第32話

膝間ついたケイ(敬)、そこに殺到する黒い触手のようなグララのヒゲ。



ヒュンヒュン

バシバシッ



刹那、その場にケイ(敬)の姿は無くグララのヒゲは空を舞った。

予想外の出来事に目標を見失ったヒゲは右往左往。

ヒゲ同士でぶつかり合い混乱を極めている。



((巫女、何処に行った?!))



ノーロイの慌てた声が辺りに響いた。

だが、一瞬の出来事。

遠目に見ていた子供達も突然の事態にキョロキョロと辺りを伺っている。



その渦中のケイ(敬)。

彼女はとある人物と教会の瓦礫裏にいた。



◆◇◆



ケイ(敬)視点


「何、馬鹿な事をしてんの!?アンタが死んだら世界が終わるってのに!」



抱きしめられた?

誰、だ?!

視界が痛みで朦朧としていて、相手をハッキリと見る事が出来ない……。

でも、この声は……。



「ラーラさん」

「馬鹿、喋んじゃない!」

「うっ」

「腕が折れてる。こんなボロボロになって!応急措置をするわよ」

「ラーラさ」

「堪えなさい。少し強引に戻すわ」グッ

ビシッ

「いっ!!…………」

「我慢して。今腕を戻さないと変に骨がくっついてしまう」

「っ………」

「はい、これで応急措置は出来た。あとは一度王宮の先生に見て貰って」



喋るのを止められ、添え木をされ、布を巻かれた。

良かった。

ラーラさん、生きててくれた!



「ラーラさん、無事だったんだ……」

「まあ、アンタよりはね。流石に吹き飛ばされた時は意識が飛んだけど」



よく見ればラーラさんも血だらけだ。

瓦礫の下敷きにあって無事で済むはずもなかった。



「ごめん。子供達と逃げろってラーラさんに言われていたのに怒りで抑えがきかなくて」

「私の為に怒ってくれたのよね。いいよ、もう済んだ事だわ。それよりアンタが生きてて良かったわよ」



ラーラさんはオレの頭を撫でながら少しだけ笑った。

オレの心配をしてくれて何か嬉しい。

だけど彼女は無理をしているのだと思う。

手は僅かに震えてるし、もしかすると傷は結構深手なのかも知れない。



『『『『『きやあああ~っ!!』』』』』



オレが彼女のダメージの心配していると、突然に子供達の悲鳴!

しまった!?

オレがあの場を離れた事で、奴が子供達の方へ向かったんだ!



「子供達が!!」

「分かってる。ミコ、ここを動いては駄目よ!」



そう言いながら立ち上がるラーラさん。

まさか、また奴に挑むつもりじゃ!?



「ラーラさん、駄目だよ。アイツには敵わない!」

「知ってるでしょ?こう見えても称号勇者候補の力はあるの。ミコは動けるようになったら子供達と逃げなさい。最悪、アナタだけでも助からないと駄目だからね」

「そんな……」

「アナタが死ねば世界は終わる。其だけは何としても避けなければならない。必ず生き延びなさい。それが私の、この世界の人々の願いよ!」



そう言ってラーラさんは瓦礫の裏から出て行った。

彼女はオレ達を逃がす為に自身を犠牲にするつもりだ。

ちくしょう、オレに勇者の力があればこんな事にならないのに!


第一王子は何処だ?

他の勇者候補は何故に気づかない!?



ガガンッ

ズガガーンッ


「「「「「ラーラおねぇちゃん!」」」」」

「な?!」


その直ぐ後だった。

激しい衝撃音と子供達の叫び!?

オレは彼女の指示にも関わらず、思わず瓦礫から顔を出していた。


そして



「ラ、ラーラさん!!」



串刺しになった彼女の姿を見る事になる。




◆◇◆



ナレーター視点


その頃、王の欺瞞情報で王国辺境に出ていた第一王子は王都の外れに到着し、王都の惨状を目の当たりにしていた。

地震災害後の二日目の朝である。


未だ王都はあちこちから煙が上がり、多数の瓦礫の山と奔走する人々。

下敷きになった王国民は数知れず、実際の被害把握には更に時間がかかると思われた。


第一王子は共に帰還した部隊に王国民の救援に当たらせ、自身は事態把握の為に一旦城に入場する事となる。



「王、宰相!」

「だ、第一王子!?戻ったのかぞい!」

「意外と遅かったですな」



出迎えたのは王と宰相。

責務を果たし帰還した第一王子に宰相が掛けた労いの言葉は、何故か皮肉が籠っていた。

これでも早馬での三日の行程、強行軍での帰還である。

宰相の言葉は的外れであり、王子自身の情報把握は王都到着後の事。

馬車で一週間かかる行程を短縮したのだ。

これ以上の事を望むのは些か度が過ぎていると云えよう。



「事態を把握したい。まず災害の状況を。そして巫女の所在を教えてもらおう」

「彼女は自身の判断で出奔したと思われます。王子との間で問題があったのではないのですかな」

「偽情報で私を王都から遠ざけたであろう。宰相、その間に何を画策した?」

「別に何も。王命に従ったまでですが」

「第一王子、余計な詮索をするでないぞい。今は緊急事態。さっさと王都の災害復旧に尽力するぞい」

「既に部下に指示したところ。言われなくとも私も直ぐに指揮に入ります」

「ふん、だがな第一王子。巫女が出奔したのは間違いなくそなたの王宮を嫌っての事。そこにはそなたに対する不満があったからだと思うのだぞい」

「それは巫女と話をします。ですが私の留守中に最も守らねばならぬ巫女が城中から出奔するまで誰も気づかなかった。この責任はどなたにあるのでしょうか?」

「馬鹿な、わ、ワシのせいだと!?」

「王よ、第一王子は私の責任を問うているのでしょう。そうですよね、第一王子」

「さ、宰相?!」

「…………あとは巫女が戻ってからにします。この場はこれで」



ザッ

身を翻し王の謁見を済ませた第一王子。

彼は直ぐ様馬にまたがり、王都に飛び出して行った。


果たして彼は、巫女の救援に間に合うのだろうか?


串刺しになったラーラの運命は?



全ては神のみぞ知る━━━━







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ストック切れです。

以後、不定期となります。

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