第18話 呪い

◆タコマリウス王城

ケイ(敬)視点


読めなかった前巫女の手記。


図書室を出たオレは、宰相の協力で翻訳手記を探してもらった。

しかし王妃の部屋にある可能性が高い事が分かったが、本人不在中に勝手に探すわけにもいかない。

結局、王妃の帰国を待って確認する事になり話しは一旦終いとなった。


そして図書室であっちゃこっちゃオレがしてるうちに時間が過ぎてたようで、いつの間にか夜になってた。


そーいや、着ぐるみメイドがお昼でーすってニンジン盛り合わせを持って来てたわ。

オレはベジタリアンじゃねーっ!


あと、図書室の前で第一王子が待っていて、オレは抱えられて王子の部屋にお持ち帰りとなった。


もちろん素直にお持ち帰りはされてない。

色々適当な事を言い暴れて逃げようとした。


だが無言笑顔の第一王子の圧と細身の癖に力が強いのにどうにもならならず、お持ち帰りになった。


味方を探したら第二王子はお子ちゃまの為、早々に寝室に向かったらしい。

えーと20時就寝と?

お子ちゃま過ぎじゃんか!


キンニクメリー姫は踊りの稽古。

あの筋肉で誰と踊るんだ?


味方がいない!?

アウト━━━━━━━━━━!!



◆◇◇◇




「……………」

「……………」


寝室で見つめ合う二人。

さあ、これから愛を語ろう?

またかよ!?


ぐわああ、毎回この緊張感はハンパねー?!

違う意味で死ねるわ!

この無言の応酬は本当に辛い。

誰か訪ねて来いや。

くそ、何か言わないと!



「え、えーと王子?今更ですが、モンスター討伐ご苦労様で御座います↑?」



いやオレ、今頃何言ってんだ?

語尾が上がって疑問系になってるわ。

やべっ


でもしょうがないよな?

朝の場での第二王子との婚約騒動と宰相からの前巫女手記の存在証言。

続く話しが召喚自体がチビッ子王の暴走で主導権は王妃にあったって暴露話し。


んで、宰相指示とオレの要望で静かな図書室籠りで上手く第一王子を避けてたら、そのまんま夜を迎えたってわけ。


流石に図書室前に立つ仮夫の第一王子を躱す事は出来ずにお持ち帰り。

現在絶賛ニラメッコ中だったわけだ。


んで、イタタメられなくなったオレが口開いたら今頃モンスター討伐の祝辞。

流石にズレまくりでしょ!?



「…………手記は読めなかった、そうだな」

「あ、はい。私の世界以外の文字で書かれていて、だから結局読めなくて。宰相に翻訳手記を探してもらってます」

「………そうか」

「……………」



暫しの静寂。

おいぃぃ、何か言ってくれぇ!?

心臓が持たねーっ!



「………巫女」

「はい?」

「………私は巫女に憧れていたんだ。子供の頃から」

「憧れ、ですか?」

「巫女は神が派遣する使徒。異界の門の結界が緩む時、主神の命を受け下界に下る下級神であり真の勇者を選び共に世界を救う救世主だと、そう教わってきた。だから私は、勇者たらんと、巫女に選ばれる真の勇者になるのだと、日々研鑽と努力を重ねてきた」

「……………………」

「そうする事で勇者の象徴である《強靭な筋肉》の習得に同世代の誰よりも早く到達したはずであった。だが、ある時から幾ら努力しても筋肉は付かなかった。付かなかったのだ」



なるほど。

やはりこの世界の勇者基準は、その見かけの《筋肉》にあったという事なのだ。

だから第二王子も第一王子を出来損ないってしてたのか。


しかし《勇者イコール筋肉》って、本当に筋肉主義なんだな。

毎日の食事はプロテイン三昧か。

オレには無理だわ。


で、第一王子、筋肉が付かないのは体質か何かか?

毎日○イザップしても?

毎日プロテインやっても?


でも王子はイケメンだから今のままがいいと思うけどなぁ。

だって基本女顔だし?

最初姫だとオレも間違えたし?


この世界の美的基準、まさか筋肉にあるとかないよね?

女の基準もそうなのか?

町や他の国に行っても女はキンニクメリー姫ばっかりだと?

ぐわああ、何てツマラナイ世界なんだぁ。


消えゆくハーレム。

いや今は消えゆく百合ハーレムか。

終わった。



「巫女、だから君が第二王子を選んでも仕方ない事だと思う。それに彼は君の年に近い。第二王子なら巫女の理想の真の勇者となるだろう。だから私とは離婚してもらっても構わない。君の気持ち次第だ」

「………………」



うーん。

その提案は願ったり叶ったりだが、代わりが第二王子のお子ちゃまじゃなぁ。

あいつ、遊びたいだけだし、オレより明らかに年下だし、しかも筋肉付き。


だとしても魔王が宣戦布告してる中どうしても戦力が必要なわけで、結局はオレ、ドーピング薬として誰かとこの先もキスしなくちゃなんないんじゃない?

ん?

ところで第一王子のドーピングはまだ効いてるんだよな??



「その、王子はまだ、私の力は感じられますか?」

「大丈夫だ。最初の頃より落ちてはいるが、まだまだ巫女を感じられている」

「…………………」



おいぃぃ、落ちてんのかい!

やっぱ定期接種が必要なんじゃないか?

結局アレか?

第二王子になっても定期接種なのか?

そんで他の筋肉馬鹿にも定期接種すれば戦力増強間違いな無し?

最強軍団誕生でたちまち魔王軍は壊滅、世界は平和になりました、ってか?


ぐわああっ、オレは男とキスから逃れらんねーじゃねーのか?!


こんなの、呪いだーっ!

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