👻物の怪👻

「そういえば苺さんやグミさんは、どうやって紅さんのことを知ったの?」


 紅珠の真似をして苺やグミに話しかけてみた兵太郎。しばらく待っていましたが答えは返ってきません。


 気が付くと奥さんたちと家来が生温かい視線で兵太郎を見守っていました。


 兵太郎とて答えが返ってくると思っていたわけではありません。もしかしたら、と思っただけなのです。


 それなのに苺に話しかける残念な人のような扱いを受け、納得がいかない兵太郎です。


「苺さんやグミさんは、どうやって紅さんのことを知ったの?」


 さっきのはなかったことにして、紅珠に向かって聞いてみました。


「うむ。昨日草むしりをした時にな、うちの旦那様は凄い方なのじゃと物の怪もののけたちに自慢しとったんじゃ」


「えっ? なんかありがとう?」


「うむ。こちらこそありがとう」


 普段褒められることがなかったせいで、思わずお礼を優先しまった兵太郎。でも気になる単語が含まれていました。


「モノノケって妖怪のこと? この辺に紅さんたち以外にも妖怪がいるの?」


 ついきょろきょろとあたりを見回してしまう兵太郎。奥さんの知り合いに挨拶しなくてはと思いましたが、ひと影らしきは見当たりません。


「物の怪も妖怪も一緒と言えば一緒じゃが。正確には妖怪になる前の、体を持たない意識だけの存在じゃな」


「妖怪の赤ちゃんってこと?」


「うむ。大体あってるのじゃ」



 本当はちょっと違うんじゃないかと思った紅珠でしたが、兵太郎に説明しても伝わらない気がしたのでそれでいいことにしました。



「モノノケが名前を得たり、物に憑りついたり、後はそうじゃな。強い願いに応えて妖怪となるのじゃ」


「優しいんだね、モノノケさんたちは」


 願いに応えるという言葉に、小人や妖精のような姿を想像した兵太郎。


 でも紅珠はうーんと首をかしげました。


「どうじゃろうなあ。こ奴らは人の心に惹かれるのじゃ。隙あらば人の願いに答えようとする。心を動かそうとする。じゃが人の願いは、良いものばかりではないじゃろ?」


「そうかなあ。何だかんだみんな、世界を良くしたいって思ってるんじゃないかなあ。それが色々違うだけで」



ズッキューン!



 散々バカにされて来て、この家だって騙されて買ったというのに、それでも、兵太郎にはピンと来ていないようでした。


 全く学習しない、困った旦那様です。


「うぐっ」


 そんな兵太郎を見て、紅珠が何かに撃ち抜かれたかのように胸を抑えてよろめきました。


「はうっ」


 後ろで見ていた藤葛も、同じようにダメージを受けています。


「えっ、紅さん、藤さん、どうしたの?」


「い、いやなんでもないのじゃ。お前様は本当に良い男じゃのう」


 紅珠は愛しい旦那様にぴっとりとくっつきました。



「僕また何か変なこと言った?」


「いえいえ何も。兵太郎はそれで良いのですよ」



 後ろから藤葛もぴとりとくっつきます。


 良いと言うなら良いのでしょう。兵太郎も奥さんにくっつかれるのは嫌いではありません。


 大人しく二人の奥さんにくっつかれておくことにしました。


「クロちゃんもおいで」


 兵太郎に呼ばれて、どうしようかとオロオロしていたクロも、慌てて空いてる所を探してくっついたのでした。

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