🚪自分のお部屋🚪
「あ、そうそう。個人用の部屋を作りましたのよ」
それぞれの作業を始めようとしたところで、藤葛がみんなを引き留めました。
「藤さん、部屋って部屋のこと?」
「ええ、部屋ですわ」
部屋というのは作ろうと思って作れるものではないのですが、藤葛ですから部屋というのは部屋のことで間違いないのでしょう。
「持ち物も増えていくでしょうし、居住スペースが寝室だけというのも問題かと思いまして」
家そのものである藤葛、その辺りの配慮は完璧です。
「おお、やるではないか、藤よ。祠を置く場所が欲しかったのじゃ」
紅珠は軒先に置いてある自分の祠をとりに、いそいそと店の外へと出ていきました。
今はこの家が紅珠の家ですが、それはそれとして兵太郎に直して貰った大事な祠。紅珠にしてみれば結婚指輪みたいなものです。野ざらしは避けたいところ。
まあ祠というものは一般的には野ざらしなのですが。
戻ってきた紅珠と祠と共に店の奥の扉を抜けると、大浴場へつながる廊下の脇に部屋が増えておりました。
寝室の隣に一部屋、廊下を挟んで向かいに三部屋。
一人一部屋、自分の部屋ができたのです。
「わあ、ボクにもお部屋が貰えるのですか!」
「凄いねえ、藤さんは」
「ええ、ええ。お部屋にはすべて狸流変化法防音の術が施してありますのよ。寝室は特に厳重に。各部屋鍵もついてますのでプライバシーもバッチリですのよ」
クロも兵太郎も兵太郎も大喜びです。家族四人仲良しは素晴らしいことですが、それはそれとして自分だけの空間というのは嬉しいことです。
「兵太郎は真ん中の部屋を。右が私、左が藤さん、クロは向かいの部屋でどうでしょう」
「む………。うむ。」
てっきり部屋順でひと悶着あると思っていた紅珠。兵太郎の隣の部屋なら文句はありません。
それでも何かあるのではないかと考えてしまうのは紅珠が疑り深いのか、はたまた藤葛の日ごろの行いのせいでしょうか。
「ボクは何処でもよいです。お部屋をいただけるなんて光栄の至りです」
「僕も何処でもいいよ。ありがとうねえ藤さん」
男衆は特に問題ないようです。二人ともイエスマンですからね。
「では部屋順はこれで決定ですわね」
ぽん、と藤葛が手と叩きました。これで部屋が決定しました。みなそれぞれの部屋に入り、オープンに向けてそれぞれの仕事をはじm
「……ちょっと待て、藤よ」
紅珠の妖狐神通「奥さんの勘」が、何気ない藤葛の行動の中に僅かな違和感を捉えました。
「どうしました、刑事さん。何か問題でも?」
「貴様、やけに急いでおらんか?」
「……なんのことでしょう?」
藤葛がついい、と目をそらしました。これはクロ。クロちゃんではなく
「さては貴様……ええいそこをどけ、部屋を改めさせてもらうぞ!」
紅珠が藤葛を押しのけ、真ん中の暫定兵太郎部屋の扉を開けるとそこには!
ばーん!
なんと予想通りなことでしょう。
兵太郎の部屋の中、出入り口とは別に怪しくも豪華な装飾のピンクの扉があるではありませんか。
「なんで兵太郎の部屋と貴様の部屋がつながっとるんじゃ!! 」
「だって夫婦ですし、いつでも会えるべきかなって」
なる程、藤葛の言うことにも一理あります。
「儂も奥さんじゃ! 繋げるなら両方と繋げんか!」
紅珠のその主張もどうなんだ。
「夫婦といえどプライベートって大事ではありません?」
言っていることは常識的な正論ばかりの藤葛。なのに矛盾が生じています。不思議です。
でも正論とか常識なんて、得てしてこんなものです。
「だめじゃだめじゃ! これだと完全防音と鍵の意味も変わってくるじゃろうが!」
一体どんな意味になるんでしょうか。全然わかりません。
「もう。あと少しでしたのに……」
あと少しでどうなったのでしょうか。全然わかりません。
協議の結果、寝室の隣が兵太郎。向い側は店に近い方から、藤葛、紅珠、クロとなりました。
ピンクの扉はしっかり封印されました。
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