ひみこ2085年//15_次世代02/“情報搬送体”
◆1811秒経過
男が口から吐き出したモニターは3次元表示を可能とする複合型のようだ。
“それ”が画像を結び、喋りはじめた。
“それ”は髭を蓄えた老人の姿をしていた。
「諸君らは救われない…」
「なに!?…」いきなり間の抜けた切り出しに、武装した陸戦隊員の何人かから言葉が漏れた。
「諸君らはカオスと汚辱の中に生きている。その事はまことに同情に値するが、人間存在の限界である汚れた肉にこうも愚かしく執着を示しているようでは、その救い様の無さをもって、我々光世紀聖地球連邦が、輝かしい人類の歴史の1ページを書き足すことにしたい、と願うものだ。この願いこそ至上であり至高である。みたまえ、諸君らのカオスの醜悪さを」
男が口から吐き出したモニターの上で喋っていたそれの頭上に、さらにいくつかの投影型モニターが現れた。老人は言い含めるようにセリフをつなげた。
「見たまえ、これが諸君らの閉塞した有様だ。」
投影型モニターはすべて5つ
◆1811秒経過
1つめ 【光世紀聖地球連邦概要】
通称“光世紀聖地球連邦”連邦公式発表値 人口4,765,600人。
ただし生存確定データとしてこの数字の信頼性は極めて、実数値はこの1/10程度ではないかと言われている。居住圏(公式発表)、光世紀聖地球連邦最
高評議会を中心として半径500光年…
2つめ 地球民主平和連合代表:梨本勝太郎氏
『連邦(光世紀聖地球連邦)の光創世代覚醒政策に反対し、自らの意識改革に取り組もうとしない権力者達が不名誉な拉致事件を作話し、連邦(光世紀聖地球連邦)の権威を貶めて犯罪国家扱いしようとしている。
連邦(光世紀聖地球連邦)は、我が地球圏文明の遥かなるパイオニアとして、我々が学ぶべき無数の価値を発見してきた。連邦(光世紀聖地球連邦)は、来るべき汎銀河文明に我々が…』
3つめ 産経新聞2085年5月18日『正論』
『…連邦の国力は、現時点でも地球圏の1/12500であることは明白である。マスメディアに流された地球連邦のプロパガンダを払拭し、光創世代覚醒政策(ひかりそうせだいかくせいせいさく)が想像を絶するおぞましき計画であるとの一般的な見解をいち早く構築して、明解なビジョンを与えることが我々
の使命であることを認識している。…』連邦の動向に詳しい軍事評論家:佐伊樹伸夫氏
4つめ
“光世紀聖地球連邦最高評議会”は、地球から6光年の距離にある大型居住船の結合体にあり、2084年現在の構成は最高評議会議長以下135名の評議員により構成される。人的支援を100%必要としない自律循環型生産プラントを数百機保持しており、その70%近くを、防衛戦力維持のために割り当てていると思われる。
5つめ 共同通信2085年3月31日
『ついに連邦行政府直轄声明文を入手』
『地球の調和的かつ進歩的統治者であるわが光世紀聖地球連邦の提唱する真に革新的な光創世代覚醒政策は、人類の叡智の結晶であり、死を永遠に克服することによって、人類の存続を恒久的なものとならしめた。太陽系第三惑星における頑迷固陋なる守旧派は、やがては…』
1841秒経過
「我々の事を諸君らがいくら極めてみた所でどうにもならない。」
その老人の台詞は、地球圏全土で繰り返される拉致、量子レベルでのサイバーテロを繰返す“地球連邦”の恐ろしさをある意味端的に語っていた、といってもよい。
「我々は神で、銀河の創造主足り得るものだ。かくなる至高の存在を目の前にして、諸君らの卑小さをとくと噛み締めるがよい。」
陸戦隊の数人が、火器を握り直した。
冷静なソシオンドロイドが動揺している。
「野郎、黙って聞いてりゃいい気になりやがって」
「待て」
萩原(宇宙戦車:たけみかずち741車長)が、声をあらげた隊員を制した。
髭の老人は、得体の知れない笑顔を浮かべて両手を広げた。
「どうだ、素晴らしいではないか、単なる道具にしかすぎないこの“情報搬送体”ですら、純粋に精神人格知性情報構成体に昇華した我々の存在に奉仕する喜びにうち震えている。」
口からモニターを吐き出し、上を向いて、かっと口を開いたままの顔の上で、好き放題喋らせていた裸の男の顔には涙とよだれが溢れていたが、老人の指摘に応じるように口が動いた。
「あぁ、わが光世紀聖地球連邦よ、永遠なれ…」
異様なものを口から咲かせている割には、以外と声ははっきりしている。
“地球連邦”は、肉体そのものに一切基本的人権を認めない。
この裸の男の姿にはその“国是”が手にとるようにわかる状況といえるだろう。
「これが人の世に喜びを確定化させ、人類の永遠の幸せを作り上げるのが、わが光世紀聖地球連邦の光創世代覚醒政策である。」
地球圏本土と根本的に相容れない虚無の政策を、老人は愛おしむように天空を見つめて目を細めて宣誓した。
「見るがいい、この“情報搬送体”の歓喜を!」
「!?!?!?…」
なんと、裸の男は指を固く絡み合わせて合掌し、股間の固く怒張した部分からは、男の生命の躍動を証明するかのように白い液体が激しくほとばしり、その衝撃に耐えるかのように男の身体はがくがくと震えた。
「この歓喜こそ諸君らへの唯一の救いである。」
…
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