👓知恵と知識の象徴👓

「うふふふふ」


「ふはははは」


「えへへへへ」



 三匹の妖怪が旦那様だったりご主人様だったりする兵太郎を見て嬉しそうにしています。なんだかんだで三匹とも珈琲を飲み干してしまったその結果です。


 頭すっきり、気持ちはウキウキ。こんなによい気持ちになるのなら、苦いのも我慢しようかと思えるほどです。



「では、珈琲で頭すっきりしたところで、商売繁盛、千客万来のための作戦会議をするのじゃ。妖狐神通『明淵慧眼鏡あかしふちのけいがんきょう』!」



 ぱっぱらぱっぱぱーぱーぱー!



 紅珠が何処からか赤いふちのおしゃれ眼鏡を取り出しました。



「えっ。何? 何? 何の音?」



 兵太郎がきょろきょろとあたりを見渡します。ただのラップ音ですから気にしないでください。今見るべきは紅珠が取り出した眼鏡の方です。



「あかしふちのけいがんきょう?」



 クロが不思議そうな声を上げます。兵太郎がどうでもいいラップ音の方を気にしているので代役です。



「これが未r、神通の秘密アイテムなのですか? 見た目はオシャレでかわいい可愛いところ以外は眼鏡のようですが」



 藤葛も不思議そうな顔で紅珠が取り出したおしゃれ眼鏡を観察します。



「うむ。だがただ可愛いだけの眼鏡ではないのじゃ。明淵慧眼鏡あかしふちのけいがんきょうは使用者に深淵をも照らす英知を授ける。これがあればよいアイデアも浮かぶじゃろう」



 そう、これぞ未r、神通力のなせる摩訶不思議アイテム明淵慧眼鏡。


 具体的には装備すると賢さと見た目のステータスが上昇します。



「ではゆくぞ、プットオン!」



 すちゃっ。



 掛け声とともに紅珠が明淵慧眼鏡を身に着けました。


 すると突然何処からともなく不思議な煙が現れて紅珠を包みました



 どろん。



 煙の中、紅珠の着物ほどける様に別の形に編みかえられていきます。


 強大な力を持った眼鏡ですから、身に着ければもちろん使用する者の姿にも影響を与えます。見えてはいけないところは煙で見えないので大丈夫です。



 しゃらんらんらんら~、ててんてんてんて~。(ラップ音)



 白の襟付きブラウスに赤いベストを重ねて。



 きゅぴーん!(略)



 下はひざ丈までの、こちらも赤のプリーツスカート。



 しゃきーん!



 白いハイソックスと濃い茶色のローファー。



 きらりん☆



 最後に元気いっぱいのウインクと共に眼鏡がもう一度輝きました。


 あでやかな着物姿から一転。まるで学年成績トップの優等生。もしかすると委員長とかやっているかもしれません。


 流石は神通力が宿る眼鏡と服。とても頭がよさそうに見えます。


 この姿ならば作戦会議もはかどること間違いなし。


 そうです全てはお店のため。いつもと違う服装で兵太郎の気を引こうだなんて、そんなやましい気持ちは一切ありません。


 念のため一応断っておくと学校の制服とかではありません。紅珠なら制服も似合いそうですが、本当は千年を超えて生きる妖怪。ちゃんと成人しています。



 ここ重要。兵太郎が捕まるといけませんからね。




 TPOに応じて姿を変えた紅珠を見て、藤葛もなるほどと感心しました。



「そうですわね。オープンに向けてしなくてはいけないことが沢山です。私も参りますね。狸流変化術、『視八千代やちよみ秘照ひしょうの装い』、プットオン!」



 すちゃっ。



 藤葛も掛け声とともにどこからか出したフチなし眼鏡を掛けます。



 どろん。



 た~た~たたたった~。



 こちらは淡いアイボリーのブラウスに藤色のテーラードジャケット。



 ちゃららららん、ちゃららららん



 タイトスカートには控えめにスリットがざっくり。



 たんたらたんたんたんたらたんたんたん。



 長い足をより美しく見せるハイヒール。



 きらりん☆



 最後に色気たっぷりのウインクと共に眼鏡が輝きました。



 これぞ八千代を見通し秘を照らすといわれる狸流変化術の奥義の一つ、「視八千代秘照の装い」。


 流石は妖力で作り出した眼鏡と服。とても仕事ができそうです。ひょっとすると社長の秘書とかをしているかもしれません。


 勿論姿が変わっただけではありません。この姿フォームになると賢さと見た目での判定の時にボーナスが付きます。


 これならきっと作戦会議もはかどることでしょう。


 当然お店のためです。いつもの着物姿とはまた違った色気をアピールするためではありません。


 大きな胸元がきっちりかっちりスーツで覆われているのに、逆にざっくり入ったスカートのスリットだって、もちろん動きやすさを目的としています。


 ガード堅いのに実は意外と隙があってそこにずきゅんなどという高く計算された意図なんか一切ありません。



「わあ、二人とも凄いです!」



 妖力での服装と能力変化をこともなげに行ってみせる大妖怪に、クロは歓声を上げました。


 一方兵太郎にはいまいちその凄さがわかりません。買い物している間にお風呂場を大浴場に改装したり、イタリアンパセリが自分で勝手に畑に植わったりするのに比べたらそんなに驚くことのほどでもないような。


 でも、二人とも眼鏡も似合うなあ、いつもと違う姿も可愛いなあ、綺麗だなあと、そのあたりはとても感心しておりました。



「二人とも綺麗だねえ。いつもの着物姿も素敵だけど、こういう服も似合うんだね」


「何を言っとるのじゃお前様。これは店を繁盛させるためにじゃな」


「そうですわよ。困った旦那様ですわね」


「ごめんごめん。そうだったね。つい見とれちゃった」



 やれやれ、といった体で奥さん二人から叱られた兵太郎は素直に謝りました。折角二人がお店のために頑張っているというのに、全くしょうがないですね兵太郎は。



******


あとがき


神通力とか変化術の名前考えるのが一番時間かかるのでアリマス。

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