第23話 勇者国の事情と巫女の行方

◆タコマリウス王城



結局、巫女の事は宰相に一任されて会議は終わった。





「第一王子を巫女から離したというのに、肝心の巫女が居ないでは意味が無いぞい!」



三人と離れた王は自室に向かいながら、自身の思惑が上手くいかない事にジレンマを感じていた。


王は元々、自身の血を受け継ぐ第二王子を次期王位に推したい気持ちが強かった。

ただ、第二王子のネックはよわい12の若輩で勇者としての実績と経験が無い事。

その理由で次期王位の確定は王妃から《待った》をかけられていた。


だが筋肉至上主義のタコマリウス王国において、筋肉が付いてない王族の第一王子が巫女に選ばれ、モンスター討伐の実績を作っていく事がどうしても許せない。


また他国から見られる場合で、第一王子の存在は今後に問題が生じる恐れがあり、王は気が気ではないという事情があった。


それは初代勇者から続くタコマリウス王国の存在意義と云われるもの。



《真の勇者イコール絶大な筋肉》



現在、世界各国の勇者認識は《筋肉持ち》が公けな認識とされている。

勇者国タコマリウス王国は唯一巫女が降臨する国で、歴代の勇者達は絶大な筋肉を示す事で、巫女から力を得る事が出来るとされていた。

だからこそ勇者国タコマリウス王国は、勇者排出国として世界各国から信任され、その勇者の卵の育成から人材の派遣までを独占してきた経緯がある。


そうする事で特に輸出品目のないタコマリウス王国は、各国から多額の助成金を得ている事は周知の事実である。


元々タコマリウス王国の地は農業が不向きな荒れ地を主な国土として建国されていた。

よって現在も食糧や様々な生活必需品は他国からの輸入に頼らなければならない実状がある。


それで第一王子の話しに戻るが、巫女が筋肉の無い第一王子を選び、その王子が力を得て魔王軍四天王の一人を撃破した。


それはつまり、タコマリウス王国の勇者基準である《筋肉》が無くとも巫女は力を与える事が可能━━━━



(巫女さえいれば誰でも力を得る事が出来る)



━━━━という事に他ならない。


これは大変な事だ。

タコマリウス王国の存在意義すら犯しかねない重大なる事態なる。


万が一他国にこの事が知れれば、タコマリウス王国は巫女の貸し出しだけ他国から迫られるかも知れない。


それに伴い、現在タコマリウス王国が担っている勇者育成事業が立ち行かない事になり、各国からの助成金も激減するだろう。


【巫女の力無くとも常人を遥かに超える】上位筋肉勇者の力。


その力だけでも大したものなのだ。

それでこれまで各国の傭兵派遣に対応出来たし、キンニクメリー称号持ちの王妃自身は既に《真の勇者の域》に達していると言っても過言ではない。

そうして巫女の居ない空白の時を、タコマリウス王国の育てた筋肉勇者が真の勇者に代わりモンスターから世界を守ってきた。


その筋肉育成の為に作り出した数々のトレーニングメニューと専用プロテイン食材。

更に独自開発したトレーニングマシーンは他国には真似が出来ないもの。

そういった王国の勇者育成技術も第一王子の事が公けになれば、意味を奪われてしまう。


そうなれば国家存亡の危機だ。


だからこそ王は第一王子活躍の事実を隠ぺいし、各国と結んでいる傭兵派遣責務は別の勇者候補に宛がった。

そして第一王子には国内のモンスター討伐のみに専念させている。


そうして早期に巫女のパートナーを第一王子から第二王子に変えさせる必要があったのだ。

しかしその目論見は早くも崩れた。

巫女が失踪してしまったからである。


果たして巫女は、彼女は今何処にいるのだろうか。




◆◇◇◇




タコマリウス王国

王都



「らっしゃい、らっしゃい!今日は新鮮な亀トン肉が入ってるよ。お買い得さぁ。買った、買った!」

「こっち、塩シャーケが100本大量入荷だ。日持ちもバッチリで安いよ!」

「ヤマト産ウーシギューの肉だ。品質は最高級!焼いて喰うならウーシギューだ!!」




ガヤガヤガヤガヤガヤガヤッ



「うーん、今日は確かに普段より安いわね。食材のストックもギリギリだし少し奮発して買いたいところだけど………」




町外れで孤児院を営むラーラは、買い出しの為に王都中央市場に出向いていた。

食べ盛りが多い孤児院では毎日の買い出しは必要な事。

だけど安い食材ばかりでは子供達の栄養に偏りが出てしまう。

日々の栄養管理は彼女の仕事なのだ。




「だけど駄目ね。今はもうお金がいない。神父さんも今はいないし来月の国からの補助金を宛てにするしかないわ」




そう言いながら溜め息をする彼女。

しかしすでに買った肉や野菜は彼女の片手に乗っていて器用に山積みされている。

その高さたるや近くの軒を超えるほどだ。


赤茶の肩までの髪に淡い茶目で顔の輪郭は卵型。太眉毛と目元にそばかすがあるも意外と整った顔立ち。

一見可憐な少女にしか見えないラーラだが、それとはギャップを感じるほどの怪力である。

だからといって、第一王女のように筋肉があるようには全く見えない。

僅かに食材を持つ右腕に筋肉の隆起を感じる程度だ。



「ようラーラ、今日も買い出しかい?食べ盛りが多いからなぁ」

「はは、そーなのよ、パン屋のおじさん。まったく食費がいくらあっても足らないわ」

「くっくっくっ、そうかそうか、しかたねぇ。ちょっと待ってろ」ゴソゴソゴソッ

「おじさん?」

「ほら、余ったパンの耳と固くなった昨日の売れ残りだ。焼けば直ぐに柔らかくなる」

「有り難う、いいの?!」

「いいってことよ!あんたの頑張りに俺が渡したいんだ。持てるか?」

「問題ないわ、えいっ!それっ!はっと!」




市場の常連の彼女。

仲のいいパン屋のオヤジに売れ残りのパンを貰い上機嫌だ。

しかし片手とはいえ、その荷物量は軒上ほどに積み上がる。

流石に心配したパン屋のオヤジ。

だがその心配を余所に器用に左手で投げ積みしていくラーラ。

ほとんど曲芸に等しいが、こんな芸当が出来るのは彼女が底知れぬ怪力の持ち主だからだ。

その辺の下手な筋肉勇者にもこんな事は出来ないだろう。




「ヒューッ?!大したもんだ。やっぱりラーラはすげぇなあ」

「嫌だわ、おじさん。凄くないわよ!?パンを有り難うね、おじさん」

「ああ、また寄ってくれ。安いの用意してやるよ」

「お金入ったら来るわ。期待してる!」




手を振りながらパン屋から離れるラーラ。

他の店舗の店主達も温かい目で彼女を見る。

どうやら彼女の曲芸は市場の名物になっているようだ。




カタンッ

「うわっくせぇ?!何だコイツ!?」


「うん?」




丁度、彼女がとある串焼き屋の近くに通りかかった時だ。

その串焼き屋の店主が慌てふためいている。

見ると、その串焼きの奥の路地に小さい人影が動いた。




「でぇええっ!近よるんじゃねぇ!?店が臭くなっちまうじゃねぇか!!」


「…………………」

ぐぅうーっ




路地から現れたのは、全身泥だらけで服の色すら灰色に染まった小さい人物。

灰色の長い髪が性別不詳さを際だ出せるも、どう見ても幼く見える。




「まさか孤児?」


「…………………」

ぐぅうーっ。


ラーラと目線が合った《ソレ》は、彼女を見て盛大にお腹を鳴らしたという。

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