祠を直しただけなのにっ！？ ～古民家カフェ「こくり家」へようこそ！～

🌱畑のお世話係🚿

「グミの木さんも苺さんも、イタリアンパセリさんも、ちゃんとお世話しないとね」

「身の回りのことは自分で勝手にやるじゃろうから、気にせんでもよいのじゃ。ミミズどもも張り切ってるようじゃしのう」

「えええええ」

　なんとも都合のいい農作物もあったものです。

「お前様が声をかけてやればテンションもあがるじゃろ。よろしく頼むのじゃ」

「え、僕でいいの？」

「そりゃあそうじゃ。お前様が一番こ奴らの価値がわかっとるのじゃからのう」

　でもさっきグミの木と苺に声をかけた時は無視されたような気がしましたが、そういうわけでもないのでしょうか。

　兵太郎は改めて手を合わせ、おいしい作物を願いしますと声に出してグミの木たちにお願いしました。

「うむ。むろん儂も気に掛けはする。それに世話も自分でできるとは言っても、してもらうというのは嬉しいものじゃ。どれ、水でもやるとするか。兵太郎、なんぞバケツのようなものはないかの？」

「あ、それでしたら、私が」

　兵太郎がバケツを取りに行こうとすると、藤葛がしゅぴんと手を上げました。

「少々お待ちくださいまし」

　ずんずんずんずん。

　なにか地面から音がします。土の中を、何かが這いずっているような音です。

「もう少し前の方が良いでしょうね」

　藤葛が歩き出すと、それにあわせてずんずんという音も藤袴の後を追いかける様に進んでいきます。

　ずんずんずんずん。

「この辺りでよいでしょうか」

　何が起きるのかと兵太郎たちが見守る中、藤葛が畑の前で立ち止まりました。

　ずんずんという音が急激に大きくなって—

　にゅるん。

　なんと地面から蛇口付きの水道が生えてきました。下部分にはちゃんと排水溝までついています。

「「「ええええええええ」」」

　兵太郎はいつものように驚きましたが、紅珠とクロの声も合わさりました。

「お恥ずかしい。紅さんと比べられても困りますわ。ただ水道と下水道を引っ張ってきただけですのよ」

「いや、儂、わりと本気でビビっとるのじゃが。そもそも貴様、家からはなれられない設定じゃなかったっけ？ なんで外で妖術つかえるのじゃ？」

「妖力もだいぶ戻ったので、バックパック型の電池で近距離短時間なら外出できるようになったのですわ」

「藤様、凄いです！」

「いつの間にそんなことになっとったんじゃ？」

「ショッピングモールから帰ってきた兵太郎を迎えに出た時に説明するはずだったのですが、作者が忘れたんですのよ」

「けしからんのう。いいかげんなプロット書いとるからそうなるんじゃ」

「本当は今日は電池の小型化に成功したから妖術の使用もできる様になった、というお話をする予定だったのです」

　すいません、以後気を付けます。他にも書き忘れたことがあるのですが、それはまた別の機会に。

「このままじゃ撒けませんわね」

　藤葛がそういうと、今度は水道からホースが伸びます。するする伸びて地面に着くと蛇のようにとぐろを巻き、最後に鎌首の様にシャワーヘッドが付きました。

「えええええ……」

　広い畑ではありますが、バケツやじょうろで水を撒くよりはずっと楽ちんなことでしょう。

「僕が撒きます！」

　自分も役に立たねばとクロが水撒き係を買って出ました。

「まあまあ、クロ。ありがとう。でも大丈夫ですのよ」

　きゅっと音を立て、蛇口が勝手に回ります。

　シャワーヘッド部分がにゅーんと浮き上がって、水を撒きながら苺とグミの木の上を飛び回りました。それが終わると反対側のイタリアンパセリの方へと飛んでいきます。

「こんなものでしょうか？ あげすぎてもいけませんわよね」

「水はけはよくなっとるからの。あんまり気にせんでも平気じゃ」

　兵太郎はただただ感心して目の前の不思議を眺めます。

「凄いねえ。これは藤さんの超能力なの？」

「いえいえ。私ではありませんのよ。『やなり』達がやってくれているのですわ」

「やなり？」

「ええ。物の怪から少しだけ成長したモノたちですわね。本来家に憑く妖なのですが、何故か私に懐憑（なつ）いてしまったのです」

『やなり』。『家鳴り』とも書きます。家の中で者が突然動き出したり、突然木がきしむような大きな音を立てて人を驚かせる、姿かたちを持たない音と現象だけの妖怪です。

「へええ。藤さんは慕われているんだねえ」

「そういうわけでもないのですわ。この間までは散り散りになっていたのですが、私の力を感じて戻って来たようなのです」

　藤葛は謙遜しますが、やなりたちが藤葛に従っているのも事実。これならば農作物たちのお世話はとてもらくちんでしょう。

「でも、苺さんなんかはそろそろ季節も終わりだねえ。ビニールハウスがあるわけでもないし」

　ちょっとだけ残念そうに兵太郎が言いました。

「なるほど、ビニールハウスですか」

　家の方の奥さんが、ぼそりと呟きました。

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あとがき

🦝紅さん、アメリカンチェリーに知り合いの方はいませんの？

🦊知り合いはいないのじゃ。でもいま知り合いの知り合いをあたっとるのじゃ。

🦝まあ！ それはありがとうございます。

🦊うむ。見つかるとよいのう。