#HIMIKO_2099//06_HIMIKO_02/Type-0 space observation machine
ひみこ2085年//06_聖地球連邦02/零式宇宙観測機
◆零式深宇宙警戒観測機、コクピット_深宇宙外殻護衛群先進攻撃先導艦01番艦ひみこ搭載機(二人乗りの深宇宙早期警戒機(通称:零観ぜろかん)
「で、出ました!地球連邦艦籍『空監65』級巡航艦」
「ビビっちゃだめよ、那珂乃大江(なかのおおえ)ちゃん、初めてじゃないでしょっ」
「はいっす、機長!」
濃緑色の機体の上下に1枚ずつ取り付けられたモジュール:超広域帯位相差解析感応電子葉が、航空戦力黎明期の複葉機のように見える。
それは機体がステルス巡航下にある現在も、ひみこを中心座標とした数十万キロの空間に、忌まわしき邪気を放つ物体の存在を求めて、自ら意志をもつかのように、回転し、断続的に発光し、角度を変え、ゆっくりと動いていた。
零観右舷下側方約125km見越し解析座標域。
「あいつ!?…」(零観の追尾解析映像01)
岩塊の影からそいつはのそり(?)と現れた。
ダン221の護衛か?
聖地球連邦_長距離次元深度哨戒艦…既知データ_『空監65』
全長:465m/全幅:65m/ペイロード:不明/
武装:30cm級線形力場加速砲×2、空間機雷敷設機能。工作員を潜入させる“急行”と呼ばれる迎撃ミッションあり。艦載機:“しろうるり”:6機/鬼蟹(GUI-XIE):24機
「鬼蟹(GUI-XIE“ぐいしぇ”)が出るわよ!」(零観の追尾解析映像02)
鬼蟹(GUI-XIE)(地球圏コードネーム)
全長:□□/全幅:□□/ペイロード:□□/乗員2_無人改造機多数
多肢機動戦闘機:手2本 脚4本/鬼蟹(GUI-XIE)A:初期型、機動継続時間25分
カタパルトから射出される機体を感知器で確認して
「“鬼蟹(GUI-XIE)-A”!」
タンデム復座の操縦殻をのせた丸まっこい本体から腕を二本、脚を4本生やしたそれが、後から後から隊列を組んで、発進甲板から吐き出されてくる。
「いちばん初期型じゃないすか、勝機ありっすよね」
「ばか、甘く見るんじゃないわよ…あいつらほとんど無人機のはずだが…」
「え?」
零式宇宙観測機956-655321の機長にして偵察士官大伴沙志星(おおとものさしほ)一尉は、目の前の空中に、指でバーチャルキーボードを引き出した。
shift JIS形式のキーの形に区切られた光のワイヤーフレームが空中に浮いている。
偵察士官の指の動きに応じて、微かにPI…PI…という音を弾きだす。
「25分しか動けないとはいえ…まずい…ヤツが出たわ…」
二人が注視するモニターに、それが姿を現した。
「“しろうるり”!」
「あいつに管制指揮をやられるとやっかいよ!」
紡錘型の艦体側面にアングルドデッキとして開口した発進甲板から、そいつは現れた。
(零観の追尾解析映像03)
鬼蟹(GUI-XIE)よりいくぶん遅い速度で甲板外界開口部へ姿を現し、甲板を離れると、番傘のような形をしたその機体は、傘の下から折り畳んだセンサーロッドをくらげの足のように広げて、先発した鬼蟹(GUI-XIE)の編隊に続いた。
早期警戒機/“しろうるり”(地球圏コードネーム)
2084年9月に鹵獲した機体。光世紀聖地球連邦高速次元展開艦隊第五基体組織、第09監察団所属13号機
全長:□□/全幅:□□/ペイロード:□□/乗員8(無人機仕様有)/空間機雷敷設艦、工作員潜入機としての機能もあり。
ステルスシステム☆可視光…射出展開式黒体輻射幕☆汎用電磁波帯…時差位相共振式反射吸収モード(機体変形あり)☆重力波、空間波…力場誘導デコイ(囮、20機搭載)地球側で“しろうるり”のステルス巡航に入った状態を見破る手立ては現在のところ存在しない。
ひみこ艦橋、零観からの報告受信。
『鬼蟹(GUI-XIE)は17機4戦闘単位の模様、鬼蟹(GUI-XIE)の編隊嚮導機(きょうどうき)に“しろうるり”が出た、ステルス化で力場誘導囮(デコイ)を4発発射、』
「艦長“父兄同伴”ですよ」
「こっちが“優位”だってことよ、押していきなさい」
“父兄同伴”、小惑星質量弾に戦闘艦が随行してる事。
『囮5発目以降は、こちらも確認できない、注意されたし、』
「了解」
「ダン221、時速2717500km/h突破…見越し演算01」
手入力で誤差修正
「見越し演算03…見越し演算06まで自動スクリプト」
「月並みな台詞だが、よく狙って撃ちなさいよ!」
砲術管制官、親指をあげて合図。
一番、二番主砲の照準管制器が、戦略解析担当官の制御卓にはある。
照準開始!
「見越し演算07」
手入力で誤差修正
「主砲1、2番発射!」
発射…その衝撃はわずかに“腹を押された”程度の圧を感じるほどだが、
6本の超重積型線形力場加速砲の砲身自体が発光し、瞬間30mほどの光球となってすぐ消えた。
「全弾命中!…」のはずが…「ダン221、瞬時に時速4659200km/h(秒速1294km)まで増速!」
見事に躱(かわ)された!
戦略解析担当官:新代圏八朗(しんだいけんぱちろう)三佐 (男、50代)が叫ぶ。
沈着冷静だが、ヘッドセット越しのしわがれた声は渋い。
「ひるむな、次弾装填!」
女性艦長は、ヘッドセットのマイクに手をやり、高らかに下令した。
彼女の声は、戦巫女(いくさみこ)の祝詞(のりと)のように、肉の耳へ響く。
「宇宙零戦隊は鬼蟹(GUI-XIE)を蹴散らし、ダン221を量子縮退演算誘導弾の照準エリアに追い込め!」
「了解」
「信長(のぶなが)、天翔(てんしょう)に電磁吸着鈎(でんじきゅうちゃくかぎ)をつけてゆけ、“拾い物”があるかもしれん」
「了解、楽しみですね」
「まぁな」
艦長補佐の艦橋付き武官はソシオンドロイドだ。
“拾い物探し”は彼にしか出来ない仕事だった。
彼女は続いて、迷わず目前のモニターに軽やかに指を舞わせ、機関制御室への通信ウインドウを開いた。
「1号弾(量子縮退演算誘導弾:りょうししゅくたいえんざんゆうどうだん)発射準備、室町、いけるな!?」
艦長からは、親子ほども年齢の離れた年配の機関技術士官は、不敵な笑顔で応じる。
『姫、まかせてくださいよ』
「よし!」
艦長の主制御卓下段前方に位置する副艦長席から声があがった。
「!…ひみこの量子縮退演算誘導弾1号砲は試作機です、出力調整盤の安定機構は1発分しか効きませんよ。」
「これは初めの一歩よ。たかみむすびといざなぎ2090の合流までにカタをつけたい。」
「はい」
地球防衛の重要な要の一つであるこの戦闘艦の中枢指揮スタッフは女優位の城だった。
その事がどのような意味をもつかは、今しばらくの物語が必要だ。
歴史をつむぐ言葉を、すぐ身近に用意する事ができるのは、男には真似の出来ない事もあるということは、今回の航海でもまもなく証明されるだろう。
最後まで語尾を明確に言い放つ艦長が、言いよどんだ。
「やまとの2号砲ができるまで…」
「は!」
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