MHASC“せんかく”2022年//04_天眼通
MHASC( エム・ハッシュ )“せんかく”2022年//04_天眼通/暫定治安維持機構
早期警戒機_天眼通(てんげんつう)が着艦する。
二人乗り。最大時速は700km/hにして、巡航限界上昇限度27000mを誇る超高高度巡航能力をもつ艦載機。
機体色はシアン(空色)40%に、明灰白色の迷彩で、低視認性日の丸を翼に描く。
ちなみに垂直尾翼は無い。
上半角5度、後退角15度、ねじりさげ-2度の主翼と、主翼幅の1/2の前翼で機体を飛翔させる。
全幅80mもの恐ろしく縦横比の大きい(細長い)主翼をもった機体だ。
機体中央部に胴体に融合する形で大型レーダードームを持ち、レーダードームセクションの外側にレーダー反射効果を押さえた形のエンジン収納部が収まる。
『天眼通02号機、これより着艦します』
管制室から甲板要員へ外部アナウンスが響きわたった。
早期警戒機からの返信に、管制官3人娘の声は緊張した。
「強制制動噴射ブロック1号から4号まで全開します。」
機体の翼幅があまりにも大きいために、発艦時は、翼端側折りたたみをしたまま電磁カタパルト射出後に、空中で翼端側の主翼折りたたみ機構を伸張し、着
艦は、タッチダウン/電磁拘束機展開と同時に、翼端側折りたたみを8秒で完了、甲板上の強制制動噴射ブロックを併用して制止する。
「電磁拘束機起動」
早瀬が、タッチパネルに指を舞わせた。
次第に闇が濃くなる海原に、天眼通02号機の幅広間隔の明滅する翼端灯が見えてきた。
起動状態に入った甲板上の電磁拘束機の運転指示灯が点滅を始める。
「タッチダウン秒読み開始…10、9、8…」
『いくぜっ!』
機長の気合いが入った。
「4、3、2、1、タッチダウン、電磁拘束最大出力!」
ぎきゅっ!_____
「よいしょぉ!」管制室3人娘も思わず声を合わせた。
天眼通02号機の主脚タイヤが一瞬悲鳴のようなきしみ音をあげたが、次の瞬間見えない網に絡めとられたようにふんわりと止まった。
『お疲れさんしたぁ』
モニターから管制室にねぎらいの台詞が届いた。
「きゃー、お疲れさまですぅ」
天眼通02号機機長は、それなりにいい男である。
技術士官_狸山(まみやま)は、把握した状況について順次説明を始めていた。
機械の美少女は充電中。
意識(起動ステイタス)はブラックアウトしたままだ。
機肺の冷却システムは稼働しているので、安らかな寝息をたてている。
「この子(詩穂乃ちゃん)はえらいねぇ、昨日のJ-20(人民解放軍ステルス機)の侵犯軌跡を、今日の演習空域に沿った対応機動シミュレーションに
136通りも自分でパラメーター設定して計算してたんすよ、」
技術士官は、LAN接続で出力したデータをパームトップに出して女性士官にかざして見せた。
「まぁ!それで知恵熱だしちゃったわけ?」
「そゆことです。」
「『せんかく』級2番艦“ふてんま”の建造が始まったじゃないですか。」
「永田町ではすでにあることないこと大騒ぎ始めているみたいねぇ。」
女性戦略顧問は“我関せず”とでもいいたげな表現でフォローする。
こういう時は、知ってる事をすべて話せばいいというわけでもない。
「米軍とのからみは、これで願ったりかなったりのはずなんですがねぇ、案の定、建造差し止め訴訟始まったでしょ。」
「盛り上がってるみたいね。」
「それにあわせて沖縄の左翼政治団体セクトからJ-20の侵犯にあわせて電波管理法違反の送受信が続いてる事、詩穂乃ちゃんの検索ログでつきとめてた
みたいなんですが。」
狸山技術士官は、時事政治情報通でもある。
「宛先は当然、中国の沿岸武装警備隊ね。」
「は~…そのとおり…」
「人民解放軍に沖縄駐留を呼びかけてる“○対(まるたい→要監視治安撹乱分子)”には、張り付きやってるんですよね。」
「もちろんよ!」
技術士官のまとめは、シンプルで有効であり、戦略顧問に有益な示唆を与えたようだ。
詩穂乃ちゃんは、自分の判断で自分の行動を決める事ができる。
「この子の電子脳、そこらの大型サーバーを片っ端からまとめあげて戦闘クラウドサーバーにしてしまう能力もってますからね、」
「うん…」
継原詩穂乃の開発段階から関わってきた戦略顧問としては周知の事実だったが、現在は実用テスト段階だ。様々な問題に直面するのも想定済みの事項だ。
『いざなみモード』が発動すると、『暫定治安維持機構:国際平和研究所主任研究員_継原詩穂乃』の名前で、ありとあらゆるSNSの暫定治安維持機構の
検索ロボットが確保しているすべてのインターネット情報リソースに、作戦の現状報告が自動的にアップロードされる。
もちろん、これは『いざなみモード』のほんの一部に過ぎない。
goo_______『本日17:21頃、八重山諸島近海で演習航海中のわが国海上自衛隊先進指揮護衛艦『せんかく』に人民解放軍による異常接近が発
生しました。我が方は照明弾2発による威嚇射撃をうけましたが、安全な距離で撃破、以下に現場からの記録映像をお届けいたします…』
yahoo__『本日17:21頃、八重山諸島近海で演習航海中の…』
mixi ___『本日17:21頃、八重山諸島近海で演習航海中の…』
twitvideo__『本日17:21頃、先進指揮護衛艦『せんかく』現場からの記録映像をお届けいたします…』
…
「冷却が能力にみあってなくて貧弱な部分、どうにかしてあげないとまずいっすねぇ…」
「う~ん、そうかぁ…」
「冷却翼展開は『爆発回避』でしょ?」
「そうよねぇ、」
「保冷剤、ボストンバッグに入れて持たせてあげます?」
「それじゃ、真夏の道路交通誘導じゃない…」
女性編隊指揮官は、わずかに眉をしかめた笑顔を浮かべた。
「…それだけじゃ持たないと思うんですけどなぁ…」
「そうよねぇ…」
技術士官のもっともな説明に女性編隊指揮官は、うなずいた。
「おぅ、お疲れ、技師長。」
「あ、藤木源之助一尉。」
「フルネームで言うなっての…、」
今しがた着艦終了した早期警戒機、天眼通02号機、機長だ。
身長190cm、男性にしてはかなり長い髪。後ろで結んである。
柔道5段にして、その他もいくつかの格闘技有段者だが、物腰は実に柔らかい美丈夫。
「すんません」
「それとそうだ、天眼通のデータバンク、何か役にたったか?」
天眼通のパイロットスーツは、上下黒が基調になっている。
それで、この涼やかな眼差しだ。
管制室三人娘は熱狂的なファンであるのは周知の事実だ。
「有り難うございます。詩穂乃ちゃん、また“自主学習”してたみたいで。」
「そうか、よく学ぶ子は国の宝だぞ!」
「そうっすよね。」
狸山技術士官は自分の事をほめられたかのように顔をほころばせた。
“日本鬼子”の女性指揮官は立ち上がった。
「顔、きれいにしてあげてちょうだい。あたしごはん食べてくるわ。」
充電中で、すやすや眠っている美少女ソシオンドロイドのきれいな丸顔は、すすと油とほこりで汚れていた。
「はい(詩穂乃ちゃん専用の化粧セットを貸す)」
「ありがとうございます。嬉しいっす。めいっぱいきれいにしてあげるっす。」
狸山、ぽんた(見た目ただのタイヤ付きの箱)を抱きしめて涙ぐむ
「なに涙ぐんでるのよ…」
女性指揮官は、可愛くいぶかる。
純真にして有能なデブ男くんは直立不動の姿勢に硬直して敬礼した。
「も、も、もも、も、申し上げます!当官は、『せんかく』詩穂乃ちゃんファンクラブ会長でありますっ!!!_ちなみに現在会員35名!_」
「あらぁ、よろしくね。」
継原芙彌(つぐはらふみ)三佐は、優しい笑顔でその場を後にした。
彼女は、ハートマークの投げキッスが似合うかどうかは微妙な歳だったが、それを面と向かって詮索しようものなら…以下企業秘密…
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