第18話 冗談のようなプレゼンツ
狭くて暗い、洞窟の様な道を何メートルか進んだ先に「それ」はあった。
「思ったより大きいですね……」
「だろ? ま、ここで生活するならこれくらいじゃなきゃね」
先程までの岩がゴツゴツとした空間から、しっかりと壁紙まで貼られて整理されているこの空間に足を踏み入れれば誰だって唖然としてしまうだろう。
普通のアパートと何ら変わりはない程の広さと外見を持つその空間は、どうやら金時の自宅になっているらしかった。
「ささ、こんなとこしか無いけど座んなよ」
吹雪に見舞われないといっても、陽射しが当たらないせいで結構寒い空間なのだが、金時が手を差し伸べた先には冬の暖かさの象徴、こたつが鎮座していた。
「凄……何処から電気引っ張ってきてるんですか?」
「太陽光発電さ。んで、電気を外からここまで引っ張ってきてる」
「秘密基地みたいです! かっこいい……」
「へへん、そう言ってくれると五十年掘った甲斐があったってもんよ」
「ご、五十年!? 金時さん一体何歳……いやそれよりも、若すぎませんか?」
「そーいうのも全部話してあげるから、先ずは座りなって。お茶注いでくるからよ、ちょっと待ってろ」
そう言って彼女は、私達が入ってきた方とは反対側の通路へと姿を消した。
あの先にキッチンでも有るのだろうか。
「それにしたって、現代慣れしてるね。金時さん」
確かに。益々謎は深まるばかりだ。
そう思って私は小さく頷いた。
いつもなら「現代に生き返ったから gender に配慮してるのかもね」なんてボケくらいはやっていたかもしれないが、少なくとも今の私はそんな冗談を言っているような気分ではなかったし、守ってもらっているのに軽口を叩くなど、真弓に何処か申し訳ない気がしていた。
その後の会話は特になく、数分して日本茶をお盆に乗せて帰ってきた金時から、沈黙は破られる事となった。
「さてと……何処から話すもんだか分からんかったが、大体は湯を沸かしてる時に練り終わったよ。ったく、ヨシツネ殿もちょっちは仕事して欲しいねぇ。何でも失言するのが恐ろしいとかで。女子高校生にそんな、満員電車で両手を挙げてるおっさんくらいにビビるのかねぇ。」
金時は筋肉に富んだ屈強な肩を大袈裟にすくめ、苦笑を漏らすと
「めちゃ長くなるから、楽な姿勢で聴けよ。ただ、あんた達にはこれから必要になってくる情報ばっかだから、全部覚えてしまうつもりで耳を傾ける事! 返事は?」
「分かりました!」
「……はい」
「おーけー。んじゃ、始めんぞ」
そう言った直後に彼女が鳴らした、地下に高く響いた柏手が、その長い長い語り話の開幕を告げた。
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