第11話 お姫様の弟

◆タコマリウス王国

王城庭園

ケイ(敬)視点


「どうなされたの?巫女さま」

「へっ?あ、その、そういえばチビっ子、じゃなくて、王様は筋肉質じゃ無いように見えますが、洋服に上手く隠れてるんですか?」

「ああ、巫女さまはタコマリウスの王位継承権の話しを聞いたんですわね?」

「え、ええ、まあ」

「お父様は婿養子なんです」

「婿養子」

「はい。王位継承権を持っていたのは母の方で、それはもう立派なキンニクメリーでありましたわ」

「そ、そうなんでしたか」



そ、そっか。

あの王様、マスオさんだったんだ。

じゃあ奥さん、包丁持ってドラ猫追いかける筋肉マッチョな人だったと?

ただの危ねー人じゃんか。



「実はわたくし、第一王子の兄とは父親違いなんですの」

「父親違い、えーと?ようは後妻ならぬ後夫って事ですか?」

「いえ、前夫はいましたから、父は情夫になりますね。母は日頃から《小さくて可愛い》って父を愛でていたと聞いてましたから」

「小さくて、か▪わ▪い▪い???」



あの、チビッ子王様が?

あの、ぞいぞいゲームキャラが?

あの、無駄に長ヒゲ撫で撫で逃げ上手が?


(くるり『ワシ可愛い?だぞい』)

《花畑をバックに振り向くチビッ子長ヒゲ王様▶ケイ(敬)が絶賛想像中》



「ぶほぅっ!???」

「巫女さま?」

「い、いや、何でも……」



あんなぞいぞいチビッ子長ヒゲ王が情夫!?

確かに小さいからそんな頃もあったのかと、思えなくもないが想像したくねー!


筋肉奥さん、随分守備範囲が広かったん!?

ま、まあ、世の中色んな価値観 アリエル人魚じゃないよだから?

で、いいのかタコマリウス王国!



「………………」放心

「巫女さま?」

「は?い、今オレは何を!?」

「大丈夫ですか?酷くお疲れに見えますが」

「かなり、お疲れ、か、も」

「それはいけませんね。弟を呼びますので、部屋まで付き添わせますわ」

「おとうと?」



おとうと?

とらうと??

トラウトマス科目???

川が近いとか????



ガサッ

「姉貴、ここにいるぜ」

「あら、いつの間に来たの?でも丁度良かったわ。巫女さまがお疲れみたいなの。お部屋まで連れて行ってあげて」

「だ、誰だ!?」

「ちっ、誰だ、はねぇだろうが。未来の夫だぞ。もっと気持ち良く迎えらんねぇか?俺は第二王子。キンニクタロウの称号持ちさ。そんで正当な次期王様だ。あんな出来損ないの兄貴じゃなくってな」

「???!」



何だ何だ何だ?!

いきなり茂みから現れたのは、豪華な刺繍の姫と似た軍服姿の背高の男。

健康的に日焼けした顔、肩幅広くて筋肉質。顔は小顔でそこそこのイケメン、はどうでもいい。

だけどハチャメチャ俺様で、真っ直ぐオレに向かって来る!?

おい、怖いから近づくんじゃねーっ!!



「お、お前、来んな?!」

「はあ?今姉貴から、お前が疲れてるから部屋に連れてげって頼まれたんだよ。素直に従えや」

「わっ!?」

「はあ、世話のかかる巫女さまだな。部屋に連れてくだけだ。何もしねーよ」

「???!」



第二王子は難なくオレを俵抱きすると、スタコラサッサッと早走りでその場を後にしていく。

かろうじて顔を上げたら、姫がニコニコしながら手を振っていた。


あああもう!

まだ話し途中だったっのに何でこんな事になった?

こらあぁ!下ろせよ、この野郎!



「暴れんな巫女さま。もう着いたぜ」

「着いたって何処だ、ココ!?」

「ああ、俺の部屋だ。今日から共に暮らすんだろ?オヤジからそう聞いてるぜ」

「勝手に決めんな!オレは何も許可してないっ?うわあああ?!!!」


ボンッ、ドサッ

「ぐっ?!」



第二王子の野郎、オレを高々とベッドに放り投げやがった。

めっちゃ怖いからヤメレ!



「ほら、疲れてんだろ?サッサッと寝ればいいじゃん」

「こんな乱暴に投げられて寝れるかーっ?!ふざけんじゃねぇ、馬鹿野郎!!」

「お、威勢がいいなぁ?いいねいいね。それに1人称が《オレ》ってのも気に入った。案外俺の好みじゃん」

「はあ?オレはお前なんか好みじゃねーよ」

「まあ、そう言うなよ。小っちゃく可愛い子猫ちゃん」

「ゾワッ気持ち悪い事いうな!鳥肌立ったじゃないか!」

「ぶっ、ははは。面白い巫女さま。何か友達と話してるみたいだ。ますます気に入った。長い付き合いになるんだ。末長く宜しく頼むよ」

「宜しく、頼まれる理由がない!」

「ヘソ曲げちまったか。投げた事は謝る。悪かった」

「な、何のつもり?!」

「俺はアンタと仲良く成りたいだけなんだ。何もしない」

「!?」



そう言いながらオレに手を伸ばしてくる第二王子。

何だ、本当に仲良くなりたいだけ?

あれ?

よく見たらコイツ、顔が随分若い??

え、幼い感じがあるんけど。



「ちょっ、ちょっと待て。待って」

「はい握手。んで、待つよ」

「あくっ、痛たたた!?」

「あ、わりぃ。うっかり普通に握手しちゃった。俺の力は皆より強いんだったわ。大丈夫だった?」

「っ、へ、平気だ。骨は折れてない」

「良かった。次は気をつけるよ」

「…………急に素直で怖いんだが」

「別に怖い事しないよ」

「言葉のあや、だ。その」

「うんうん」

「っ、何かちょーし狂うなぁ」

「うん」

「第二王子って今いくつ?」

「いくつって、歳?」

「そう」

「12だぜ」

「12いぃ!?」



おいおいおい、12っつうたらまだ小学生じゃんか。

合体がたいがデカイから勘違いしてたけど、第二王子はまだ子供だ?!

子供、ガキ、お子ちゃまだよ!


おいぃチビッ子長ヒゲ王様よ!

いくら自分がチビッ子だって、子供と結婚させるって何考えてんだ!

背徳感がハンパねーっ!!



「何考えてんだ、あの王様……!」

「オヤジ?いつもの事だぜ。何でも勝手に決めて俺らに押し付けてくる。まあ、王様なんだからそーゆーもんじゃね?今さらだぜ」

「不満はないのか?」

「不満?うーん、無いと言ったら嘘になるか。でも考えても仕方無いよ。えー、オブリス何とかってヤツ?」

「ノブレスオブリージュ 、だろ?」

「そ、ソレ。王族の義務ってヤツ。王族、特に勇者国タコマリウス王国の王族は、いつでも勇者の責務を忘れる事なかれ。これ、オヤジと宰相から口酸っぱく言われててさ、うるさいったらありゃしない」

「チビッ子長ヒゲ王様め!」

「チビッ子長ヒゲ王様?ソレ、オヤジのあだ名?いいね。合ってる合ってる、いいわあ」

「おい、迂闊に他人に話すなよ。オレが宰相に怒られる」

「そ、宰相。「人間離れしてて怖過ぎ」」

「「………………………」」

「ぷっ、あはははは!」

「くっ、ふはははは!」



あははは。

第二王子と声が揃っちまった。

いやはや何時振りかな、こんな気持ち良く笑ったの。

まるで親戚の従兄弟と話してるみたいだ。


最初は俺様のヤバいヤツって思っていたけど、相手は友達が欲しいだけのまだ子供。

案外、先入観は当てになんないや。



バタンッ



「「!?」」

「第二王子、何をしている!」




その時だった。

部屋のドアが激しく開けられ、怒鳴るように第二王子を呼ぶ強い声が部屋に響いた。


その人物は辺境にモンスター討伐に出ていたハズの、あの第一王子。


眉間にシワを湛え第二王子を睨んでいた。


何故に?

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