第29話 信仰は誰が為に
「さてと……」
咲美は部屋に備えつきの固定電話でメイドさんを呼び、お茶を用意するように頼み、改めて姿勢を正した。勿論というかイメージ通りと言うべきか、正座である。
「まずは私のルーツ、斎藤家についてお話ししますわ」
斎藤家は、先祖代々「
咲美の父も、祖父も、曽祖父も宮司。斎藤家で生まれた男は大切に、そして厳格に
育てられ、代々多々良神社に仕えてきた。義務教育も受けず、彼らが生涯で必要な知識や知恵は全て、斎藤家のこの屋敷で教えられるものが全てだった。
それだけで、全て事足りたのだ。
対して、斎藤家で生まれた女への扱いは酷いものだった。
巫女になるか、縁を切るか、そしてもう一つの選択肢。
兎に角神を信じないのなら、彼女等は一族に人間未満だと罵られ、体罰を受け、本当に酷い時には強姦された。そして起こった事を全て隠蔽するために、殺された。
咲美はそこまで口早に言い切って、息を荒く吐き、濡れ髪を乱し、桜色の唇が紅に染まるまで、強く噛み続けた。
「斎藤家は元祖からの血統を何よりも大事にしていますの。だから、女が生まれたという事は、兄弟、そしておぞましいことに、父さえとも交配をする必要があったのですわ。そうやって斎藤家は固有の血統を今日まで守ってきました。……その、事実私の叔父は私の父なのですわ。近親相姦……と言うのでしょうか。本当に、阿呆らしい話ですわね」
溜め息を吐き、自らの人間関係故の悪い記憶が思い出されたのか、額の前髪をたくし上げ、拳をコツン、とぶつけた。
「そして、先程申し上げた、斎藤家の女に残された最後の方法。それは…………………………神の生贄になること……ですの」
「私達の血統は、神に認められるために続いた血筋。であれば、神にとって最高の生贄は当然、斎藤家の人間になるのですわ」
……正直、ここまで酷い話だとは思わなかった。
いつも朗らかに笑っている彼女が、まさかここまで壮絶な人生を辿ってきたのだとは、思わなかったのだ。
……分かっている。これは言い逃れ。彼女が安っぽい人間なのだと、そうやって見くびってきた私の原罪。
だからこそ、せめてもの償いに、この話だけは私が受け止めなければならないものなんだ。それが、少しでも彼女を救うなら。
咲美は、これだけは話したく無いとでも言う様に長い間口をつぐんだ後、覚悟を決めたのか、おもむろにゆっくりと深呼吸をして、吐露した。
彼女の秘密の、全てを。
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