第21話 微塵切りと家出?
◆タコマリウス王国
城内
ここはタコマリウス王国タコマリウス城。
その城の中央は堅牢であり、故に最も高貴な人々の住まいがある。
ギィイ………
ふと見ると、とある大扉が僅かに開く。
この扉は多彩な装飾が施されており、この部屋に住む人物がかなりの高貴な身分である事が分かる。
果たして、中から現れたのは腰まで長い黒髪と白赤の典型的巫女服を来た小さな少女。
彼女は顔だけ扉から出しキョロキョロと辺りを伺っている。
どうやら人が居ないのを確認している様だ。
バタンッ
タッタッタッタッタッタッ
普段この通路には護衛の騎士が詰めているのだが、たまたま今は騎士の交代時間。
通路が無人と知るやいなや、扉から飛び出し走っていく巫女の少女。
彼女は何処に向かっているのだろうか?
タッタッ、タッ………
通路の分岐点に差し掛かり足を止めた少女。
分岐点の二つの通路を見比べて悩んでいる。
どうやら道が分からないようだ。
ヒクッヒクヒクッ
突然その愛らしい鼻をヒクヒクさせて、顔を上げて何かを確かめる彼女。
匂いを嗅いでいるのだろうか?
「巫女さま?あら巫女さま!?お部屋に巫女さまがいないわ。巫女さまーっ!」
ビクッ
「………………!」
後方で巫女服少女を呼んでいると思われる大きな女性の声。
その声にビクッと肩を上げる巫女服少女。
どうやら彼女は無断で部屋を抜け出したようである。
ダダッ
その瞬間であった。
巫女服少女は分岐の右通路を走り出したのだ。
どうやら既に道を定めていたようだ。
果たして彼女の向かう先は何処なのか。
通路の先はだんだんと狭くなり、やや貧相なドアが続く路地を階段で降りていく。
するととある通路の先、一つの質素な木製扉の先から湯気と男達の活気のある歌声が聞こえてくる。
彼女は恐る恐る通路を進み、そのドアノブに手を掛けた。
どうやらここが彼女の目的地だったようだ。
いったいここは何処なのだろう?
彼女の目的は果たして?
◆◇◇◇◇
タコマリウス王城
一階
ケイ(敬)視点
胡瓜三昧に嫌気がさしたオレは、やっとの事で着ぐるみメイドを巻き、鼻を頼りにココまで来た。
そして間違いない。
オレはオレの鼻を信じている。
このドアの向こうはオレの夢が溢れてる。
これだけは真実だ!
ヤッとだ。
これでヤッとオレの努力は報われる。
報われる筈、だ。
これ迄のオレの努力は以下の通り。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ニンジンと胡瓜の盛り合わせ。
アスパラとレタスのトマト和え。
白菜と菜の花の塩まぶし。
ブロッコリーとジャガイモスライスの盛り合わせ。(ジャガイモ生は食えん)
きのこと青菜の山盛り。
玉ねぎスライスとほうれん草和え。
(涙止まらん!)
生野菜全部入れ山盛り皿。
ピーマンとゴボウの微塵切り料理。
ニンジンとゴボウのおやつスティック。
(系統同じでおやつになるか?)
その他、生野菜エトセトラ。
《基本全部、生野菜です》
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
拷問とも思えるベジタリアンな日々。
その日々もこのドアに辿り着く為だったと思えば意味も出てくる。
オレはこれから味わうであろう素晴らしき黄金の感動を一生忘れる事はないだろう。
そしてココから始まるのだ。
オレの異世界グルメライフが!
さあ、異世界の未だ見ぬ食材達よ(主に肉)、見事我を驚かせてみせよ。
我が胃袋は音楽を奏でて待っておるぞ!
ぐ~っ
って、
ドアノブ回して暫しフリーズのオレ。
何でやねん?!
いや、さっきから聞こえてるんだが、この歌声は何なんだ?
とっても嫌な予感がするんだが!?
「だがオレに躊躇の文字は無い。肉食巫女に撤退の二文字はあり得ないのだ!」
ぐっ
ガチャンッ「!?」
◆
ハイホーハイホー、ララララ♪
今日も楽しくお料理つくろ。
そしたら巫女さま大喜び。
いっぱい勇者とキスするよ。
たちまち世界は平和だね。
さーさ作ろう美味しいご飯。
ぼくらは巫女さま専属コック。
ハイホーハイホー、ララララ♪
今日も楽しく野菜料理。
そしたら巫女さま大喜び。
いっぱい勇者とスキンシップするよ。
たちまち世界は平和だね。
さーさ作ろう美味しいサラダ。
ぼくらは巫女さま専属コック。
何だコレ?
ファンタスティックな筋肉コック達がコサックやりながら下ごしらえしてやがる???
しかも何だ?
全員、まな板と包丁を用意して片手にはキャベ?キャベツか。
キャベツをまな板に乗せて切らんとしている??
「そうれ今日も巫女さまは、新鮮お野菜ご所望だ。皆の者、丹精こめて御造りせよ!」
「「「「「分かりました、料理長」」」」」
「専属メイド二号様から巫女さまはキャーベツの微塵切りを食べたいとの事だ。だから今日は国一番のキャーベツを手に入れた。見よ、この輝きを!プリプリとしておる!」
ぐぐっ
(片手にキャベツ掲げて握りこぶし)
「「「「「おお━━━━━っ?!」」」」」
「だが、これをふわふわサラサラに切るにはビミョーな力加減と素早い包丁捌きが必要になーる。ここでものを言うのは我らの勇者筋肉だ!」
「「「「「我らの勇者筋肉!!!」」」」」
どおぁおおーん。(背景擬音)
うへぇ、コテコテに濃い顔の筋肉もりもりコック達が今正にキャベツ微塵切りをしようとしている。
コイツらがオレの野菜盛り作ってたコックか?冗談だろ!?
って、着ぐるみメイドの指示だってぇ?
まさか、あのキャベツ微塵切りが今度のオレのご飯なのか?
がっくしっ
(崩れ落ち、床に手をつくケイ(敬))
何してくれんだ、あのウサギ!?
オレをベジタリアン化して何狙ってんだ?
ふざけんな!!
「そして見事、料理で巫女さまのハートを掴んだ者は、巫女さまから熱い接吻を頂ける。それはつまり我らの宿願、真の勇者覚醒と巫女さまゲットが叶うのだ。気張れよ同士諸君。巫女さまのくちびるは君達のものだ!」
「「「「「「うおお━━っ!」」」」」」
うわわっ!
コイツら、オレのくちびるを狙ってんのか!?
という事はこのコック達も勇者候補なのか?
ひぃっ、近寄りたくねーっ!
反射的に口を押さえたオレは、見つからない様に息を殺して厨房の隅に隠れた。
危なかった。
肉欲しさに声を掛けるところだった。
とんだコック共だよ。まったく。
はぁ、
「しかーし、勇者たるもの、何時如何なる時もトレーニングは忘れない。例え料理を作っていても、勇者トレーニングは大事なのだ。だが、より良い料理を作る為には中々両立は難しい。しかーし、今諸君達が行っている《勇者ダンス》はその難題を解決した。我らは料理をしながらでも確実な《勇者肉体》の構築が出来ておる。安心して料理に集中するのだ。そしてあの
「「「「「「おおっ!!」」」」」」
ザクザクザクザクザクザクザクザクッ
ザクザクザクザクザクザクザクザクッ
ザクザクザクザクザクザクザクザクッ
そしてコサックのままキャベツを微塵切りにするコックの奴らって、そんなのはどうでもいいっ。
何だよそれ?!
オレは無性にムカムカしている。
こんなところでも第一王子を卑下するのか?
そんなに勇者の
お前ら筋肉バカよりずっと王子の方がカッコいいわ!
全然お前らオレの好みから外れてますから!
汗だく筋肉達磨気持ち悪いから!
王子はそんな汗だくでオレに触った事はありませんから!
論外ですから!
はあはあっ
本当にくそだな、他の勇者候補の奴らって。
オレは今後、絶対に筋肉には近寄らないからな!
ってアレ?
オレ、怒ってんのか??
第一王子の為に?
いや、これは友愛からの思いだ。
親しい親友の陰口を聞いて怒るのは当たり前。
だって第一王子はオレを助けてくれたし。
その、間違いで(キス)しちゃった間柄だし?
う、何か顔が熱いなぁ?
第一王子の顔が浮かぶとドキドキして落ち着かねーっ!
は?
ま、まさかこれが同▪性▪愛ぃぃ?
いわゆるBLなの?!
これがBLっていうものなの??
オレ、ついにBLに目覚めてしまった???
いや今オレ女だから一応TL?!って、ヤヤコシイわ!
ぐわあああ無い無い無いよ、断じて無い!
オレは美女集めて百合ハーレム狙いなんだ!
イケメン集めて逆ハーレムは罰ゲームにしかなんねーっ!
くそっ、元はと言えばコック共が王子を馬鹿にするからだ。
本当、勇者育成って間違った価値観しかないんじゃないか?
ん?
って、こいつら汗だくでやたらバッチイな!?
おい、料理扱うコックの癖に不衛生過ぎないか?
あ!汗が飛び散ってキャベツ千切りにかかってないか?
おおいって、まさか!?
「うおおおーっ。見よ、この綿のようなだんりょくと繊細且つ細かい繊維のような千切りキャベツを。一口食べれば豊潤な甘味と舌触りに巫女さまはメロメロだ!」
「なんの!見よ、我が迸る汗を。毎回のカット野菜に自然と塩味を与えるこの素晴らしさ。誰も真似はできぬ!」
「ははは、お主達は気づいておらぬが、ここにいる全員がいつも汗を迸しっている。巫女さまは我らの男汁を自然と摂取なさっておいでだ。いずれ我らの味は巫女さまに浸透し、次代の勇者の力になる。つまり巫女さまは既に我らのもの!」
「「「「「「我らのもの!!」」」」」」
な、んだ、と?
そーいやぁ、塩も無いのに出された野菜はビミョーに薄味がついてました?
ならオレは、強制ベジタリアンさせられていただけじゃなくコイツらに日々、
うっぶっ、おろおろおろおろっ
(虹)
もう嫌だぁ!
オレ、家出する━━━━━━!!(涙)
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