第25話 何者?

◆タコマリウス王国

王都外れラーラの孤児院

ケイ(敬)視点


ジューッジューッジューッ


「ごくっ」


トコトコトコトコ、カタン

「はい、おねぇちゃん」

「あ、ありがと、おチビちゃん」

「おチビちゃんじゃないよ。ミーナだよ、おねぇちゃん」

「え?あ、ミーナちゃん、ありがと」

「どういたまして」

「……………」



洗ってもらってスッキリしたオレは、ラーラさんに調理場に案内され、簡単に作れるものって事で料理を作ってもらった。


因みに巫女服は処分されて無いので、オレはラーラさんのお下がりワンピースを着てる。

足がスースーするがまあ仕方ない。

出来た料理はミーナちゃんが運んでくれて、オレは調理場の隅に座って待っていた。


ミーナちゃんはこの孤児院で保護されてる女の子。多分まだ5歳くらい?

髪がピンクで目の色もピンク。

色白で丸ッこい愛らしい女の子。

オレの洗いが終わる頃にタオルだなんだと、お手伝いな子だ。


そして調理場の外には、中を覗いているチビッ子達が多数いた。

皆、オレに注目してる。

いや、オレの貰った料理にだ。

物欲しそうに見られてめっちゃ居心地悪い。

え、皆も御飯がまだじゃない?



「どうしたの、おねぇちゃん?たべないの?」

「い、いや、だって皆がまだ揃ってないし」

「おねぇちゃんはいいんだよ。だっておなかすいてるよね?」

「はは、何気にしてんの。チビ達は先に食べてる。育ち盛りだからね、普通に食べても直ぐにお腹が減るのさ。アンタは私が洗ってたからね。お腹が減ってんだろ?食べなよ」




確かに腹は限界だ。

そう言われたら遠慮なんかしないよ?

しかも出された料理は夢にまで見た肉料理!

うう、チビッ子達ごめんな。

もう止まらん。



「はい………いただきます」

「「いただきます?」」

「はい?」

「おねぇちゃん、いただきますって?」

「あ、オレの国では食べる時に感謝を込めて言う言葉です。食材に感謝するんです」

「へぇ、やっぱりアンタ、変わってるね。近隣諸国でもそんな習慣無いよ。面白いね」

「おもしろい、おもしろい」

「はは、んじゃ、いただきます」

パクッ

「!!」



おお、オレは今、モーレツに感動している。

これが肉!

忘れかけてた肉の味だ!!



「アンタ、まさか泣いてるの?」

「おねぇちゃん、ないてるの?」

「ふぁい。美味しくてっ」もぐっ

「普通の簡単な亀ギューのソテーだよ?」

「でも、美味しくて」

「アンタ、やっぱり面白いわ」

「おもしろい、おもしろい」



仕方ないじゃん。

本当に美味しいんだもん。

それとミーナちゃん。

おもしろいを連呼しないでね。






ガヤガヤガヤッ


「旨そうに食べてる」

「いいな、俺も食たい」

「口デカイ」

「でも食べるの遅い」

「ホッペが膨らんでる」

「リススみたい。可愛い」

「ラーラ姉ちゃんと同じくらいの歳?」

「背が低くいからもっと若いよ」

「髪、長い」

「目が黒いよ?」

「髪も黒。あんな髪色初めて見た」

「美人。ラーラ姉ちゃん負けてる」




つ、辛い。

調理場とリビングの境、料理を出すカウンター越しに沢山の子供達の顔がある。

しかもスッゴク見られて恥ずかしい。

おまけに値踏みされてる。

うう、気持ちよく口を開けられないよぅ。




「コラぁ、アンタ達!さっきお昼ご飯食べたでしょ。いい加減にしなさい!それとキロ、サキ、アス。庭の掃除は終わったの?皆も午後の勉強は終わらないと、おやつ抜きにするからね!」

「うわっ、やべ!?」

「「逃げろ!」」

「「「「「「わーい!」」」」」」

ダダッ

バタバタバタッ………。



ラーラさんの必殺の言葉に、子供達はちりじりに逃げていく。

おやつ抜きは効くなぁ。




「まったくもう!」

「元気があっていいです」

「ふう、元気あり過ぎよ。毎日大変なのよ」

「小さい内は元気な方がいいと思います」

「そりゃそうだけど」




カタンッ

「ごちそうさまでした。美味しかった」



オレは食器を置いて、祈るような仕草で頭を下げた。

まさに一宿一飯の恩義。

一宿は無いが、感謝感激だ。

ラーラさんが目を見開いている?



「それもアンタの国の言葉?」

「ええ、食材と作ってくれた人に感謝を伝える《祈り》みたいなものです」

「ふーん」



うっ、何か疑ってるような視線を感じる?

話題を変えた方がいいか。



「ふう、美味しかったので食べ過ぎてしまい、お腹が重いです」

「在り合わせだったから大人の一人前より少ないよ。随分胃袋が小さいんだね?まあ、その身体じゃ当然か。もっと食べられないと大きくなれないわ」

「ははは、そうですね。前は食べられたんですけど」

「前って、いつの話しよ?」

この身体になるっ?!」

「は?」

「いえ、もっと小さい時の話しだから、小さい時の割にって事で…………」

「はあ」



ヤバかった。

転生前の話しだったわ!

気をつけないと。

えーと話題変え話題変えと?



「その、子供達、幼い子が多いですね」

「そうだね。この孤児院の子は10歳になると勇者養成所に行くことになるからね」

「勇者養成所?」

「やっぱりアンタ、何も知らないんだね。この国が勇者国なのは知ってる?」

「はい」

「勇者国で勇者を育成してる。そして世界中から勇者候補になりうる人材を募っている。何でか分かるかい?」

「勇者国だからじゃなく?」

「この国は孤児も受け入れてる。そしてそうした孤児を幼いうちから勇者候補として育てる事で、他国の追随を許さない傭兵を造り上げるのよ」

「傭兵?勇者が傭兵なんですか??」



その後、ラーラさんの話しは次のような事だった。





◇タコマリウス王立孤児院

世界神教会併設の孤児院で運営は国の補助金に頼っている。

王国主要な町にもあり、王都には数ヶ所もあるらしい。

で、ラーラさんのいる孤児院は《王都北世界神教会併設王立孤児院》と言う。(長いわ!)

ここに保護されている孤児は30名。

大半が五歳以下。

年長は九歳までで基本、十歳からは勇者養成所に送られて勇者教育が始まる。

男女差なく送られ、送られた孤児は勇者養成所の寮に入る。

なので孤児が孤児院に戻る事はない。


何だよソレ?

孤児は勇者養成が義務なのかよ?!


しかも将来は勇者候補って云えば聞こえがいいが実質は傭兵となり、各国の要請に応える形で魔王軍やモンスターに対峙させられる。


それって孤児が無理やり戦わされてるって事じゃあないの?

孤児だから死んでも誰も悲しまないから?



「仕方ないのも事実なの。この国は他国からの補助金で成り立っている。国全体が荒れ地にあって農業に不向き。あらゆる物が輸入に頼っている。補助金がなければ輸入品が買えず直ぐに食糧難になるわ」

「でも、子供達の将来が一つしかなく、それも危険な傭兵となるしかないなんて、あまりに可哀想です」

「そう、ね。子供達が勇者になる事に憧れている事が、せめてもの救い、かしら」

「でも、それも創られた価値観じゃないですか。ラーラさんは今の実状に賛成なんですか?」

「そんな訳はないわ!でもしょうがないの。この孤児院も国からの補助金が切られたら、すぐに達逝かなくなるもの。子供達もそれが分かっているから嫌がる子が出ないのよ」

「…………………」




魔王が現れる前はモンスターもいなく、皆仲良く暮らせていた。

戦争や争い事から無縁の世界だったと聞く。

だとしたら、やっぱりオレが勇者と組んで魔王を倒すしかない。

そうすればモンスターも生まれないし、勇者も傭兵も不要になるじゃないか。


勇者と組んで?

…………。

ブルブルッ

今は考えるのは止めよう。



「首を振って?今何を考えたの?」

「何でもないれふ」




結局オレはそれ以上何も言えなかった。

今はラーラさんとこにお世話になってる身だしね。


それと庶民は名前を教える事に対し、あまり禁忌に感じてない。

やっぱり親から貰った名前は《名乗りたい》が普通だ。

でも習慣として、多少本名からアレンジして偽名を名乗る事が流行りらしい。


そして、禁忌に敏感なのは勇者候補と王族だけみたいだ。


因みにチビ達はそのまま本当の名前を使ってしまっている。

幼い子供に偽名を名乗らせるなんて最初から出来ないからだ。


それに聞いたら、親と死別した孤児がほとんどで、大半がモンスターや魔族の進攻で死んだのだとの事だ。

だから子供達は勇者を目指す事に何のためらいもなく、親から貰った本名は彼らに残る唯一無二の親との絆。

ラーラさんは子供達に偽名を名乗る事を指導しているそうだが、そんな理由から子供達に強く指導は出来ないようだ。





「それでアナタの名前だけど、本名を聞くつもりはないわ。でも、偽名でいいから決めないとね」

「ケっ、ミコです」

「ケッミコ?それが偽名?言いずらいのね」

「ミコ、で」

「ミコね。判った。今からアナタの事、ミコって呼ぶわ」

「ミコ、ミコ?ミコおねぇちゃん?」

「そうだよ、ミーナちゃん」

「ミーナ、ミコとは大事な話しがあるの。今だけ皆のところに行っててくれる?」

「あーい」

タッタッタッタッ…………。



ミーナちゃん、ラーラさんの言葉に素直に頷いて調理場から出て行った。

随分と聞き分けがいいな。



「それでアナタは、どうしてドブに落ちてあそこに居たの?」



ミーナちゃんが出ていくと一転、終始笑顔から真面目な顔になるラーラさん。

どうしてドブに落ちていたか。

もっともな質問だ。


さて、何て答えたらいい?



「その黒髪、近隣諸国には居ない。というか、黒髪って前巫女様の髪色だわ」

「………………!」




これ以上隠し切れないか。

オレは深呼吸をすると、これ迄の経緯をラーラに話す事にした。



「その、聞いて、驚かないて聞いてくれ」

「………聞くわ。聞くからワンピースで胡座かかないでくれる?アナタ、女の子なんだから。ほら」

「あ、癖でつい!?」



ラーラさん、言いながらある方向を指差しする?

でっ?!

10歳くらいの男の子達が小さい出窓から覗いていた。

顔を赤らめて、だと?!!


ババッ

「…………!」


慌ててワンピースの裾を押さえるオレ。

今は女物のパンツを履いてるから、それをマジ見されたら流石にハズイ。

こらぁ、マセガキ共!

見んじゃねーっ!!




「ふふっ、顔が真っ赤よ?良かった、一応恥じらいはあるのね」

「メンモクシダイモアリマセン」

「じゃあ、本題よ」

「!」




「アナタ、何者?」

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