修行編(仮)
第14話 埋まらない亀裂
翌日の月曜日。
真弓はヨシツネに師匠となる人に会いに行けと言われたが、それでも将来の為に学業は優先せざるを得ない。真弓はといえばその事には不満げではあったが、明日病気でもないのに休む事は両親から頑に断られたらしい。
真弓の両親はそういう所においてはしっかりしているので、中々に評価せざるを得ない。真弓もそんな両親を尊敬しているので、反抗しづらかったのだ。
……という訳で、私達は放課後にその場に赴く事となり、現在に至る。
目指す場所は私たちの住む市の中心部にあるらしく、学校からローカル線に揺られること十分程でそのまま大阪に繋がっている私鉄の大きな駅に到着した。
真弓は目的地に近づいているとは言うけれど、何処なのかは話してはくれない。
駅から地上に降り、平成初期が全盛期だと感じさせるような街並みに入った。飲食店が主に並んでいるも、客足はまばらな様で閑散としている。ただでさえ寒い真冬の気候は、寒寒とした風景によってますます冷やされていく。
大阪に近いベッドタウンとして栄えたこの町は、世間がドーナツ化現象から都市集中型へと変化した結果、多くの高齢者を抱える過疎地と化している。より住みやすい大阪に近いこともあって、どんどん市民が流出するばかりである。
若者の観点から誇れることがある事といえば、ア○メイトがあること位で本当に何もない所だ。県外の友達に市の誇れる所を問われて、世界に二つしかないナイチンゲール像があると言って恥をかいた事は今でも鮮明に思い出される。
ちなみにその事を真弓に話せば、決してそんな事はないと延々熱弁された。彼女のような歴史マニアには清和源氏発祥の地だとか、金太郎の墓があるだとかはさぞかし興奮する内容なのだろうなと嫌でも感じさせられたのだ。
そんな街並みを、私達は私鉄バスに乗って悠々と駆けて行く。バスの中はしっかりと暖房がガンガンに効いており、心無しか乗客の面持ちも周りの街並みも、優しく暖かく見えてくる。人間とはなんと単純な生き物なのだろうか。そう思いながらも、人間だから仕方が無いと暖風に溶ける私。降りたく無いとも思ってしまうも、この先のゴルフ場などそれでこそ行く意味も見つからないので、素直に地に降りた。
そこから多少石段を登って見えたのは、雄大に道を隔つ立派な白亜の門。左右に傘の様な瓦屋根が付いていて、少し珍しい形をしている様に感じる。左右に立つ筋骨隆々の仁王像と中央の「神香山」の文字がその威厳を更に際立たせていた。
「この町にこんな凄い所があったんだ……」
「でしょ? 紬には何も知らない状態からこれを見て欲しかったんだ。その方が絶対に感動するからね!」
確かに、良い。名所は風景が有名すぎて訪れても拍子抜けしてしまう事も多々有るが、こういった秘境地は自前の情報など何も持ち合わせていない。その結果、偶発的な感動が得られる事を私は初めて知った。
「……私、真弓が言ってた事分かる気がするよ」
「そりゃあ、良かった良かった!」
真弓は快活に思い切り口端を上げ、無垢な笑顔を見せた。
私は真弓のこういう純粋な所が好きだ。
裏に何か有るとか、そういうのを気にする様な関係は友達になれても関わりが長いと疲れてきてしまうからこそ、私は真弓との関係を大事にしてきたし、かけがえの無いものだと感じて過ごしてきたはずなのだ。
それなのに、昨日はどうしてあんな事を考えてしまったのだろう……。
思い出した記憶は微笑み返そうとした私の表情を固めて、ぎこちない笑顔にさせる。ちょうど傷の痛みに顔を顰める様な感じだ。
そんな私を見られたくなくて、心配をかけたくなくて、もう思い出したくなくなって。私はやはり、真弓から顔を背けてしまう。
私は真弓に気づかれないように、そっと小さく、白い溜息をついた。
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