第29話

◆王都北世界神教会

併設孤児院裏庭

ケイ(敬)視点


「ラーラさん?」

「アナタに事情があるのは分かってる。だけど、もうアナタに頼むしか方法が分からないの。このままだと子供達が!」



ラーラさん、全く余裕が無いみたいだ?!

顔を覆って鬱ぎ込んでしまった。

何かあったのか?



「ラーラさん、一体何があったんです?」

「………あの後、知り合いの市場のおじさん達に食料品の調達をお願いしに行ったの。そしたら南部国境付近でモンスターが暴れているらしくて流通が止まってしまってるの」

「流通が?だけど第一王子がモンスターの討伐に行ってるはずじゃなかった?」

「第一王子の事は知らない。だけど流通が止まっていて、只でさえ少ない物資が更に減る事になるの。そうなれば真っ先に孤児向けが減らされてしまう!」

「真っ先に孤児院向けが?どうして!?」



全く意味が分からない。

役場でも孤児院向けは後回しのようにされてたし、孤児は勇者養成の為に保護されてるんじゃなかったのか?




「私の孤児時代にも同じ事があった。孤児は身寄りがなく国にとっては道具のような存在。勇者養成の為に外国から孤児を受け入れていて、王国民としての優先度は低いの」

「元が王国民じゃないから?受け入れておいて差別するのはおかしいよ!?」

「ええ、そうね。アナタの言う通りだと思う。元々はモンスター被害で親を失くした子達なんだけど、各国ともモンスター被害を食い止める為に勇者傭兵を雇うので火の車。孤児を養う資金も無い。そこで傭兵派遣で潤っていたタコマリウス王国が物資増の見返りに各国の孤児を引き受けた。増加する孤児に悩まされていた各国は、若干の物資増でタコマリウス王国に孤児の保護を頼め、王国は次代の勇者傭兵の成り手が容易に手に入るという形が出来た訳なの」



なるほど。

ようは王国は傭兵業による他国からの援助物資で元々かなり潤っているのか。

それで疲弊した他国から孤児を受け入れて、お互いにWin-Winの関係を築いてきた訳だ。


しかし受け入れた孤児には傭兵の道しかなく、しかも孤児院に入っている年齢では王国にもメリットが無い。

だから有事の際は孤児院自体が底辺になり、支援物資が最後になってしまう。


それに全ての物資を他国に頼っているこの国の実状は《有事の脆弱さ》がある。


いかに日頃から多額の援助物資を受けているとしても、冷蔵施設の無い文明下において食料自給率が低いのは、国家として致命傷であると云える。

つまり物流が滞れば、その日から飢えるしかないという事だ。


そして孤児院の物資が最初に止まるとしても、物流が回復しなければ何れ王国全体の問題になるだろう。



「ようは《最初に飢えるのが孤児院》というわけだ」

「そう、だから孤児院への差別を止めてほしい。そうしないと私達は真っ先に飢えてしまうの!只でさえ《動く大地》で王都全体に物資が足りてない中、物流が止まれば……」

「ラーラさん」

「私の孤児時代にも物資が止まった事があった。50人の孤児がいた孤児院だったけど、物流が復帰して物資が孤児院に届いた時、半数の孤児は栄養失調で………」



そのまま胸を抱いて、俯いてしまったラーラさん。

これが世界の現実か。

より下層、より風下、より力の無い者に被害が早くに伝わってしまう。

情けないけど、地球上においても変わる事がなかった悲しい現実だ。


食い物ごときで家出したオレは子供達に顔向け出来ないのではないか。

では、オレは最善を尽くそう。



「ラーラさん、オレが城に戻って事態を変えてみせる。ちょっと待っていてくれ」

「ミコ!?」

「ラーラさんはオレの正体に薄々感づいてたんだよね。だから、手遅れになる前にオレに頼んだ」

「…………ごめんなさい。どんな事情があるかも知れないのにアナタにすがって、情けないよね」

「ラーラさんは悪くない。誰でも子供の為なら何でもするもんだ。それに、オレに出来る事で良かった。これで一宿一飯の恩義に報いる事が出来るからな」

「いっしゅく?」

「オレの国の言葉だ。宿と飯のお礼は返すものってね」

「本当に貴女は巫女さまなのね?」

「自覚は無いけどね。でも救世主として呼ばれたのなら皆に応えるのがオレの主義さ」



男とキス以外でだけどな。

せっかく異世界で美人さんに逢えたんだ。

怪力持ちでもヒロインポジならラーラさんは適任だ。

そのヒロインを悲しませる事は絶対にヒーローポジはやっちゃ駄目駄目。

何せオレは勇者ポジでこの世界に来たはずだったんだからな。

まだオレはヒーローポジを諦めてない。


何故ならオレには誰かを強く出来るドーピングチートがある。

ドーピング出来る力はオレの中にあるなら、それはオレ自身が使えないのはおかしい話しなんだ。

だからオレはこの力を使いこなし、モンスターや魔族を王子や筋肉勇者の力を借りずに倒せる道を探してみせる。


魔王はオレが一人で倒すんだ。

そしてラーラさんや他のヒロインポジ?第一王女は違うな。

心は女の子なんだがな。

残念だが、オレの百合に第一王女は含まれない。

だって抱きしめ合ったら背骨がきっと折られちゃうもん!

きっとボキッと。

だから無理。


あれ?

ラーラさんならいいのか?

ボキッと?




◆◇◇◇




そして翌日。

オレは城に向かう事にした。


城までの距離は見えてるとはいえ、ここからなら40分は掛かるだろう。

ただそれも、道がまともで瓦礫とかなければだが。



「ミコ、気をつけて。こんな時は火事場泥棒みたいな輩もいるし人攫いも出る。城に着くまでは用心して」

「ローブも被るし大丈夫、大丈夫」

「はぁアンタ、自覚ないかも知れないけど、口調以外はかなりの器量良しなんだから。十分警戒しなさいよ」

「ミコおねぇちゃん、はやくかえってきて」

「はいよ。ミーナちゃんもラーラさんの言う事聞いてお利口さんでな」

「ミーナ、ずっとおりこうさんだよ?」

「そうだね、ミーナちゃんは前からずっとお利口さんだ」

「ずっと、ずーと、おりこうさん」

「はいはい」





「じゃラーラさん、行ってくる。吉報を待っててくれ」

「有り難う」



さて、そう言いながらイザ王城に向かうとヤッパリ足が重いな。

孤児院への援助と食事改善は同時に王様にお願いしよう、そうしよう。


特に筋肉コック共は全員クビだな。

何せオレにを盛ったんだ。

変態筋肉コックは許さへんで。


そう思いながらラーラさんに手を振りつつ孤児院の庭を離れようとするオレ。

その時だった。



((見つけた、巫女))


「は?」


ラーラ「ミコ!!」




ドオオ━━━━━━━━━━━━━ンッ!!

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