#HIMIKO_2099//13_Advanced attack leading ship
ひみこ2099年//13_総員深く感謝する、先進攻撃先導艦/
「量子縮退演算誘導弾第二射近接モード、いや零距離でやる、221に接岸せよ!」
艦長がヘッドセットに右手をかけて怒鳴った。
「本艦はこれより高機動反動スラスターペレット使用による手動操船に入る。総員シート着座、立ってるやつの命の保証はしないぞ!」
普段閉鎖してある艦尾の巨大な6連反動推進ノズルが開いた。
レーザー爆縮による核反応エネルギーを磁場封じ込めノズルにより、ロケット推進として使用する。
同時に艦首、艦中央、艦尾に艦推力線に対して十字方向へ24基の機動バーニヤノズルが一斉に開口した。
「機関制御室、室町、ストライカーボルトの圧力を1/280に下げて機関全速後退準備のまま待機、お八重、02と01をまとめて刺し貫ける射撃軸線を探して」
『了解』「了解」
これより『ひみこ』手動操船を起動する。
モニターが前方へ移動し、左右の操縦把が立ち上がった。
視覚直結投影表示型ゴーグルをつけて両手で4本に分岐した操縦把の一本を握る。
操船の艦体姿勢に応じては、この4本を順次持ち変えて操船する。
副艦長は手につばをつけて所定の操船モードを準備した。
「まかせなさい!_『ひみこ手動操船システム“ことほぎVer02”』起動!」
機関制御室
「艦長、やる気っすね、室町さん」
「おうよ、2号弾、分子転換炉出力8600万で維持しとけ」
「はい」
「さすがにこの距離で弾に1億以上かけると、艦の後退推進力場起動時に、防御力場1、2階層が歪む恐れがあるからな」
「副艦長の手動操船の艦体ベクトル解析に合わせて、ひみこの後退力場起動ですよね。」
「そうだ、タイミングは俺が見ててやるよ」
たたかみむすび艦橋のモニターにそれは映った。
『すさのを』の純人形の(一見ボディビルダーのようにもみえる)機体は、ベルト弾倉をたすきがけに、さら に予備を丸めてバックパックに引っ掛けてある。
期待以上に搭乗者はやる気まんまんだ。
艦橋要員はあきれ顔で怒鳴る。
「とっつぁん、どうするんすか、そんなに」
『すげぇだろ、これだけありゃ相当やれるぜ』
「射撃は1回間隔10秒は維持してくださいよ、土蜘蛛の冷却システムは貧弱なんだから」
『そんな悠長な事いってられっかよ』
「だめです、死にたくなければ守ってください、もぉ…」
『わかったよぉ』
『ひみこ』艦体は221-03を追いこしてゆく。
不気味に太陽光を反射する岩塊が、目視でもみえる距離である。
危険きわまりないが、これが戦争だ。
「ひみこ、180度反転!」
どんんんんんっ…………どんんんんんっ…
右舷艦首と左舷艦尾に、巨大な反動高機動スラスターバーニヤの火球がともった。
艦内には、シートに身を固定していなければ壁に叩きつけられて骨折を免れない激震が襲う。
「現在221-03と距離7430m。」
「反動高機動バーニヤ、フルオートで連続姿勢制御!」
221-03への接近ベクトルが増大しているので、みるみる目視映像が巨大化する。
「現在385-03と距離2730m。」
「単分子力場伝導ワイヤー射出用意!」
「距離1980m」
取りつこうと狙いを定めた『ひみこ』を振り落とすように、221-03は激しくランダムな自転をくり返す。
「ダン221-03、ヒュオリント航法機動のクセ、98.487%まで再現してます。」
「慣性運動アルゴリズムシンクロ急げ」
「距離1640m」
『ひみこ』艦体接近速度がぐっと遅くなった。
「距離1500mで力場伝導ワイヤー射出」
「ひみこの艦体運動アルゴリズム、221-03の運動アルゴリズムと65%シンクロ」
「揺れまくるぞ、総員身体保持!ワイヤー第一弾12本、第二第三続けて6本とする!」
どぅん…艦が大きく左に横転した、艦橋先端部右舷側センサー着岩、擦過
「ワイヤー射出10秒前、9、8、7…」
ずん…今度は短く右、さらに大きく右…
「4、3…」
艦体前のめり、左舷前部2カ所、3カ所擦過…
「力場伝導ワイヤー発射!」
どどどどどどっ、どど、どどどどっ_それの発射音が、艦内に風きり音のような重い衝撃波として響きわたった。
『ひみこ』は、自らの艦体を盾にして突入岩塊を防いでいたので満身創痍だ。
ワイヤーはすべて一直線に伸びている。
「運動アルゴリズムシンクロ完了!」
『ひみこ』艦体は221-03本体に40度ほどの仰角ではりついたまま固定された。
「ワイヤー着岩、『ひみこ艦体』固定!」
1429秒経過
『いざなぎ2090』は、統合自衛隊深宇宙外殻護衛群:多目的工作支援艦いざなぎ2090としての船籍ももっている。
現在“いざなみ”『いざなぎ2090』航法管制量子電脳をメインサーバーに、暫定治安維持機構の主力量子電脳『羯諦(ぎゃたい-いち)Ⅰ』『羯諦(ぎゃたい-じゅう)Ⅹ』『ますらお4』『たおやめ10.87』他を接続して作業が進行していた。
google earth data 2085年度版データ…情報資産活性化拠点データ、おびただしいマーキングだ。
その数およそ22億4500万カ所。
やがていくつかのポイントに向かって膨大な量の情報が解析整理されてゆく。
量子共鳴場通信は、通常電磁波帯上では、理論上一切の盗聴が不可能だ。
それはきわめて俗な言い方で『超光速通信』ともいう。
1000基近い大形の量子サーバーをクラウドネット接続させた暫定治安維持機構の解析戦力部は、衛星軌道上に張り巡らせた高機動感知器(早期警戒機:高野聖こうやひじり)と地球上に存在する人類が電子器機を発明してから今までのすべての情報資産と、その時間的価値類推を総当たりでやってのけた。
その結果、導き出された座標点が正面モニターに描き出されつつある。
それ本体が、盗聴をしてジャミングをかけるのが不可能だから、『超光速通信』を行っているシステム本体の物理的痕跡を総当たりで解析して割り出したのだ。
1429秒経過
“いざなみ”(身長10cmほどの三次元空間動画):『いざなぎ2090航法管制量子電脳対人インターフェース』が両手の間に稲穂をはさんで合掌し、 恭しく口を開いた。
「ダン221外部誘導座標確定いたしました。申し上げます。東経123度11分北緯31度18分、大唐重工有限公司移動サービスプラントとありますが、中華聖連邦商工部所属の工作車と判明しております。」
「規模は?」
「40m級トレーラー5台、共鳴場通信用位相差合成次元レーダーは3号車に装備されている模様、運動変位なし、全システムは自動化され有機体走査反応なし。」
「よし、照準開始。」
「よろしおすぇ」
詩穂乃ちゃんの指が華麗に舞った。
『いざなぎ2090』は戦闘艦ではないから火器管制システムが無い。
それで制御用の臨時のプラグインを呼び出す。
ズーム画像。
「空き地に寄せ集めてあるみたいどすな。」
「どうせあそこは“幽霊しかいない国”よ、人いないでしょ?」
船長は、“わかりきった事”を改めて確認した。
「はい」
「土蜘蛛、一発目、いくぜ!」
どうぅん…(インターフェース経由の発射合成音)
土蜘蛛の運用は、基本、長大な銃身の接地面を必要とする静止狙撃姿勢だ。
しかしここにはそもそも銃身接地面に相当する場所が何もない。
「ニ発め…総理が大元を断ち切ってくれりゃ、こいつらはただの石っころだ、それまでにできるだけ砕いとかなきゃな。」
発射の反動は『すさのを』の機体全部を包み込むような光球となって、わずかに後へ揺れながら押し返している。
『すさのを』の機体に搭載された5基の発動機:慣性動向制御推進器/寿光(じゅこう)2533型は、土蜘蛛の反動吸収のために全力運転をかけていた。
「三発目!」
『とっつぁん、早い!もう少し時間かけて!!!』…『たかみむすび』から泣きそうな声が飛んできた。
「りょーかい…」
『すさのを』の土蜘蛛による狙撃は、一発ごとに正確に不気味に動き回る221-03を削りとっていったが、それでもまだ全体の8.6%にしかすぎなかった。
いざなぎ2090、緑色の熱帯魚のようなその船体は、朝焼けに遥か下方に輝く雲海に向かって船体を直立させた。あたかも地表に向かって逆立ちをするように。多目的工作支援艦は、小惑星誘導弾掃討のために臨時に主翼に荷電粒子砲を8基装着している。
「各粒子砲、時間差3秒…射角自動制御リンク完了…発射!」
火線がのびた。数秒後に爆発…
このトレーラーを並べた連中に肩入れしている勢力への憂鬱な対処が一瞬頭をよぎったが、いつもどおりカタはつくだろう。
大局を見ている人間に、おのずから道は開けるものである…
1655秒経過
「外部誘導座標点沈黙、沈黙しました。2号弾砲撃直前に、侵徹確定座標に艦を正対させ砲撃、直ちに後退離脱します。」
副艦長が、事態の打開を明晰な展望をもって締めた。
正面大型モニターに-01~-06の解析動画。
それぞれの表面でのたくっている人間の内臓じみた自在遊動慣性航法制御システムのスキャン画像が表示されている。
自在遊動慣性航法制御システムの中に無数に存在する重力制御ユニット群が、誘導を断たれて推力を失い、次々と停止していく様がみえる。
運動ベクトル解析表示が、『標的活性機動』から『残存慣性機動』に切り替わっている。
「やったな…」艦長は左手の拳を握りしめた。笑みが浮かんでいる。
高機動バーニヤフルオート運転開始。
ひみこの艦体各所に、力押しの光球が連続的に現れては消えてゆく。
『たかみむすび』艦橋
「沈黙、外部誘導沈黙です、『ひみこ』が2号弾撃ちます。とっつぁん距離を保って!」
『おうよ』
『すさのを』が機体前方に分子傘を展開した。
1655秒経過
「侵徹確定座標維持に、機動バーニヤ運転スクリプトを同調。」
“ひみこ”の懸命の支援で、副艦長の手間は若干減りはしたが、221-03のもとから存在している慣性運動量が減ったわけではない!
「量子縮退演算誘導弾2号弾、発射90秒前!…
(艦長はヘッドセットのマイクに指をあてた)
「総員に告ぐ、量子縮退演算誘導弾2号弾の発射をもって呪わしき地球連邦の力は粉砕されるが、本艦は外殻護衛群先進攻撃先導艦としての攻撃力の大半を失う。以後スタンバイの『ちしま』『たけしま』『せんかく』に任務を引き継ぐが、交替するその時まで先進攻撃先導艦乗組員としての任務を全うしてほしい。そして…総員、ご苦労だった。深く感謝する、以上。」
1711秒経過
艦体激震1度、2度…
「2号弾照準管制器展開!」
この作戦では最後になる行程が、艦長席に恭しく展開された。
『艦長、ストライカーボルト圧シミュレーションでまだ“高い”と出た。1/420まで下げる。』
「まかせた室町!…お八重!?」
「もうちょい、もうちょいよ」
「2号弾加速シークエンス全統括スクリプトを艦長席に移行、重力場干渉加速器誘導子は出力12%で運転」
「-01と-02が-03と交差する軌道シミュレーション秒読み開始、準備して!」
副艦長の声が響いた。
「10秒前…5、4…」
艦首発射口と385-03の表面まで30mで固定!『ひみこ』艦橋からみた全天の星は(投影絞りを調整すれば)暴れ回る385-03の軌道にそって、悪性の宇宙酔いを引き起こしかねない動きをしていた。
交差点が近づく。
「3、2、1」艦長は、照準管制器の引き金を絞る。「量子縮退演算誘導弾2号弾、発射!」
1851秒経過
その光球は、『ひみこ』艦体すべてを包んで瞬時に10km以上の大きさになった。
「起爆スクリプト連鎖反応最終段階突入確認」
機関制御室「機関後退全速、艦首部分防御力場予備電力全投入」「ダン221、破砕確認、エネルギー変換91.75%確定です!」
“こんなものか…”髪の長い女性艦長は、額の汗をぬぐい、自分に対してため息をつくように思った。
「残りカスもきれいにかたずけろ、無茶を承知の零距離射撃だから言い訳はたつが、我々の任務はまだ完了していない。」
『いざなぎ2090』から見て、遥か下方、粉砕された外部誘導座標点の爆煙(ズーム画像)が偏西風になびいて、ゆっくりと大平洋上へ流れている。
聖地球連邦に忠誠を誓う輩がいる限り、今回のような外部誘導地点は、極秘裏のうちに作られ続けられるだろう。
「これで少しは地球は平和になるんでしょうか、あねごはん?」
「そうなったらいいねぇ、まったく…」
1881.00秒経過
「スタンバイの『セジョン1』と『AL-25-01』の支援により壊滅的被害を招く恐れのあるものはすべて砕かれました。3M級3、1m級12、 20cm級45が東シナ海全域に着弾予定コース!」
「那覇に待機の『せんかく』に打電、“最後の詰めをよろしく”と」
「了解」
★現用宇宙戦闘艦艇船籍★
セジョン1
大韓連邦宇宙防衛艦隊旗艦、旧船籍、統合自衛隊『からくに』内惑星高速護衛群所属07番艦
武装_超重積型線形力場加速砲、3連装×2、速射荷電粒子砲6基、速射対空レーザー砲14基
艦載機:6
AL-25-01
合衆国宇宙軍迎撃レーザープラットフォーム
武装_超重積型線形力場加速砲、3連装×1、速射荷電粒子砲4基、速射対空レーザー砲36基
1945秒経過
着信音!そして、
『左京先生、』
「はいな」
艦長からだ。
首筋の皮膚に直接貼付けてある見た目菱形のインカムモジュールに指をあてて、『交信』にする。
ウェーブのかかった派手な髪が揺れる。
『鬼蟹(GUI-XIE“ぐいしぇ”)の有人機を捕まえてある。』
「おぉ、お客さんだねぇ」
『パイロットは一名、もとちゃんと柴助をつれて急行してくれ。』
「了解」
艦橋からの要請に、待ってましたといわんばかりに、女医は手製の梅酒をぐびりとあおって、救急医療コンテナのショルダーをかつぐと駆け出した。
彼女は酒飲みだが、呑まれない。
彼女以外にあまり推奨は出来ないが、これも一種の健康法らしい。
結果として、信頼を勝ち得て業務に結果を出せているからいいのだ。
外宇宙第三種船内宇宙装の緑色の女性用複層ボディスーツの上から医療白衣を羽織った姿に、ひいき目にみても水商売風にしか見えない髪型は、どうみても普通の医療従事者のイメージを削いでいた。
見かけの異常な派手さ加減は艦長以上だったが、『女性の美は銀河を平和にします』という化粧品会社のコピーを地でいくあでやかさだ。
実際に統合自衛隊宇宙護衛群がCM作成に全面強力している。
彼女がこんな格好で仕事のプロフェッショナリズムを発揮出来るのはそういう背景があるためである。
生活環境施設官(医務官)左京冴子(さきょうさえこ)一尉。
彼女は人間の医者だが、ソシオンドロイドのメンテナンスも担当する。
「先生、よくお飲みになりますねぇ。」
ソシオンドロイドの女性アシスタントも、先生よりさらに一回り大型のコンテナをかつぐと一緒に走りだした。
「こんなのただのウォーミングアップよ、いくわよ」
ソファの上に寝そべって、あくびをしていた猫の柴助(しばすけ)、主の出動と知るや、たぽんたぽんの腹を揺らせて飛び降りた。
た・た・た・た・た…と主人の後を追いかけて走りだす。
しかし、基本がデブ猫なので、猫としてのプライドを見せつけるような走りができない。
彼は、コンパニオンドロイドキャット。
外宇宙緊急医療従事無機知性体である。
猫の形をした医療支援器機だから人間の言葉は(生意気なくらいに)よく喋る。
左京一尉との付き合いも長く、デブである、という事に関しては、本人(猫)も考えるところもあるようだ。
で、ぴた、と立ち止まる。
何を思ったのか、脚内蔵の電磁推進制御翼(大きさは5cmくらい)を開くと、四つ足のままホバリングを開始した。加速。
「柴、やめなさい、それやると電池食うんだから。」
「オリは一番乗りして仕事したいにゃ。」
「気持ちはわかるけどさ、格納庫にあんた用の充電ソケット無いんだよ。」
「うにゃぁ、急ぐにゃぁ~~~~」
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