第16話 巫女が必要
◆辺境国ラビランド
「ふんっ!!」
ザザンッ!
『ギャグワ!?』
ここはとある山岳地帯。
そこに巨大な赤い三つ目の蛇がトグロを巻いていた。
レッドアイと呼ばれるそのモンスターは、全長50メートル▪全幅3メートル▪重量15t以上。
漆黒のウロコに包まれた巨大な蛇。
いわゆる上級モンスターである。
特徴はその巨体に似合わない素早さが厄介。
狂暴で力が強く、頭を上げると数メートルの高さになる。
そしてその大食漢。
ここに至る途中で、このレッドアイは三つの村と一つの町を通り過ぎ、そこに住む住民と家畜は全てレッドアイの腹に収まった。
まさに災害級モンスター。
通常軍隊すら到底討伐などは不可能とされ、その存在は人の手に余ると言われていた。
が、そのレッドアイは現在、二人の戦士に無人の山岳地帯に追い込まれ、たった今もたげた鎌首の上、その頭上に跳躍した一人の戦士の剣が一撃を加えたところであった。
『ギエエエーンッ!!』
ザザーッ
くるくるっシャキンッ
戦士A「………………」
戦士B「やったか!?」
剣で切付けたその戦士Aは、猫の様に回転して地面に着地。
と同時に、振り向き剣を回しつつ体制を整える。
レッドアイの反撃に備える体制だ。
そしてそのフォローに回っていると思われるもう一人の戦士B。
一歩遅れて現場に到着、モンスターと先行する戦士を見比べた。
なお二人とも鎧兜で完全武装。
表情は読み取れない。
ただ戦士Aの声はやや高く、兜から見える頭髪はかなり長い事が分かる。
どちらにせよ、二人とも相当な実力者である事は違いなかった。
『………………ギ!』
そして戦士Aに一撃を加えられたレッドアイ。
頭部から血を吹き出し、鎌首をもたげたままフリーズしている。
それはすでに意識は無かった。
グラッ
ズズンッ
やがて崩れ落ちる巨体。
この世界の国家軍隊すら手を焼く上級モンスターのレッドアイ。
それがたった今、一人の戦士に討伐されたのである。
それはまさに英雄的活躍だった。
戦士B「終わったか!?」
戦士A「ああ、終わったな」
戦士Bの確認に緊張を解いた戦士A。
おもわず笑みが溢れる。
シュッ
ジャキンッ
そしてレッドアイの血糊が付く剣を一振、血を飛ばして腰の鞘に納めた。
ようやく一息ついた戦士A。
それを見図ったように戦士Bが話しかける。
「頑張った。大したものだ」
「いや、お前の指示が的確だったからだ。私だけの手柄じゃない」
「それでもだ。止めを刺したのは君だ。それは誇っていい」
「ふ、お前には敵わないな………」
労り合う二つの影。
二人の親密さはただの戦友を超えて、まるで夫婦のような会話だ。
おそらく単なる戦闘パーティーではなく、それ以上の関係なのだろう。
「まさかレッドアイとはな。だが討伐出来て良かった」
「うむ」
「しかし年々、モンスターの数が増えているようだ。これからは今までのようにいかないかも知れない」
「…………」
「現に今回レッドアイを討伐出来はしたが、既に多くの被害が起きた後だ。被害確認はまだだが、死傷者はかなりのものになる」
「……………そう、だな」
「いくら我らが強くとも被害の拡大は止められないという事だ」
「………………」
勝利の余韻に浸る間もなく、深刻な現状を語る戦士B。
戦士Aは、彼の危惧する事に理解を示しながらも、素直に同意出来ない何かを抱えているようである。
だが戦士Bは、この状況を変えうる代案を持っているようだった。
「今も召喚する事に反対か?」
「…………………………」
「確かに召喚は本人の意思に関係なく、勝手な此方の都合で呼び出してしまう。だが、我らに時間がないのも確かだ。少なくとも君は自国の国民に対する責任がある」
「分かっている。分かっているよダーリン。だが、まだ踏ん切りがつかないんだ。もう少し私に時間をおくれ」
「前巫女の手記か?必ずしも召喚巫女が苦しむとは限らないのではないか?」
「………そうかも知れない。だが、そうでないかも知れない」
「そこは出来るだけ巫女に報いる、だ。それしかない。我々には巫女が必要だ。そうでないと……」
ふと、山間の空の果てに目を向ける戦士B。
その先にあるのは渦を巻く暗雲。
まるで黒い闇を落としたような入道雲が沸き立っていた。
この不可思議な天候は何を物語るのか。
新たな嵐の始まりだろうか。
それは今にも、この地を覆わんと迫ってくるかのような勢いであった。
◆◇◆
◆タコマリウス王国王城
図書館
ケイ(敬)視点
オレは朝食のカオスの中、さっさとテラスを後にした。
前任巫女の手記を早く読みたかったからだ。
なお、オレが静かな場所で一人で手記を読みたいって言ったら、第一王子が城内に図書館がある事を教えてくれた。
おお!(静かに読むなら寝室で二人で読もう。ついでに初夜第2ラウンド開始だ、カーン鐘)って言われて付いてこられたら再び貞操の危機になるところだったが、第一王子は案外欲望のコントロールが出来てたみたいで助かった。
案内に着ぐるみメイドを呼んでくれてマジ、感謝だ。
第一王子、信用してないで悪かった。
だからと言って今後も《信用しない》がな。
そんでラッキーって、第一王子に感謝してテラスを出ようとしたら『俺も図書館に行くぜ!』って目にキラキラ星称えた第二王子が来る気満々で立ち上がり、ワンコのように付いて来ようとしやがった。
お前、どう見てもオレと遊びたいだけじゃねーか?
それも公園で遊ぶような事考えてんだろ?!
はあああっ(溜め息)
オレはガキのお守りで図書館いくんじゃねーからな!
オレは何とか断りを入れようとして第二王子と向き合ったら、着ぐるみメイドが図書館マナーを王子に伝えて同行は回避された。
へ?
随分と素直に引き下がったな?って疑問に思っていたら、何と着ぐるみメイドは第二王子の乳母だったらしい。
第二王子、ウサギのお乳で育ったんだ?!
オレがフリーズしていると、着ぐるみメイドが誇らしげに胸を張った、らしい?
いやオレ、ウサギの表情読めないからな。
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