ひみこ2085年//14_次世代01/光世紀聖地球連邦


 ◆1224秒経過



__女医は格納庫に急ぎながら、女性アシスタントに声をかけた。


 「ねぇもとちゃん、昔、畏れ多くも皇居の一角にミサイル打ち込まれたの、知ってる?」


 「え~~うそぉ~~」

 「あなた、歴史苦手だったっけ?…あ、そうか、あなた調整スケジュール完了してないのに人手足んなくて、ひみこに配属されたんだっけ」

 「そうなんですよぉ、だからわたくし、まだ右も左もわかりませんの。」

 柴助は電磁推進で、つい~っと空中を飛びながら

 「なぁ~ご…よくお勉強するんだにゃ、もとにゃん?」

 「(むかぁ…)」

 ソシオンドロイドは量子電脳の端末として機能するために【人工実存】を搭載しているが、

『柴助』はコンパニオンドロイドなので、量子電脳端末機能が無く一段格の低い【人工知能】を搭載している。

 人間と普通に会話でき緊急医療行為も出来るが、有機体人格活動支援などの高度な命題は無理。

 猫の属性も再現してるので興味が無いとすぐあくびをするが、看護ドロイドキャットとしての腕は優秀である。


 「当時の陛下はご無事だったらしいけどね、かれこれ68年は前の話」

 「まぁ、」

 「食う物も食わずに、あんなモノが落下して来るのを食い止めるのに命をかけなきゃならないのよね…」

 「…」

 二人と一匹は、艦載機格納庫の通用口から駆け込んだ。

 一番息を切らせていたのは当然左京先生。

 「先生、運動不足だにゃ」「うるさいっ!」




 ◆1264秒経過



 鹵獲した『殲-021』号機の前にパイロットが引き出されていた。

 パイロットは男性。


 「柴、未確認細菌汚染防御」

 「ぐるる、にゃごっ!」

 特殊環境随行型コンパニオンドロイドキャットの三角形の耳の後が扇のように開き、防疫用の微械(ナノマシン)を放出し始めた。

 人間の体液に感染型のナノマシン兵器:ウイルスを載せるのは、太古の昔から戦術の常套手段である。

 すまし顔の猫は黙って散布されているナノマシンの情報サンプリングを高速で処理している。

 「今のところは安全だにゃご、」

 猫は、男から視線を外さないまま報告した。


 男を取り巻く陸戦隊は人間士官2名、ソシオンドロイド6名。

 武装隊員の装備は、最大出力で起動している携帯型力場盾と75式鎮圧銃(パルスレーザー&実体弾複合)



 「官姓名を名乗りなさい。WHAT IS YOUR NAME AND YOUR COMMAND GROUP?」



   無視…



 男はいきなりパイロットスーツを脱ぎだした。

 長髪で切れ長の目、均整のとれた筋肉質の美しい身体。

 男の口元に浮かんでいるのは間違いなく嘲笑のようだが…意味不明の男の行為に得体の知れない緊張が、重く広がった。

 男は、瞬く間に全裸である。


 「ここは暑いな、暑くて汚れている。」


 なんと!…男が口にしたのは日本語だ。


 ちなみに光世紀聖地球連邦の公用語を『地球市民語』という。

 言語基体は、英語、中国語をベースに電脳言語を中心にして組まれたものだ。

 鹵獲(ろかく)した光世紀聖地球連邦の機体の表示は中国語を基本にしていたから、解析不能なものではなかったが、航法管制、推進系に未解明の技術的なブラックボックスが未だ多くあるのは予断を許さない事だった。




 「この男、“キャリア”だわ」女医は、直感から来るものに職業的経験をもって断定した。


 「“キャリア”?」

 「んなごっ!」

 医療ドロイドキャットは、事情をすべて知っている。

 彼は猫語で会話に加わっている。

 「“聖地球連邦”は人間の身体に人権なんかこれっぽっちも認めてないわよ」


 「ぐげっ」


 男は、派手なえずきとともに何かを口から吐き始めた。

 固形物のようだ…

 裸の男の様子は、およそ戦闘に無縁な事として確信できていたから、あつめているまわり視線は、徐々に好奇の度合いを増していたのは事実だ。

 沈着冷静な量子電脳の端末であるソシオンドロイドですら、理解不能の表情をクールな視線の基に固定している。

 裸の男はそのまま左膝を床について、立ち膝の姿勢になる。

 男の顔は、口から吐き始めたものが顔の下へこぼれないように上を向き始めた。

 口から吐き始めたものは、始めは赤黒くぶよぶよと拡大して、次第に灰青色になると、そのまま平べったく拡大して、なんと10cm角ほどのモニターに

なった。

 モニターは点灯している。

 モニターは、このパイロットの喉の奥で、何かとつながっているようだ。

 この全裸のパイロットは、口から有りうべからざるものを吐き出したがまだ生きてはいる。

 立ち膝をついたまま股間にあるものは激しく怒張していた。

 男は涙を流していたが、苦痛に由来するものではないようだ。


 「う…あいつらは人間のすべての生存情報をチップに記録しちゃうの、で、人間として仕事をさせる時だけその情報を専用の肉体にダウンロードするの、それがあいつよ。」


 女医は、武装した陸戦隊員の疑問に、気色悪いショーを注視しながら応えた。

 「そんな事あり得ない…ソシオンドロイドじゃあるまいし。」

 ソシオンドロイドの隊員自身が言ってる台詞だ。

 地球環境の調和的復興に日夜全力で運転している数々の量子電脳に、自らの電脳を気軽にアクセス出来る特権をもった彼らのこれが“本音”だった。




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