#HIMIKO_2099//04_NAGATA-CHO_04/Report_2100_10

ひみこ2099年//04_永田町04/国際平和研究所定期報告書2096年10月刊



 暫定治安維持機構 『国際平和研究所定期報告書_2086年10月刊』より抜粋


 2100年の今日、近代日本文明史的行為として戦争を論じる21世紀中半の歴史家による解釈においては、2001年9月11日をもってその起点とする第三次世界大戦は、2030年代後半までにおおよその集結をみたとしているのが一般的である。


 全地球規模で展開された惑星圏非対称情報戦ともいうべきこの大戦は、地球上の人類居住域すべてを巻き込み、慢性的な経済生産流通遅滞という病弊を残す事で、2038年前後、予想に反して極めて穏やかに終息を迎えたかに見える。

 自己同一性の相互確証破壊を戦略として中核に据え、量子電脳の実用化に伴い、究極的に先鋭化する電脳戦と、むしろその補助戦と化した戦略的軍備の機動力の詳細については、現代史の通説として、いよいよ起動し始めている『第四次世界大戦』への序章として語る事が出来る。

 まさにこの作業は、歴史認識において我々が喚起せざる終えない理性的認知力の確かさの現れというべきだろう。

 『第四次世界大戦』は、今日、以下に伸べる地球圏と地球連邦との継続的紛争を中核とした恒星間大戦としての様相を帯びており、第三次世界大戦における思想的背景を、その歴史的意義にそった理解の要として準備して置く事は、大いに推奨される。


 2042年の上海事変を期に始まった注目すべき流れは、2055年4月の初の量子共鳴場高次算定駆動システムの実用化により、大型宇宙航行船舶の5光年の航法を約4ヶ月で達成可能としたこと、及び、2056年12月の『光世紀聖地球連邦建国宣言』この二つをもって、現代日本史(2090年代)として評価すべき潮流とする思想的アプローチは注目しておいてよい。


 彼ら“地球連邦”は、地球より数光年離れた空域に自動プラント船を多数定置させて、政治中枢及び生活拠点とし、人間の生物学的実存的存在を電子的に変換して、『精神人格知性情報構成体』となす光創世代覚醒政策を国是として標榜した。

この経緯は、当初は“何かの間違い”で済ませるつもりの地球圏首脳部の思惑を、その後の歴史的経緯として、結果的に見事に裏切ったといえる。


 彼らの宣言するところの『地球連邦』とは、彼らのプラント船を中心座標としたおよそ100光年の領域座標である。

 地球圏は、彼ら地球連邦の中の小さい1区画にしか過ぎない。

 2057年3月の国連による『光世紀聖地球連邦独立宣言』特別決議案の満場一致による否決によって、“不穏なる10年”が始まるのは周知の事実である。

 2057年2月に光世紀聖地球連邦と相次いで通商援助協定を結んだロシア連邦と中華人民共和国は、この数年の後に国家的求心力を完全に失って瓦解する。

 『光世紀聖地球連邦』の国家創建過程に、この2国の政治的有志、及び多数の権力機構が関わっていた事は、別項として語る場を設けなければ、今回の報告の背景をより完璧なものとする事は不可能であろう。


 編集主幹 喜多川博幸 多摩環境工学大学、宇宙環境調整学部準教授



 光世紀聖地球連邦…読み:ひかりせいき-せい-ちきゅうれんぽう_通称略:地球連邦(ちきゅうれんぽう)



 不老不死永続生命研究機構、関連メモ


 2042年_アーサー・フォン・ヒュオリント先進科学財団:キエフ

 初めて人間の全実存的人格構成情報を電子的にバックアップ、さらには休眠状態の肉体への継続的フィードバック実験可能との報。


 2048年_アーサー・フォン・ヒュオリント先進科学財団:キエフ

 ヒュオリント時空瞑想樹…猿の生きた大脳を使って、跳躍航法座標計算用の超空間ゆらぎ演算素子の実験に成功。この時のシステムアーキテクチャを現すも

のとして『時空瞑想樹』の用語が初めて使用される。


 2044年_不老不死永続生命研究機構:北京 37400人にも上る志願者を電子的にバックアップ完成。

 この後、太子党を中核とする不老永続生命研究機構は政治的発言を急速に強化する。

 “電子的にバックアップされた”とする人間は、この数年において100万人を突破する。


 2045年_人類の定義を、民主的かつ発展的に変革する決議 不老不死永続生命研究機構。


 2077年頃_『吸い取り紙』と呼ばれる正体不明のナノマシン組織体を使ったテロが初めて散発的に起き始める。テロの名称も『吸い取り紙』の呼び名が転用される。

 詳細:2086年現在、『吸い取り紙テロ』のターゲットとされ、回復の見込みがほとんどたたない意識・認知障害を引き起こして搬送される社会的VIPが数多く存在している。

 また光世紀聖地球連邦に拉致されたと思しき行方不明者が多数いるのも周知の事実である。

 彼らが搬送されてしばらくして後、彼らの姿、人格を完全に模したソシオンドロイドが現れる。

 治安維持の観点から、かのコピードロイドの拘束は的確に行われたが、彼らの起動元が、複数のダミー拠点を経由して地球連邦の中枢であった事はいうまでもない。




 暫定治安維持機構_枕詞


 暫定治安維持機構とは、現在、地球上で最も開かれた哲学、教育、人間環境工学、研究機関、そして地球上で最も進んだ攻撃防御システムをもつ革命組織で

ある。





 防衛省 対光世紀聖地球連邦戦略における長期的課題  2085年2月 予算委員会提出資料より


 2060年代から10年にわたり不穏な緊張状態が続き、2070年代の初等から開始される“地球連邦”の無差別小惑星質量弾攻撃に、全力をあげて迎撃を展開したのは、アメリカ合衆国宇宙軍、統合自衛隊(とうごうじえいたい)、大韓連邦宇宙軍(だいかんれんぽううちゅうぐん)、NATO大圏戦略防衛軍(ナトーたいけんせんりゃくぼうえいぐん)、全地球圏商業宇宙船財団警備防衛機構(ぜんちきゅうけんしょうぎょううちゅうせんざいだんけいびぼうえいきこう)であるが、いちはやく光世紀聖地球連邦と通商援助協定を結んだロシア連邦と中華人民共和国は、この協定の発動と同時に、その後の地球圏へ、人類存在そのものを攪乱する混沌が巻き起こった事を関知していたとはいえない、とするむきもあるが、彼らが座視していた、とする明確な指摘をもって確固たる姿勢をみせよ、とする理性的強硬派の存在も無視できない。

 小惑星質量弾による被害を食い止めると同時に、量子レベルでのサイバー攻撃も含む非対称戦に特化した対知的有機体尊厳毀損テロに対抗する二極化戦略が地球圏首脳部に求められているのは周知の事実である。

 かの二国が執り行った行為、いわゆる人類の存在意義の否定に加担する事に対しての、発展的展望に基づく戦略が特記されるべきである。

 その地球の恒久的平和を確保する核となるべき部分として、2020年代後半より展開された、日本を中心とする調和的東亞精神復興主義も忘れてはならな い。

 ゲシュタルト崩壊状態に陥って2030年代初期に国家機能麻痺に陥った韓国に対して、実質的に反体制派の汚名を着せられていた良心的親日派に、暫定治安維持機構がてこ入れを行う事で、建国の運びとなった大韓連邦は、日本とゆるやかな連邦制を組むにいたった台湾、モンゴル、および暫定治安維持機構の財

政的協力者の一国として立場を確立したインドとならび、地球圏の指導的知性を輩出する流れをつくった。


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