第10話 過去の話しと女性同士?
◆タコマリウス王国
王城庭園
ケイ(敬)視点
ほとんど拒否権が無いに等しい話しであったが、考える時間をくれって言って逃げてきたオレ。
ツッカレたぜ、まったく。
「しかしフザケた話しだな………」
オレは庭園のベンチに腰掛けながら、さっきの宰相達の話しを思い出していた。
筋肉至上主義。
まったくナンセンスな話しだ。
その後の宰相からの補足話しはこうだ。
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◇王族に筋肉を求めたのは初代勇者が絶大な筋肉持ちだった事に由来していたらしく、後の後継が継承していくうちに今の筋肉至上主義が定着していったらしい。
◇また、近隣諸国からも突き上げも有り勇者国として『王族は筋肉が無ければ継承させない』との王族規範を作るに至ったとの事。
◇そして近隣諸国の突き上げ要因になっているのが《魔王討伐の失敗》という事だ。
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「何だよ、魔王討伐の失敗って………」
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巫女が召喚されたのは過去二回。
つまりオレは三回目だ。
そして異界の門を封印したのが初代巫女。
それから500年が経っている。
異界の門の封印は250年ごとに緩み、再封印に巫女を呼ばなければならない。
本来は魔王を討伐出来れば一番良いのだが、
魔王は姑息で強く毎回苦戦を強いられる。
様々な陰謀を巡らし、時には人を欺き、時には部下を捨て駒に使ってまで勇者と巫女の命を狙ってくる。
そして初代から丁度250年。
前回二回目の門の再封印が行われたが、そこで問題が起きた。
巫女の力は問題なかった。
勇者との相性もバッチリだった。
むしろその相思相愛が大変強く、勇者の力は初代を凌駕するとまでと云われたらしい。
当然その力で魔王そのものを討伐し、この戦いに終止符を打とうと魔王軍を蹴散らして門の中に攻め入る算段を立てたのだ。
《魔王を討伐すれば門は消える》
初代巫女からの言葉を頼りに前回勇者と巫女は、その刃を魔王の喉元に突き付け討伐は成功したかに見えた。
《だが討伐は失敗した》
結局、肝心なところで勇者が力尽き、その勇者の命乞いをした巫女が魔王に自身の名を教えてしまうという事態を向かえてしまったのである。
巫女は倒れ、危うく門の再封印までもが失敗するところだったのだが、巫女の機転で既に仕掛けられていた時限式封印魔方陣が作動。
辛くも門を再封印する事に成功したのだとか。
そしてむざむざ巫女を死なせた勇者は責任を取って放逐され、前回の魔王戦は終了したとの事だ。
その後、魔王討伐失敗の二代目勇者が細身で見た目、初代勇者と違って《筋肉がまったく無かった事が魔王討伐の敗因》との噂が大陸中に広がり、各国は競って勇者国タコマリウスに筋肉持ちの育成を国是とせよ、と申し入れた。
こうして勇者国タコマリウスは次代勇者は筋肉がある事と定め、国民に筋肉を鍛える事を推奨し、合わせて王族の王位継承権を《より筋肉が素晴らしい者》に与えると定めたのだという。
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何て事だよ。
筋肉云々ってほとんど迷信の類いじゃね?
だいたい巫女が命まで捨てて守った勇者を放逐するって、異界の門封印の功労者を足蹴にして亡くなった巫女の気持ちを踏みにじってないか?!
そんでタコマリウス王族はその時から筋肉に囚われって、変な言い方だな。
筋肉の呪いに縛られてるって事だよな。
「あら、巫女さま?」
ん?
突然のハイソプラノ。
おお、やっとヒロインのお出ましか、って声の方を振り返れば
「昨日の召喚の時以来ですわね。タコマリウス王国第一王女ですわ」
「あ、ははいっ」
ガクーッ!
声がアニメ声優並みに良かったのに、振り向いて見れば、軍服ボディービルダーの極致が花を愛でながらクネクネ内股で歩いてくる。
この落差、キツイんだが。
いや、それは失礼な物見だったわ。
一応相手女性だし、こうなったのは間違った価値観の押し付けが彼女の見た目を決定付けたんだから、そこは尊重すべきなんだろう。
「おはようございます姫様。昨日以来でしたね。お身体は大丈夫でしたか?」
「ありがとう巫女さま。心配して下さってたんですね。申し訳なかったですわ」
「いえ。あんな牛男が城を襲ったんです。姫様は大変怖い思いをしたかと思いまして」
「気遣い、痛み入りますわ。そういう巫女さまも
「はは、そう見えましたか?」
「そうですよ。同じ女性なんだから怖かったら怖がっていいのですわ」
同じ女性、ね。
うーん、何だか姫と居るとアンバランスだな。
姫は見かけに寄らず乙女なようだ。
対してオレは心が男。
本当はオレが男で今の姫の姿。
姫がそのまま女で今のオレの姿。
それが正解なんだと思うくらいだ。
世の中、上手くいかないもんなんだよな。
「でも
「感動、ですか?」
「あの時、お兄様が吹き飛ばされてしまったでしょう?その時、代わりに剣を持って牛男に対峙したの、巫女さまでしたわ。あの時の巫女さまは逞しくて、本当は勇者様じゃないかと思ったのですわ。それで感動したのです」
「あ、ははは、そうですか。そんな風に思ってくれたのなら必死に牛男に向かった甲斐があったというものです」
空の玉座の横、たった一人でそのゴツく大柄な身体を必死に小さくして、震えて辛うじて立っていた彼女。
本当に健気▪▪▪か?
いや、改めて見てもメッチャ世紀末なんちゃら神拳だよな?
ヒャッハーの一人がガクブル内股で助けを求めてる風にしか見えなかったんだが?
いやいや彼女は被害者、彼女は被害者。
このギャップもやむを得ない。
目を瞑って声だけ聞いたら、其なりにそそる美声の持ち主だし?
だし?
アレ?
何か違和感に気づいたような??
そういやチビッ子ヒゲ長王様、筋肉っぽくないよね??
アレレ???
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