第17話 勝てない?

◆タコマリウス王国

王城図書室

ケイ(敬)視点



で、

王城図書室の端っこで気難しい顔をしてる、オレです。


何でかって?


テニスコート並の面積にビッシリと埋め尽くされた本棚。

しかも数メートルはあろうかと思われる天井に届かんとする本棚にあるのは、ブリタニ○大百科事典よりも重厚な厚みと装飾表紙のめっちゃ《重いシリーズ本》の数々。

その蔵書の凄さに開いた口が塞がらないほど驚きはしたよ?(違う意味で)


そんで興味本位に一冊を手に取ろうとしたら、重くて引っ張り出す事も出来ない。


何なんだこの図書室は?

手に取って読める本が一冊も置いてないじゃないか。

全部飾りか?!


ってね。

だが、そんな話しはどーでもいい。

今はどーでもいいんだ。

何故なら今、オレを悩ませてるのはお飾り図書室の話しではないからだ。


そう、オレが悩んでいる問題。

それは


《宰相から預かった前巫女の手記がオレに読む事が出来なかった事》


そう、読む事が出来なかった。

別に手記の文字が汚くて読めなかった訳じゃない。(おい、前巫女に失礼だな)

安直に自動翻訳チートを頼ってみたが、そこまで御約束じゃなかった。


いやもしかしたら、この手記の特別なせいで読めないのかもって思い、タコマリウスの文字も見たがやっぱり読めなかった。


って!?

タコマリウスの文字、マジに文字か?って疑いたくなるくらい線がノタクッテるだけの文字━━━━━━━━━━━ぃ!?


おい、絶対コレ宇宙文字だろ!

タコマリウスの先祖は火星人か何かだったんだろ!?

と混乱とカオスを味わいって、同じ意味か。



ま、まあいいや。

とにかくぶっちゃけるね。

要は《日本語じゃない》って事だったんだ!



まあ異世界あるある、ラノベは大抵日本語だったけど現実は甘くはなかった。


因みに書かれてる言語は不明。

だって平仮名みたいな文字と三角や四角の記号が入ってるもん。

絶対何かの暗号じゃん!?

英語でも韓国語でも中国語でもないと思う。

つまり前巫女は別の世界人だったって事だ。


他の異世界人か。

しかし困ったな。

これだと宰相の宿題、読書感想文が書けないじゃん?

いや、それはこの際どうでもいい。


オレは純粋に、手記に何が書いてあるか知りたいんだ。

前巫女がどんな気持ちで手記を綴ったのか。

当時に何があったのか。




スウッ


びくっ「っ!?」


あれ?

今、向こうの本棚に人の気配を感じた、ような気が……………??

だけど着ぐるみメイドは確かに『本日の図書室は巫女さま《貸し切り》となっております。後ゆっくり』って、どっかの露天風呂付き温泉旅館みたいにな事言ってたけど?



キョロキョロッ

「………誰かいる?」


シ━━━━━━━━━━━ンッ



返事はない。

気のせいだったみたいだ。

今日は色々あって疲れてたか。



ブルッ

「やべっ!?少し冷えてきたかな?」



何か急にヒンヤリしてきたぞ?

う、またトイレが近くなってきた?!

部屋に戻るか。

って?!

オレの部屋って第一王子の部屋か?

うがあぁ、また貞操の危機じゃんか!


これならまだ第二王子のお子ちゃま部屋の方が安心では?

オレ、どうすりゃいいんだ。




ふっ

「ふぎゃ!?」

「手記は読めましたか?」



ぎゃあ?!!

また宰相だよ?!

またセクハラドラキュラ宰相が、いつの間にかオレの背後に立ってオレの耳に息を吹き掛けやがったよ。

怖すぎだよ宰相!

ふざけんじゃねーっ!?



「ふっ、そのドキマギした顔。やはり希代の巫女は面白、いや失礼」

「今言ったよね!?面白いって言おうとしたよね?それに音も無く背後に立つのはホント怖いからヤメレ!」

「それより手記は読めたんですか?」

「え、オレの心臓ドキドキはどうでもいいの!?手記は、読め、ない………」

「どういう事です?アナタの世界の文字ではなかったのですか」

「そうだね。オレの世界の文字じゃない、と思う」

「ほう?巫女とは違う異界文字……それでは巫女の世界の文字はこれとは違うと?」

「似通った部分もあるけど記号が入った文章は文法上あり得ない。他国でもないよ」

「他国でもない?巫女の世界は国で文字が変わるのですか?」

「そう、と言うより文字だけじゃなく言語そのものが違う。基本的に習得しないと無理」

「ほう?」

ずずいっ

「うえっ!?」

「ほう、ほう、ほう」



ぐわああ、宰相が興味津々な顔でオレにドラキュラ顔を近づけてくる!?

しかもフクロウみたいにホウホウホウって。

何なんだよこの人!

もう嫌だぁ。



「巫女どの。私は巫女達の世界に興味がありましてな。今の話しは大変興味をそそる話しなのですよ」

「オレは興味そそらないです……」

「まあそう言わずに。ご存知ですかな?この世界の言語は一つに統一されていて文字も共通なのですよ」

「そうなの?」

「そうです。だから言葉が通じない国はありません。少なくとも大陸内の国家間ではね」



そりゃあ随分と便利で経済的な話しだ。

国家間の貿易や人の直接交流が何の障害もなく進んでいく。

外国語の習得や通訳を雇う必要が無くなり、その経済効果だけでも大きなものだ。

また、地球上において言語の差違が人の交流の妨げとなった事で、国家という枠組みが強化された。

それは文化レベルで他者を知る機会が失われ、閉鎖された国家は独自の文化や経済圏をつくり出す事に繋がり、それはより国家を国家足らしめ、其々の政治的理由が生まれてお互いを知らないという理由で国同士の争いに繋がる。

この世界が異界の門が顕現する前まで平和で差別のない大陸を維持出来たのは正に一つの言語、一つの文化圏だったからではないだろうか。



オレがこの世界と地球上との違いを考えていると、宰相がニコリと不気味に笑った。

宰相は普通に笑っただけなのだろうけど、青白いドラキュラ顔はどう笑っても不気味という事だ。


あと、やたらにオレの表情からの読心に長けている。

オレが読まれ易いのかも知れないが、本当に人間離れしているとしか思えない。



「だから私は巫女の世界に興味がある。国家の数だけ言語があるなら多彩な文化が育ったのでしょう。そこには多彩な技術、多彩な経済圏があり、世界は大きな発展を遂げたはずです。それを私は知りたいのです」




ああ、この男はある意味オタクなのだ。

それもオレの世界に対する過度な憧れを持っている。

それがオレへの執着に繋がりセクハラドラキュラ伯爵になっているのか。

勘弁してくれ。



「で、宰相さん?翻訳済みの手記が何処かにありますよね?」

「なるほど。やはり貴女は面白い。そこに気づきましたか」

「いや普通だから。王妃さまが手記の内容を気にして召喚に消極的という時点で普通に気づくから」



流れ的にはそうだろう。

王妃はタコマリウス語に翻訳された手記を見て理解したはず。

ならば何処かにソレがあるのは必然だ。


オレに宇宙文字は読めないがな!




◆◇◇◇




し━━━━んっ




巫女が手記が読めずに退出し、それを追いかけ消えた宰相の居なくなった図書室。

静寂だけが訪れる。



カタンッ



無人だと思われた室内。

その図書室の奥で微かな音が聞こえてきた。


奥にはいつの間にか、ある人影がテーブルに着座している。


その人物は厚みのある本を開き、読書にふけっているようだ。


だが少しして、その人物の口元が動く。




((今世の巫女では魔王に勝てない))




そして独り言として聞こえてきたのは、あまりに意外な内容だった。

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