🌿🪨のろけ合戦🦊🦝🐶
「なんじゃお前か山路よ。脅かすんでないわ」
「山路さん、若木さんいらっしゃいませ」
「わりいわりい。夕べこっちに越してきたからよ。顔見せとこうかと思ってな」
山路一人ならば一晩で全く別の場所に転移することも可能です。でも若木ちゃんが一緒なので、のんびりデートしながらやってきたのです。
「私の早とちりでした。申し訳ありませんわ」
畑で仕事中の二人を呼び出してしまったことを詫びる藤葛でしたが、二人とも首を横に振りました。
「いや藤よ。よい判断じゃ」
「兵太郎にも藤様にも何もなくてよかったです」
何せ素敵な旦那様です。何が起きても不思議はありません。
屋根に白羽の矢を立てるような神クラスの大妖怪だって、兵太郎のことを知れば欲しくなるでしょう。
いくら心配しても心配しすぎということはないのです。
「悪いのはこいつじゃ。初めから名乗るなり要件を伝えるなりすれば良いものを」
「だあってよう」
「だあってよう、じゃないわ。じじいがかわい子ぶるでないわ」
「おいおい、俺がじじいならおま」
「貴様死ぬか? 大岩ごと真っ二つになるか?」
「ごめんなさい」
口は災いの元です。もしも山路がその言葉を口にしていたなら決して助からなかったでしょう。理不尽? 知ったことか。
「俺だって気になったんだよ兵太郎ってのがどんな男なのかってよ。しかもそこに藤の狸が出てきたら驚くなって方が無理じゃねえか」
「む? なんじゃ、藤を知っとったのか?」
「あん? だってお前、藤の狸っていやあ……。そうかお前知らねえか。百年くらい前によ」
紅珠はここ何百年かの間寝たり起きたりを繰り返しています。藤葛が家の姿となってここに来た頃にはちょうど寝ていたのかもしれません。
「まあまあ、そのお話はまたの機会に。それでこちらの方は? 随分お若いですがもしや木の娘では?」
露骨に話題を変えるようとする藤葛。旦那様の前でやんちゃしていた時期のことを話されてはかないません。紅珠もあえて追求しないことにしました。武士の情けと言うやつです。
「おお、そうそう。こいつは俺の嫁でな」
山路おじいちゃんは嬉しそうにお嫁さん自慢を始めました。その横で若木が嬉しそうに頬を染めています。既にのろけ話に付き合わされた紅珠とクロはややうんざり。藤葛は話題が変わってしてやったり。
「嫁⁉ 」
一人驚いたのは兵太郎です。てっきり孫だと思っていたのに。でもそんな兵太郎に、山路は呆れて言いました。
「なに驚いてやがる紅珠を娶った奴がよ」
ごもっとも。でも飛び火に納得がいかないのは紅珠です。
「儂は立派なレディーじゃ!」
「ぷくすっ」
「誰じゃ! 今笑ったの誰じゃ!」
犯人探しに躍起になる紅珠。あわてて目をそらす全員。でも旦那様は言いました。
「いやあ、紅さんは綺麗だよ」
ずきゅーん。
「そ、そうか? まあその。そうじゃろ? うん」
予期せず旦那様に褒められてついつい喜んでしまう紅珠。
言葉にしてもらうというのは、やっぱり嬉しいものなのです。
まあ実際そうなのです。良く動きよくツッコむ紅珠ですから可愛らしさに目が行きがちですが、綺麗さ美しさだって相当なものです。
「今のはズルいですわ、兵太郎!」
もう一人の奥さんから抗議が入りました。そうそう。奥さんは平等に扱わなくてはいけません。片方だけを褒めるなんてもってのほかです。
「ごめんごめん。でもそんな藤さんも可愛いね」
ずきゅーん。
「あっ、そういうつもりで言ったのでなくはないのですが。そうですわね。その通りです」
まあ実際そうなのです。たおやかな話し方や仕草からその美しさに目が行きがちですが、実は愛嬌のある顔立ちやちょっとやきもち焼いちゃうところも可愛い藤葛です。
「兵太郎、兵太郎、ボクにも何か言って下さい!」
今度は自分の番だとばかりにクロが主張します。奥さん二人の後になら、クロだっておねだりしていいはずです。
「クロちゃん、偉かったねえ。駆けつけてきてくれてありがとうね」
どかーん!
「はい! お任せください。兵太郎は僕が守ります!」
兵太郎がお仕事を褒めてくれました。急いで駆けつけたのは間違いではありませんでした。何事もなかったのはあくまで結果。クロの行動は正しかったのです。
ただ可愛いだけではありません。兵太郎の優秀な家来です。
「あ~、そろそろ俺の嫁の話していい?」
ああそうでした。山路の奥さんの話を聞いていたはずなのになんでこうなった。
恐れ入ったかこれぞこくり家奥義「のろけ返し、三連」。
仕方がないのでそのあとはちゃんと山路と若木ちゃんのなれそめを聞いてあげました。
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