#HIMIKO_2099//09_Mars line of defense01/Prize of war
◆148秒経過
縦横比の大きい推進力場翼を翻して、戦闘単位“しらさぎ”一番機は猛然と地球圏本土にテロをまき散らしている機体に挑みかかった。
鬼蟹(GUI-XIE“ぐいしぇ”)は、焦げ茶色と赤黒い段差迷彩に、漢字の識別番号の機体。
漢字は当然ながら日本語ではない。
大気圏外空間機動戦では、いかんせん奴らの方が一歩上手だった。
最大出力で、自機の10m先を先行させている防御力場遊動盾がなければ、腕をはやした奴らが、±10G以上の超高機動で仕掛けてくる狙撃をかわしきれない。
左横転、右、右、左、右3回横転…
“しらさぎ”一番機、操縦者:小林(女:ソシオンドロイド)は、ガンカメラユニットを感度最大で回し続けていた。“やっぱり!”操縦殻のセンサー感度が違う…“中身”が“赤い”!
◆152秒経過
「こいつ有人機だ、織田さん」
『了解してる、つかまえるぞ』
「援護します」
『よろしく頼む』
ソシオンドロイドがパイロットの宇宙零戦は、人間が搭乗する場合と異なり、パイロットの対G限界±6Gリミッターを外す。
それでも±13.4Gが設計限界だった。
“聖地球連邦”高速次元展開艦隊惑星制圧機:多肢機動戦闘機:鬼蟹(GUI-XIE)の観測機動値は±16G、最大で±22Gを記録した機体もあった。
そんな気違いじみた機動性を示す機体に人間が乗っている訳がない。
小林が捉えた機体は、それだけ見慣れた敵機の中では動きが鈍かった…
一番機、宇宙魚雷左翼1番発射、
後続鬼蟹(GUI-XIE)一機、
右横転大迎え角減速機動、オーバーシュート、
複合弾頭砲発射、左右1発ずつ、左横転、加速、くだんの鬼蟹(GUI-XIE)が、反転機動に入った!
力場失速反転。
機体運動軌道自動航法にまかせて複合弾頭砲、右発射1発
鬼蟹(GUI-XIE)直撃、被弾、ただし損害軽微
複合弾頭砲、右発射2発
鬼蟹(GUI-XIE)直撃、被弾、機体の左腕が破断。運動ベクトルが狂った!
しかし推進力場の自動復旧回路が強靭なのは、鬼蟹(GUI-XIE)の強みだった。
◆158秒経過
天翔が撃って出た。
鬼蟹(GUI-XIE)の機体電子脳が復旧モードへの演算処理を行う0.3秒ほどの間合いを、ひみこ艦載機は正確に狙った。
天翔は機体の全長とほぼ同じ大きさの電磁鈎モジュールを懸吊している。
発動機の推力値から、空間格闘戦上重視される推力荷重が大幅に低下しているのは目にみえていたが、艦長補佐、織田下野祐信長(おだしもつけのすけのぶなが)二尉の機体操縦技術は、無理を承知の力技で、左腕を吹っ飛ばした鬼蟹(GUI-XIE)に向けて、有線誘導の10本の電磁鈎を射出した。
10本の電磁鈎が、ワイヤーを引いて自機の上下左右を通過する瞬間。
かの“聖地球連邦”の機体は何がおこったのかわからないようなそぶりをしたが、それまでだった。
10本のワイヤーは、片腕を失った機体を覆うように通過すると、瞬間的に進路を180度変えて反転し、がんじがらめに機体にからみついた。
「巻き取り開始!」
間髪を入れず、
「非定常化界面制御誘導基体(ひていじょうかかいめんせいぎょゆうどうきたい)起動」
それはモジュールの分子蓄電池で12分だけ駆動される。
エネルギー反応炉の無力化装置だ。
ひみこに帰還し、この鹵獲機体を完全無力化するまでの時間は12分しかないということだ。
「織田、帰還する、非定常化界面制御誘導基体起動中だ、鬼蟹(GUI-XIE)推進コアの解体班および陸戦隊待機よろしく!」
『了解』
◆163秒経過
量子縮退演算誘導弾は理論上は実体弾砲である。
表現上は『砲弾』と呼んでいるが、物理的に誘導制御を可能とした特異点といってもよい。
その全容は、複合型慣性制御ローターを4重の励起システム、さらに10基のソレノイド配置した分子転換炉を芯にした巨大な操縦制御弾である。
直径4.8m長さ10m。
それはひみこ艦体基底部に設置された120mの専用加速機を使って発射される。
ひみこ本体を重力場干渉加速器として使用することで、砲弾自体の初速を0.7秒の間に光速の99.9877%にまで加速する。
砲弾は走査システムに感応しうるすべてのエネルギー線を収束誘導し、相対論的破壊効果を狙う。
重力場干渉加速器の機能は、システムにかかる物理的な一切の過重を回生電力としてほぼ100%転換してしまうところにあった。
しかし、試作1号砲の設計上の弱点を承知の上で運用しなければならない現場の使命があった。
「ストライカーボルト加圧」
室町がタイミングを読み上げた。
続いて一色が続ける。
「ストライカーボルト圧力275%、310%で投入開始!」
さらに、主発動機の電力を振り向ける重要な艦体構成部への配慮を事務的に仕切ってゆく。
「対エネルギー線防御、艦体推進力場、艦首第三階層から第五階層を対衝撃仕様に突出、第一第二階層に予備電力すべて投入!」
◆187秒経過
鬼蟹(GUI-XIE)を腹の下に電磁鈎を介して抱えた宇宙零戦:天翔が、カタパルトのフックに結合した。
カタパルトアームが回転し、普段の倍以上の全高12mを越えた二機を艦載機格納庫収納。
「非定常化界面制御誘導基体停止まであと7分だ、急げ、」
織田は格納庫管制室へ向けて怒鳴った。
鬼蟹(GUI-XIE)の推進コア(発動機)は、タンデム復座の操縦殻の乗った円盤形の頭頂部に続く円筒形の部分だ。
待機していた力場防護干渉服を着込んだ技術班4人が取り付いた。
二人が発動機の両側から、未知の金属装甲系ナノマシンのチェックと防護を行うカウンターシステムのマテリアルを放射器で勢いよく吹き付けながら、
一人がハンドモニターで解析、さらにもう一人が工作機を操作して、発動機反応炉ユニットの制御系へ侵入する。
『停止まであと4分だ、どうだ?』
「制御ユニット確認、外皮分離しました」
『反応炉停止コードはいけそうか?』
「いきます。くそ、封印かけてやがる」
「破っちまえ」
「…はがれないよ、これ…」
「なんだと…こすっからい真似を…」
「ここの予備の駆動中の慣性ホイールを無理矢理外せます。そうすると出力循環の均衡が崩れてセーフティが停止モードに入りますよ」
解析担当が、思いもかけない方法をハンドモニターの予備ウインドウに展開して急遽提案した。
「時間がない、それいくぞ、」
『あと96秒だぞ』
「いけます、工作機貸してください」
レーザー丸鋸を、そのホイールユニットのハウジングの隅にあてて回転させる。
火花…漏洩電力をアースするための巨大な電極が3本。
『停止まであと48秒』
ハウジングのボルト、
「1本目」
「2本目」
「3本目」
「4本目、よし外れた、」
『あと21秒』
「うるさい、少し黙っててください、よし、ケーブルをぶった切れ!」
◆199秒経過
ちゅい~~~~~ん、じゅっ…
「切れたぞ!」
ケーブルの破断と同時に、どぅ………ん、と腹の底に響く低周波を放っていた発動機本体を収めた区画が静かになった。
「止まったか…」
がちゃっ…何の音!?…ん!
前部操縦殻のキャノピーが開いた。
キャノーの最外部シールドに『殲-021』とある。機体番号か?
男がそこに立っていた。
8人の陸戦隊の火器が、一斉に男を照準した。
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