第6話 着ぐるみメイドとタブーな話

けい 視点


バタンッ

「巫女さまーっ、おはようございまーす」

「ふぇ!?」

「あら、巫女さま?朝から鏡とにらめっこです?それとも自分にウットリ?」

「んな訳あるかい!って、誰なの!?」



オレが鏡の前で悩んでいると、いきなりドアが開いてメイド姿のウサギ着ぐるみが入ってきた。

何でウサギ着ぐるみ?

意味わかんないんだけど!

それにノック無しで入ってきたぁ?



「あ、申し遅れました。巫女さま付きを命じられましたメイド、雪ウサギ二号です。あ、因みに雪ウサギは種族名なんで」

「雪ウサギ?ウサギの着ぐるみにしか見えないって、巫女さま付き?」

「はい。巫女さまのお世話は私、雪ウサギ二号が賜りました。私をお呼びになる時はとお呼び下さい」

「何か嫌な言い方だなぁ」

「気にしないで下さい」


メイド?メイドかあ。

巫女付きって事は、オレ専用メイドなんだよな?

ウサギのメイド?

異世界だからウサギ獣人って事なのか?

え、獣人って言ったら、耳だけケモ耳で身体人間のバニーちゃんじゃないの?

どう見てもどっかの遊園地キャラの着ぐるみか、イギリスの絵本ウサギにしか見えないんだけど。(ピーターなんちゃら?)

人間サイズの動物が日本足で服着てるだけなんだけど!

なんかガッカリなんだけど!



「此方こそっ、ええっと異世界から召喚されたから色々分からないから聞くけど?背中にチャックが有ったりする?」

「ちゃっく?ですか?」

「いや、ごめん、なんでもないわ」

「?」


やっぱ、着ぐるみじゃないわ。

ちゃんと口が動いてる。

何かリアル~っ。


「それじゃ、朝のお風呂とお着替えを用意しますね」

「お風呂……」

「はい、お風呂です」


風呂、お風呂かぁ。

そういや召喚されたのが昨日で、襲撃に結婚式でバタバタだったな。

それにキス…………。


「はい巫女さま、お着替えをしますよ?あら?耳が真っ赤ですね?昨日はお楽しみでしたものね」

「はあ、お楽しみって!?」

「ウフフ、昨日は初夜じゃないですかぁ。いっぱい愛されたんじゃないですかぁ?」

「あ、愛され!!?いやいや何も無かっ」

「ええっ、まさか何も無かったと?」

「!」


あ、今のは失言になるのか!?

不味いか。


「う、うん。いっぱい、ゴニョゴニョ」

「ウフフ、良かったですね。お世継ぎも早そうで国も安泰です」

「お世継ぎぃ!?」

「はい、お世継ぎ。赤ちゃんです」


ぐわあああ!?

あかちゃん?赤ちゃん!!

オレが赤ちゃん産むわけ?

考えたくねーっ!!



「ゼハーッゼハーッゼハーッ」

「あら、息切れですか?!そんなに激しく」

「な、わけないわ!」

「まさか、もう胎教の準備です?」

「………勘弁して」

「ふふ、冗談です。少しは緊張が取れましたか?」

「え?」


ウサギ着ぐるみが近づきオレの手を取った。

もふもふ肉球は手触り良かった。

しかし完全に着ぐるみだな。

オレよりずっとデカくて幅広だ。

いや、そのウサギ顔で迫られても表情が読めないって。


バッ

「なっ!?」


抱きつかれた?

抱きつかれる事多いな。

もふもふで気持ちいいが。


「こんなちっちゃいのに、一人だけで召喚されて結婚して初夜なんて、なんて可哀想」

「な、何、を?」

「でもしょうがないんです。王子を恨まないでやって下さい。これも魔王が悪いんです」

「魔王?」


何の事だ?

王子との結婚が魔王のせい??

意味わからん。


「ああ、余計な事を!私ったら。申し訳ありません」

「いやいや話し途中で止めないで」

「先ずはお風呂ですね」

「あの、聞いてます?っ、うわっ!?」



着ぐるみウサメイドは、オレを抱えあげると、そのままお風呂場に直行。

巫女服を奪われスッポンポン。

悲鳴をあげる間もなく泡泡されてツルッつる。

ピカピカに磨き上げられて、気づいたら新しい巫女服を着せられていた。

何なの、この着ぐるみ!?

めっちゃ出来るメイドじゃん。



「すっかり綺麗になりました。髪も艶やかでお美しい。まさに伝説の巫女さまです。これで王子も喜ばれる事でしょう」

「アリガトウゴザイマス」



手際のよさに、つい片言になってしまう。

うう、お風呂は一人で入りたかった。

落ち着かないわ!


しかし着替えも巫女服なのは驚いた。

何か元の服と同じで着替えた気がしない。

文化的にはナーロッパみたいだと思っていたけど、こっちの女性の普段着が巫女服とか?

普通はワンピースとか、ドレスとかじゃないの?


「違いますよ」

「え?顔に出ていた?」

「ウフフ、そうですね」


やべ、オレって昔から嘘が苦手なんだよ。

すぐに顔に出るからな。


「タコマリウス国の女性は私もそうですが、普段着はワンピースですね。貴族さまはドレスでしょうか」

「ああ、だいたいオレの考えで良かったんだな」

「そうですね」

「じゃじゃあ、何で着替えが巫女服なの?」

「巫女さまだからに決まってるじゃないですか」

「いやそれだと」

「おかしいですか?」

「いえ、もういいです……」


何だろう?

オレが巫女だから着替えが巫女服って、随分と安直な気が……まあ、いいか。



「巫女さまは異世界から来たのにタコマリウス語がお上手ですよね?」

「あ、そ、そうだね」


確かにそうだ。

不思議だけど、まったく知らない言語なのに違和感なく使えているし、ちゃんと理解出来てる?!

いわゆる転生特典というヤツか。

普通なら大変苦労して習得するところを、まったくフリーパスって、これだけでも結構なチートなんだろうなあ。

実感無いけど。


「ところで、ずっと気になってたんだけど、ええっと、雪ウサギ二号が名前?それとも《二号さん》?」

「違いますよ」

「違う、やっぱ偽名みないなもんか」

「おめかけさんともいいます」

「まんまじゃねーか!」

「………そう、ですね。今の質問は巫女さまが異世界から来たから、此方の常識に疎いせいですね」


異世界から来たから………王子にも言われたな。今のやり取りって、やっぱりタブーな事なのか?


「この世界の住民は幼い頃から学ぶ事があります。それは」

「それは?」



「《名を奪われない事》」



なんだそれ?


なんかの迷信みたいなもん??

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