第22話 失踪と責任

◆タコマリウス王城

王宮


「はあ?巫女が居ない?!なんだよそれ!」


「も、申し訳ありません。私が朝の朝食を片付けにいったところ、既に部屋にはおりませんでした」




城内に響く怒鳴り声。

声の主はタコマリウス王国第二王子。

それにか細い声で応対するのはウサギ獣人の巫女付き侍女。

そして第二王子の怒りの理由は人の居なくなった第一王子宮である。


第一王子がモンスター討伐で城を空けた。

それを見はらかい、タコマリウス王が第二王子に巫女を迎えに行かせたのである。


理由は前日に内輪で発表した巫女と第二王子との婚約。

半ば強制的とはいえ正式に婚約という形になった訳で、それはつまり第二王子の婚約式を開き国内外に公式に発表するという流れだ。


その前までに第二王子と巫女の接吻をさせ、第一王子と同じ《真の勇者》への覚醒を済ませてしまおうという王の目論見でもあった。


しかしその目論見は早くも崩れた。

巫女が失踪してしまったからである。


そして巫女の失踪が知れて30分後、宰相の手配で王を交え対応策を検討する事になり、王、宰相、第二王子、第一王女の4人で話し合いが持たれた。

勿論、すでに極秘てはあるが宰相下の情報部隊が巫女の捜索に乗り出しているので、ここは巫女の失踪の理由を探る話しになる。




「このような失態が他国に知れれば、我が国が巫女を保有する事に異議を唱える国が出てくるやも知れぬ。なんという事態だぞい!」

「そればかりではありません。万が一この事が表沙汰になれば、我が国の《勇者国》としての位置付けが揺らぐ事になります」

「ああ、何という事でしょう。巫女は何処に?!」

「ここで話していても仕方ありません。第一王子不在中の巫女の失踪。誘拐も含めて早急に捜索に当たらせましょう」

「「「「誘拐?!」」」」

「あの、お言葉ですが宰相閣下。それはいささか性急過ぎるのでは?」

「可能性の問題です。現状では巫女の意思で失踪したかは定かではありません」

「なんて事?!」



宰相から誘拐の可能性を言及され、第一王女は絶句した。

巫女とは、この数日間でかなり仲良くなっていると思っていた王女。

女の子にしては多少べらんめえな所もあったが、常識的な受け答えと気立ての良さは非常に好感が持たれた。

将来、義妹になるかも知れないのだと思い、これからお互いに信頼関係を構築していこうと思った矢先の事態であったからだ。




「なんだよ、なんだよ!?ここまで上手くいってたのに!」

「上手くいってた?どういう事??」

「宰相に言われてたんだ。今世の巫女は子供ぽいのに弱いって。そうでないと近寄ってくれないってな。だから俺は子供っぽく振る舞ってみたんだ。そしたら巫女は俺の親友みたいに接してくれた。何か嬉しかったなぁ。俺、もう巫女が大好きなんだ。巫女が俺をどう思おうと俺は巫女から離れられない。なのに失踪って、あんまりだ!」

「第二王子………?!」




そういえば最近の第二王子は、昔に戻ったような振る舞いをしていた。

早くから行われた帝王学と勇者教育により、幼い時代を子供として同世代と過ごす事が出来なかった彼。

そんな第二王子は、すっかり素の笑顔を見せなくなっていた。


妙に大人びた彼。

いつしか友人のような心許せる存在もなくそれは、無理やり背伸びした子が仮面をつけて大人を演じているようなもの。


更に最近は自身より低位の者、劣る者に対して相手を卑下する言動や態度が目に余るようになった。

城内のメイドや部下、そして勇者としての見栄えに劣る父親違いの兄に対して恒常的に振る舞うようになった。


それでも王と宰相には従順であり、彼らのいう事に日々言いなりである彼。

そしていつの間にか、駆け引きの出来る頭デッカチで嫌な大人の真似ばかりする子になっていた。


それで宰相に言われたとはいえ、先ほどの言動から巫女に対しても偽りの自身を見せて彼女にすり寄っていた事が読み取れた。

だから第一王女はギョッとして驚いた訳だが、後に続いた言葉は彼女を安心させるものだった。


どうやら第二王子は初めて恋に落ちていたようである。


最初は確かに第一王子に対する駆け引きで、巫女を自身の側に引き寄せる為に自身を演じて見せていたのだろう。

ただそれが、彼の忘れていた子供時代の純心さを取り戻す切っ掛けとなった様である。


最早第二王子にとって巫女は親友であり、遊び相手であり、心許せる無くてはならない大事な存在になりつつあるのではないだろうか。

例え発案が宰相のものだったとしても、良い方向に変わったのは僥倖だ。

第一王女そう考察し、焦りながら自身を語る弟を好ましく思えるのであった。


チラッ

その発案者である宰相を王女がチラ見すると、彼は薄笑いを浮かべている。


王女はそのまま目線をずらした。

おそらく第一王女の心すら読んでいるのではないかと連想される宰相の振る舞いは、王女に恐れすら抱かせる。


策略家で謀略に長ける彼は、王が何処から連れてきた正体不明な人物である。


未だ底が知れないと第一王女は思った。




「交代時間で巫女を見失った護衛騎士どもは極刑であるぞい。宰相、そう公やけに発表するぞい」

「お父様?!」

「第一王女、意見は受けんぞい。巫女は神が与えた救世、我が国の根幹ぞ。それを見失った護衛共は魔王の尖兵と結託していると同義ぞい。極刑は当たり前だぞい!」

「そんな事よりオヤジ、早く巫女を捜しだしてくれ。俺は巫女が心配なんだ!」

「お待ち下さい、お三方」

「「「!?」」」



王が巫女付き護衛の極刑に言及。

第一王女が止めに入ろうとしたところに巫女の失踪に動転して焦る第一王子の図。


まさに会議は踊るが進まずである。


そこに制止の声を放ったのは宰相。

彼にはこの状況を打開する一つの案があったようだ。




「未だ誘拐の可能性もありますが、巫女が自身の意思で失踪したのなら、まだヤリようがあります。巫女が何を不満に失踪したかは分かりませんが、そろそろ彼女には自身の責任の大きさに気づいて貰う必要がありますな」

「ほう、失踪した巫女を呼び戻す代案があるのかだぞい宰相?」

「「?!」」

「では僭越ながら、これからの事は私めに一任頂けますでしょうか」

「構わんぞい、一任するぞい」

「どうすんだ宰相?俺も巫女が戻るなら手伝うぞ」




何だか、訳の分からない内に宰相に全てが委ねられた状況。


一人、腑に落ちない顔で第一王女が言葉を発した。




「あの、責任って、巫女さまに何の責任があるのでしょうか?」

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