第二話 🦝来訪者🦊
ガンガンガンガンガンガンガンガンガン!
鍵は無理と思ったのか、強盗犯は再び扉をたたき始めました。
「う~ん?」
その騒音に、疲れ果てていた兵太郎も目を覚ましてしまい、仕方なく私は兵太郎をソファの上へと戻します。
ガンガンガンガンガンガンガンガンガン!
「なんだろう、こんな時間に?」
兵太郎はもぞもぞとソファーから起き上がると、ガンガン鳴り響く戸口へと向かって歩き始めました。
「はいはい、どなたですか?」
えええ、ちょっと兵太郎、普通に応じるんですか? 明らかに不審者ですよ。
「おお、お前様、儂ですじゃ。お待たせして申し訳のうございました。ささ、此処を開けてくだされ」
ああん? 「お前様」、だあ?
私の兵太郎に向かってな~に口走ってやがんだこの不審者はあ?
戸口の向こうから聞こえたのは若い女の声でした。私の兵太郎のことをお前様呼ばわりしています。不審者です。間違いないです。すぐに警察を呼びましょう。そして早くさっきの続きを。
「ええと、儂と言われても……」
いやだからただの不審者ですから。会話しようとしないで。馬鹿なんですかアナタ? 可愛いなあもう!
「もう、そうやって焦らしていけずなお方じゃ。儂ですじゃ、儂」
「ううん……。 誰だろうなあ?」
誰だろうなあ、じゃないですよ。真面目に考えないでください。クイズじゃないんですから。
無視ですよ無視。この手の輩は相手にするとつけあがりますから。優しいところは兵太郎の魅力ですが、それは私にだけ向けてくれればいいのです。
「つれないことを申されますな。この先この地で二人末永く、支えあって暮らしていこうよろしくと、お前様は儂におっしゃってくれたではございませぬか」
はぁ? なーにトチくるってやがんですかこの不審者?
「うーん……? そんなこと言ったかなあ」
言ってないですよ。自信持ってください。あと言ったとしたら覚えてないのどうかと思いますよ。いや別にいいですけど。
「あ、わかった! 誰かとお間違えなのでは?」
「何をおっしゃられるか。お前様は兵太郎様でございましょう?」
閃いた、とばかりに顔を輝かせる兵太郎ですが、不審者はなおも食い下がります。
「はあ、確かに僕は兵太郎ですが」
「儂ですじゃ。お前様に助けていただいた、裏の祠のキツネでございますじゃ」
!!!
キツネ? キツネですって!!?
なんと扉の前で兵太郎を待ち構えているのは、不審者どころか人間ではない、恐ろしい妖怪の類でした。
しかもよりによって薄汚くてずるがしこい、不潔、寄生虫がいるで有名なあのキツネだと言うではありませんか。
恐ろしいことにキツネが人に化けて、私の兵太郎を攫いに来たのです。
でも大丈夫。妖怪は戸を自分で開けることはできません。誰かに招き入れられない限り、家に入ることはできません。
「祠のキツネ……? うーん。とりあえず開けますね」
開けちゃうの!? ダメだって、馬鹿なの!!!????
ああもう、大好き!!!!
ちりんちりんと鈴の音が立てて、玄関の引き戸が開きます。
そこには貧相な体をしたちんまい女が立っていました。
なんて恐ろしい姿でしょう。返り血を浴びたかのような真っ赤な着物、吊り上がった目。口からは恐ろしい牙が
「じゃっかーーーーーーしいわ! そこまでちんまくもないわ! それに八重歯と切れ長の目は儂のチャームポイントじゃ! 」
不審者は突然、何もない空中に向かって大声で叫びだしました。こわっ。まさに不審者です。私の可愛い兵太郎に対してなんて乱暴な言葉遣いでしょう。
「貴様にいうとるんじゃ! 地の文に化けてナレーションいれるんじゃないわ、このタヌキめが!!」
「え、え? どうしたんですか? なれーしょん??タヌキ?」
「あ、違うのじゃ、お前様に申したのではないのじゃ」
不審者に兵太郎は怯えています。ああ可哀そうに。でもそんなところもおいしそう。大丈夫、おかしな人のたわごとですよ。兵太郎には私が憑いていますからね!
ぽん。
ぽぽぽん、ぽん。
突如、清廉なる太鼓の音が、夜の空気を震わせます。
「いやどっちかっつうとマヌケな音じゃろ」
教養のないキツネには到底わからない、清廉なる太鼓の音が、夜の空気を震わせます。ちんちくりんのキツネなどとは雲泥の差の、正ヒロイン登場の予感がひしひしと高まっていきます。
「やかましいわ」
ぽん!
突然兵太郎の目の前に、藤色の着物に包まれた美しい姿の女性が現れたではありませんか。出るとこ出て引っ込むところ引っ込んで、着物でも隠し切れない抜群のプロポーションです。
「自分だけ美化するのやめんか! ズルいぞ!」
🦝🦊🦝🦊🦝🦊
お読みいただきありがとうございました。
次回は明日の17:00更新の予定です。
古民家カフェに憑りついていた妖怪の正体とは!?
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