第30話 迷うことに迷わない
「私は残念ながら、女として生まれてきましたわ。しかし、私には今までの斎藤家の女とは、少し違う特殊な部分がありまして……。それで、高校にも通えていますし、普通の年頃の女子高校生として、日常を過ごす事が出来ていますわ。でも……」
「私は、私のその力が、その力を生み出す原因になった斎藤家が、この世で一番許せない存在……恨んでいる存在なんですの」
そう言った咲美の表情は、とても辛そうで。
両腕でズキズキと痛むその胸を、温める様に抱え込んだ。
咲美の顔からは笑顔の面が剥がれ、素顔が皮膚を満たす。
もう逃げられない。誰からも、何からも。
身が切り刻まれてしまいそうな程の切迫感を、咲美からひしひしと感じる。
余りにも空気の重さに、視界がぐにゃりと曲がる。吐き気がする。
もう嫌だ、やめて。私の事なんて、放っておいて。
……今、私たちは同じ事を考えているのだろう、か。
それなら、いっそ抱えないで。
私に、話してみてよ。
正直、私が知ったところで何が出来るかなんてわからない。
何も出来ないかもしれない。
それでも、やっぱり話さなくちゃ、何も始まらないよ。
貴女が抱えている重いものを、私にも抱えさせて欲しい。
だって私は、貴女が好きだから。
思いの丈を、私の目に乗せて、届けた。
優しく投げた紙飛行機のように。
ふわふわと頼りなくて、本当に届くかなんて誰にも分かりやしない。
でも、それで良い。投げたことさえ事実になって、相手がそれを見ていれさえすれば、それだけで繋がるきっかけになる。伝えられる。私の想いを。
どうか、私を見て。
俯いていた咲美の顔がすっ、と自然に上がった。
咲美の表情は……驚き。
自らの胸に手を当て、微笑む。
この表情をお面だと言う奴も居ないだろう。
だって彼女は今、こんなにも年頃の女の子の顔をしているのだから。
私は、それが嬉しい。
「……分かりましたわ」
咲美が一人でにこくり、と頷く。
糸は既に解れていた。
「……『イタコ』という言葉を御存じでしょうか。神の信託を告げる『巫女』ではなく、人間や畜生の霊を引き寄せ、呼び出す事ができる『口寄せ』が主な仕事の」
「そう、私こそが紛れも無い……イタコ、なのですわ」
最早何かに囚われ、怯えている咲美はいなかった。
彼女は本当の自分を、暗闇から探し出し、手を取って、抜け出して来た。
紛れも無い達成感によるさっぱりとした顔が、咲美の全てを表していた。
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