第3話 ヒーロー?それともヒロイン?

◆敬 視点


激しい轟音と共に吹き飛んだ扉。

その向こうにいたのは巨大な牛頭の何?!


『ブモーッ!魔王軍四天王、ギュウギュウ王だ。巫女を貰い受ける!』

「ぎゃあああ、なんか来た?!」


オレは思わず叫んだ。

なんだよコレ!?

凶悪真っ黒デカ牛が二本足で立ってる。

オマケに『巫女ヲ貰イ受ケル』って、オレの過激なファンじゃないよね!?


『ブモーッ!巫女さえ奪えば勇者は恐るるにあらず。大人しく巫女を差し出せ!』


「ぎゃあああ、やっぱオレ狙いか!デカ牛が迫ってくる!?誰か助けて!」


へ?

ありゃ姫さん、オレを庇って前に出る。

うは、姫に守られるオレって何なの?!


「巫女どの、ここは私が守ります。どうか、お逃げください」


なんて男前発言。

惚れてまうややんけ。

しかし声は思ったより低音だな?

ま、そんな事もあるか。

ん?


ザッザッザッザッザッザッ

「「「「「「「巫女を守れ!」」」」」」」


おお、筋肉勇者達が牛男に向かっていく。

やっちまえ!


「笑止!」


ブオンッギュンッ


「「「「「「うわあああ?!!」」」」」」


え?!

牛男の斧の一振で筋肉軍団が吹き飛ばされた?!

弱!

あの筋肉は見せかけだった?!

そして皆、両手を拡げて飛んでいく。

変態飛行かよ!?



うえ!?

そんで広間にはオレと姫さん。

あと、玉座の隣で震えている筋肉王子だけじゃん。

筋肉王子、お前の筋肉も見せかけか?

そんで王様、逃げるの早!?


タッタッタッタッタッタッタッ

「はぁあーっ!」


ああ、姫さん!

凄いスピードで剣を持ち牛男に切りつける。

いつの間に?

お、牛男、やや怯んだ!

ヨッシャーッ、姫さん頑張れ!!

オレは瓦礫の陰から応援だ。

べ、別に怖いからじゃないよ?


ブオンッ


「うああ!」、バカンッ

「ひ、姫さん!!」


くそ、ヤツが斧を振るって、姫さんを吹き飛ばした。

姫さんは壁に叩きつけられ倒れ込んでしまった。

オレは走って姫さんを抱えた。


ぐっ、姫さんが重い!?

なんだよオレ、女になったら力まで無いのか?

なんとか瓦礫の陰に姫さんを引きずるが、姫さんは頭から血を流して意識がない!?

あの野郎、許せん!


「巫女、おでに捕まえられろ。それで世界は魔王様の物だ」


ヤツがオレに近づいてくる。

ヤツの狙いはオレだ。

オレがここを離れれば姫さんは助かる。

姫、僅かな時間でしたがオレは貴女に会えて幸せでした。


オレは姫の口唇にキスをした。

そして振り返って叫ぶ。


「巫女は、ここに居るぞ。オレが相手だ」


オレは近くに落ちていた筋肉勇者の剣を拾うと、牛男に向かって歩きだす。

剣はめちゃくちゃ重かったが、引摺りながらも前に進む。

少しでも姫から離れて、ヤツの関心をオレに集中させる為だ。


『ほう?巫女自ら我と戦うというのか?よかろう。その剣で我に一振するまで待ってやろう。来るがいい巫女よ』


舐めてんのか?!

奴はエラソーに腕組みすると、オレが近寄っても微動だにしない。

見てろよ、牛!

その余裕を後悔させてやる!!



ズル、ズルズル、ズルズル、ズルズル


はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ



なんだよコレ?!

姫さんが数秒で牛との距離詰めたのに、オレは未だに牛の足元に辿り着けない。


剣を引きずる手が鉛みたいに重い。

バーベルで作られた剣かよ?

汗だくで目眩までする。


『ブモ、ブモ、ブモ、待ちくたびれたぞ、巫女?日が暮れてしまうぞ』

「ぬ、ぬかせ!待って、ろ。今にその余裕を後悔させ、て、やる。ゼハっゼハっゼハっ」


そして数分後、オレはやっと牛男の足元に辿り着けた。

辿り着いて分かったがこの牛男、今更ながらにバカでかい。

本当にバカでかい。

見上げてもバカでかい。

おい、ドーヤって倒すんだ?


「ブモ、ブモ、ブモ。よく辿り着いたな。褒美に剣を受けてやる。やってみろ」

「い、い、言われ、んでも。でええぇいっ」


オレは何とか剣を持ち上げ、牛男の足に剣を突き立てた。


ガキンッ

「?!」


固い!剣が跳ね返って、オレはヤツの足元に尻餅をつく。


むんずっ。


その時、ヤツのデカイ手がオレを掴み上げた。

く、苦しい。


「なんだぁ?本当にちっこい巫女だな。ネズミかと思ったぞ?」

「くそ、放せーっ!」


ち、ちくしょう!

コイツ、オレを持ち上げてぷらぷらして、くはーっ、目が回るーっ!!


「貴様、巫女を放せーっ、でやああ!」


な、何?姫さんの声!!


ザンッ、「ブモーッ、手があああ?!」

「わぁ、落ちる?!ひゃあああ!」


シュタンッ、ばさっ

「ひゃ!?」

「巫女!無事か?!」


オレは、いつの間にか、姫にお姫様抱っこされていた。

姫に巫女がお姫様抱っこ。は?


しかも姫は金色に輝いている?

何がどうしてどーなった?



「巫女。私を選んでくれて有り難う。巫女のお陰で私は真の勇者になる事が出来ました」


え?そうなの?よく分からないオレは、取り敢えずコクコクと頷くだけだ。


「ブモーッ!よくも、おでの腕を!」


は?!

よく見たら姫の一撃は牛男の右腕を一刀両断で切断していた。

姫さんつえーっ!!


ドスンドスンドスンドスンドスンッ


「貴様~っ、許さん!貴様を殺して巫女を食らってやる!」


アイツ、まだ襲ってくるつもりだ?!

真っ赤な顔で迫ってくる!

うえっ!?

オレは食われちゃうの?

嫌━━━━━━━━━━━━っ!


「巫女、そんな事はさせません。その為にも力を今一度お与え下さい。まだ力が足りません」

「え?また、すればいいの?」


そういや、金色の光が弱くなってるような。

え、毎回キスしなきゃいけないの?

まあ、姫ならいいけど。

姫ならい………


いや、そのタコ口唇、姫の顔でやられてもキツイものが

「時間がない。ごめん」

「え」



ブッチューウッチュー、チュー、チュー

「………」バタッバタッバタッ

ガクン、ぷしゅーっ。



▪▪▪力が、抜けて、立て、ない。

それより息が出来なくて、死ぬかと、思った、よ。


んん?!

めっちゃ姫が光り出したって、ま、いいか。




「真の勇者に怖いものなし。いくぞ、ギュウギュウ王!」


姫は、スックと立つと剣を高く掲げた。


「ブモー、生意気なんだな!踏み潰してやるんだな!!」


どすっどすっどすっどすっ

ギュウギュウ王が突っ込んでくる。

姫は!?


「てええい、大回転斬!!」

「小癪な?!」


何かスゲー!?

姫がジャンプし、回転しながらギュウギュウ王に飛んでいく。

ギュウギュウ王は、それを斧で迎え撃つ。

果たして?!



ギュルルルルッ

ザザンッ

「ば、バカな━━━━━━━ッ!!」



だがギュウギュウ王は、構えた斧ごと姫に真っ二つになり、左右に倒れこんだ。

やったよ、姫!



ついでにオレも意識を失った。

なんで?



▩▩▩◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



う、頭痛い、まるで二日酔いだべ。

オレ、酒飲んでねーよな?

何故に?


って?オレ、誰かに抱っこされてるよな?

誰?このイケメン、知らないんだけど。


「あ、ええっと?貴方はどちらさんで?」

「巫女!良かった、目覚めたのですね。私は貴女の真の勇者でこの国の第一王子です」

「はあ、どうも?ところで姫はどちらでしょう?」

「姫なら、今、私の前におります」


?オレは、言われて前を見た。

だがそこにいたのは、あの震えていた筋肉王子???


「え、この人、王子さまですよね?」

「いやだわ巫女様、ご冗談を。タコマリウス王国王女、キンニクメリーです」

「は?」


この人、女性?女子だったの?顔ゴツくて筋肉モリモリで軍服みたいのを着てる人が?


「あの、スカートを履いていた女性は?玉座の右隣で?」

「ああ、それは民族衣裳を着ていた私です。あの民族衣裳は正装なので」


ニッコリ笑ってオレに説明するイケメン。


は?

それってあれか?

スコットランド民族衣裳的なやつ?

アンソニーか?


じゃあ、オレがキスしてたのはこのイケメンで、ファーストキスを捧げたのもこのイケメンで、おもいっきりディープなキスをされたのもこのイケメン???

はぁ?


イケメンは終始ニッコリしているが多分オレは真っ青だろう。

しかもオレは何故に今だイケメンに抱っこされている?


「あの、そろそろ下ろしてもらっても大丈夫ですが?」

「間もなく式が終わります。そうしたら下ろしますね」

「式?」


なんじゃ、それ?

方程式?


「私達の結婚式です」

「…………」


はいーっ!???


「貴女は私を選び接吻をしてくれた。接吻はこの国で《永遠の誓い》という神聖な行為。必ず結婚するという約束でもあります」

「あああ、あの、誤解があって」

「式の後で聞きますね」ニッコリ


ぐわあああ。

とても撤回できる状況じゃないーっ!!


「え、ええっと、夫婦の営みは魔王討伐後で」

「儀式ですから式の直後です」


ニッコリ笑って、目をギラギラさせるイケメン。

うぎやあああ!!






こうして、召喚巫女から力を受け取り真の勇者となったタコマリウス第一王子は見事、魔王軍四天王の一人を下し国に安寧をもたらした。

そして王子と巫女は、その勢いで魔王討伐も果たし世界に平和をもたらす事だろう。


その後は二人、仲むつまじく末長く幸せになったという、良くある物語の終局となるのだというハッピーエンドだ。


めでたしめでたし。





完?

























バッターン!



突如ドアが開き、ウエディングドレスを着た黒髪の美少女が駆けてくる。


「巫女殿!お待ち下さい!」、「巫女!」、「巫女どの!」


後を追う新郎と思われるイケメン。

と、大勢の式の参列者と見られる人々が後に続く。



美少女は、振り返りながら叫んだ。



主人公ヒーローでない主人公ヒロインなんて、やってられるか~っ!」





ちゃんちゃん。

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