第20話 肉

◆タコマリウス王国

辺境領タコール

領主邸宅


ガラガラガラガラッ

パコパコパコパコパコパコッ

ザッザッザッザッ


タコマリウス王都から離れること早馬と戦馬車で3日。

強行軍で騎士団の勇者候補30騎と共に辺境領タコールに到着した第一王子。

出迎えたタコール領主に一礼をした。




「これはこれは第一王子。遠路ご苦労様で御座います」

「うむ。そちらこそ辺境の統治、苦労をかける」

「なんの。先祖伝来の土地、子孫が守るのは当たり前で御座います」



第一王子に標準的な挨拶で終始するタコール領主。ヒゲの中年男性であるが表情は至って和やか。

そこに焦りや緊迫感は微塵も感じられない。


モンスターの大群が押し寄せたとの報告の割には、あまりに緊張感のない対応だ。

第一王子はその違和感に一抹の不安を覚えた。




「して領主。モンスターの大群が現れ、領地を襲撃しているとの報をもらったのだが?」

「モンスター大群の襲撃………はて?それはどのようなお話でしょう」

「モンスターは魔王軍の尖兵、魔王軍の進攻があったのではないのか?」



領主は首を捻ると、側近と思われる領主に付いている部下にアイサインを送るが、側近は首を振っている。

それを受けて、改めて第一王子に顔を向けた領主。

王子の問に口を開いた。




「おかしな話しで御座います。少なくともこの数日、そのような話しは領地から上がってはおりませぬが」

「モンスター大群の襲撃が無い?」

「はい。タコール領は至って平和。年初からは作物もよく育ち、領民の生活も安定しております。モンスターの大群も飢饉も災害もありませぬ」

「…………………………」




領主の話しに腕組みし思案する第一王子。

誤報、という事なのだろうか。

部下達も顔を見合わせる。




この世界に未だ、通信機のような物は無い。

最も有効な連絡ツールは、伝書鳩による都市間の手紙のやり取りである。

街道沿いに伝書鳩の基地局を置き、それらを繋いで遠方からの連絡文を送るのだ。

確実性を担保する為、数羽に同一の書簡を託す事を基本としており、当然ながら連絡文は簡単な短文で表現される。

当然ながら数羽に同一の内容が託される為、誤報も起きにくいとされている。


異界の門が封印されて500年。

取り残されたモンスターと魔族は討伐もされているがその数は一進一退だ。


モンスターは繁殖する。

それを超えて討伐出来るだけの戦力は各国に無かった。

元々は戦いを知らない平和な国家がほとんどだった世界である。

その国民性が簡単に変わる訳もなかった。


そんな中で初代巫女と初代勇者が建国したタコマリウス王国。

勇者育成を目的とした戦闘国家として樹立。

その高い育成システムは一定の効果をあげ、質の高い戦士育成に特化した国家を形成した。

また国家基本として《傭兵の派遣》を掲げ、他国からも勇者候補を募り大陸中のモンスター災害に対応する体制となっている。


よって、タコマリウス王国では勇者国として他国からの依頼にも対応する為、この伝書鳩システムは何重にも確実に届くよう、良質な伝書鳩の育成には抜かりはなく、また伝書鳩運用官、伝文執筆官なる専任の役職を設け、各町村にまで配置していた。


つまり、誤報は極めて皆無であるという事である。




「…………伝文は三通とも同一文。《タコール領▪モンスター大群▪援軍》とありました。城の執筆官が本物と鑑定しております」

「…………………」




(届いたのは予備も含め三通。放った伝書鳩が全て到着した事になる)



王子は伝文の信憑性について考えていた。

しかし到着していたのは三通。

その三通とも城の執筆官が目を通し、筆跡や文法的に本物と鑑定されているなら誤報ではなく本物だ。

ならばタコール領にモンスター災害が起きてないのは説明がつかない。




「何が起きている?」




その時、王子の脳裏に浮かんだのは城の巫女の事だ。


(私が曲がりなりにも真の勇者として覚醒した事は王城内では既に知らぬ者は居ない。もし伝書鳩自体の運用が無く伝文が完全に偽造されたものだとしたら………?)




「これは最初から私を城から引き離す為では!?」

「殿下?」




何かに気づいた第一王子。

慌てて部隊長を呼びつける。




「全部隊、直ちに転進!大至急、王都に戻る。急げ!!」




強行軍でタコール領から再びの王都へ。

王子の予感は当たるのか?

王城は何が起きるのか?


風雲急を告げるこの事態。

果たしてケイ(敬)の運命は!?




◆◇◇◇




第一王子が転進する数時間前

タコマリウス王国

王都王城

ケイ(敬)視点


ポリッポリッポリッ


「キューリー美味しいですか、巫女さま?」

「いや、それだと夫人だから」

「フジン?」

「何でもない。あー美味しいなぁ、この何もかけない素のキューリー。青臭くて。出来れば味噌が欲しいわぁ」

「ミソ?ミョーガーですか?」

「もういい。この世界、マジに飯不味。調味料がほとんど無いってアンマリだ」



正直先日の朝以来、ベジタリアン食の毎日。

しかも本日は胡瓜の山盛り。

いったい何の拷問だーっ!?


そんで調味料が僅かな塩だけ。

いやミネラル補充は足りてんだよ!?

オレは肉が喰いたいんだよ!

肉だよ肉!

肉━━━━━━━━━━━━━っ!!




「はあはあはあ」

「巫女さま、震えてますがお疲れですか?」

「違う。禁断症状が出てんだっ」

「キンダンショウジョウ?」

「オレは肉食巫女だ。肉がないと生きられないんだ」

「まあ、それは大変ですね」

「そうだろう?だから胡瓜の山盛りはパス。このままだとカッパになっちまう。だから肉を持ってきてくれ」

「分かりました、肉ですね。今お持ち致します」

「おお、やっと分かってくれたか?!」

「はい。巫女さまはお肉が食べたいのですよね?」

「そう、そうなんだよ!肉が喰いたいんだ!!」

「はい。では少しお待ち下さい」



と、言って出ていく着ぐるみメイド。

やけに素直に出て行ったな?


でもいいか、これでやっと肉が食える。

え?肉だよ肉。

やっぱり飯は肉でしょ!


やっとまともな飯にありつける。

ベジタリアンは卒業だ。

やったぁ!(万歳)




カタンッ

「はい、巫女さま。お肉をお持ちしました」

「………………」

「あら?どうされました、巫女さま?巫女さまお望みの《お肉》ですが?」

「…………二号さんや」

「はい、二号はココにいますよ」

「コレハ肉ナノカ??」

「はい。お肉ですよ」

「………………」

「畑のお肉って言われているダーイズです」

「だ、大豆っ」

「あら、泣いてるんですか巫女さま?」

「くぅっ!」

「そんなに嬉しかったなんてメイド冥利につきますわ。今後は毎食ダーイズは出しますね。だから安心して食べて下さい、巫女さま?」



ああ、涙が止まらない。

肉が大豆になっちまった。

これは泣くしかないでしょう。


誰かオレに肉を与えてくれーっ!!

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