)をバッグに入れて持ち歩いている。

 さらに彼女が自分で書いて使うノートもある。

 電子写植で打ったような活字のような手書き文字を書くのはいうまでもない。


 「まだ、腹八分目ぇ~~~」


 機械の美少女は、得意げに自分のバッテリーの充電状況を説明してみせた。

 自分専用の可愛らしいピンク色のパームトップを開いて見せる。

 「うちのおなかには4つ、バッテリーがありますなれば…」

 「へぇ、自分で充電の具合が分かるんだ」

 「これが充電ステイタスなんどすなぁ。」

 機械の美少女は自分の携帯を見せた。

 いや、それは微妙に似ているが違う。

 彼女の体内のシステムモニタリングデバイス。

 その中に、普通の携帯充電器の充電ステイタスに似たものがある。

 ただし、携帯の3段階(満タン/黄色/充電必要赤)ではなく12段階だが。


 そろそろ美少女をやめかけている亡命ウイグル人の美女は、機械の美少女の妙におかしい日本語を面白がって聞いている。二人は普通の人間の姉妹そのものだった。


 継原三佐は、自分の重い過去を当たり前の枕詞のようにして、同僚に差し出した。

 「あなたに、日本人とて生きて死ね、なんてあたしはいわないわよ。」

 「ありがとうございます。覚悟の量が問題ですよね。」

 「そゆこと!」


 現代は、人の死を背負う覚悟の無い政治家が徹底的に増えた。

 2022年現代日本が直面する最大の悲劇といえた。

 悲劇も喜劇も人生の単なる1ページにすぎない。

 この覚悟のある人間にしてみれば、因果の理(ことわり)を見据えた人間が、もつれた人生の糸の編み直しを、再び始めればよい。この上司にはその資格があった。

 その報告はまた後日届ける事が出来るだろう。


 継原詩穂乃は、つい、と視線をあげた。

 「うち、鉄腕アトム、嫌いどすなぁ。」

 「きゃははははは、いきなり何いいだすのよ。」


   爆笑


 「ひゃぁ、詩穂乃ちゃん、鉄腕アトム読んだんだ!」

 人間の女性二人は、腹を抱えて笑い、デブ男くんは、思いっきり吹き出しそうになった。

 機械の美少女は、人間であれば、単純に


 “あたしも意見を言いたい”


 ということにすぎなかったのかもしれない。

 概念予想解析モジュールの認識値計算に、13000パターン以上の基礎行動統括ファイルを蓄えて、常にその連携演算パターンを学習し続ける彼女の電子脳は、すでに人間としての、その自然なやりとりを演出する事が可能になっていた。

 むしろ、彼女ほどの感情表現すらも出来ない人間が増えているのが時代の気分といえるだろう。

 この子が可愛い顔をした電子計算機だ、という事は、この場にいる人間すべてがわかっていた。

 それは理性でけじめのつけられる認識だったが、人としての切なさも醸すものだった。

 「そ~よぉ、この子の休日のすごし方はね、国会図書館と大手書店めぐりと毎日3時間のネットサーフィンよ。」

 「んま!」

 「あたしが車でこの子のバッテリーと充電器積んでつき合うんだけどさ。」

 三佐は楽しそうに説明した。


 「すごい!でも、いいの?同じアンドロイドとして、そんな風に言っちゃうのって?」

 ウイグル人の核心をついた質問に、機械の美少女は、はんなりとした笑顔をたたえて真正面から応えた。

 「うちと鉄腕アトムは、同じアンドロイドやおまへんぇ、あれは人間はんが自分の願望を満たすため、人間はんの都合だけで作り出した偶像やさかいになぁ

…うちらのようなソシオンドロイド、 “人によりそうもの、人のための計算を続けるもの” とは根本的に相入れませぬものなりせば。」


 天然系で、いつも日本語もおぼつかないんじゃないかと周囲を不安がらせている機械の美少女は、珍しく長文の台詞を、人間のように言い終えた。

 「ふ~ん、なるほど、そうなんだ。」


 “ 心があるもの ” と “ 心があるように見えるもの ”


 との共同作業が、今よりもずっと順調にはかどるようになった時に、人の心はどうあるべきかという機会に、よき同伴者がいてくれる事を願った取り組みがここにある。

 それは、交換のきかないかけがえのないものを守る行為そのものだろう。

 生きるための計算を支援してくれる同伴者はすぐ身近にいるが、それでもなお、人間にとって最も理解しがたく、人間にとって最も容認し難い存在も人間であるはずだった。

 そして、常にその次へ1ページを残す事が出来るのも人間だけの仕事であるはずだった。

 知的有機体である人間の知性とユーモア、そして電脳の怜悧な判断力をバランスよく連携させていく作業が始まっている。

 ここから続いている道は、おそらく歴史に記録される価値のある道のりである。


 日本人の年齢非公開の美しい上司は、なんとなく言葉を続けた。

 「仲間なんて言葉、恥ずかしいけどさ、」

 「そうですか、あたしは好きですけど…」


 目元は、どんな時もウイグル式の装いを欠かさない3番機の女性パイロットは、当たり前のように言ってのけた。





                     終劇


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