第13話 I am " "

「神様……かぁ」

「ちょっと…………」


ピンとこない、とまでは失礼で言えなかったものの「ヨシツネ」には大体言いたい事が分かってしまったようだ。


「いやはや、何かと見透かされて気恥ずかしいな。……正直に言って仕舞えば、半分神というべきなのか。兎に角私は今、完全な神ではないのです。この世に『堕ちて』しまう理由はその者にとって様々だが、私の場合は『あの世』から追放された身だ」


「いや〜こいつはあの世で色々やらかしたからね〜。頭のお堅いイザナギ様には散々お怒りに触れることになっちゃったんだよね」


「あの世もこの世とあんまり変わらないね……」

「イザナギって、あのイザナギノミコト!?」


 紬はあの世の社会に半ば呆れ、真弓はいきなり話に登場した架空の存在の名前に度肝を抜かれる。どちらにせよ、二人が話に食いついたことを確認した白猫は気づかれないように不敵な笑みを浮かべた。


「だからさぁ、こいつ今は弱いんだよね〜。信仰も認知度も僕と君達二人だけ! 神という存在としてはほぼ消滅しかけてんだよ。まさに『勇者レベル1』って感じ」

「お前も人の事は言えないだろう。『だいふく』という名を持ちながら名を呼ばれていないのは、存在が否定されているのと同様だ」

「でも僕、認知度だけは上がってるよ。えすえぬえす……? で喋る僕の動画が拡散されまくっちゃってるからな〜いや〜人気者は辛いよ〜」

「こいつ……何から何まで私を苛立たせやがって……」


心底うんざりするようにため息を深く吐くヨシツネ。これで激しく怒ったりしないのはヨシツネと白猫―だいふく―の付き合いの長さが表れている証拠だろう。


「あの……私、これからどうすれば良いんですか」


 いつまでも茶番に黙って付き合ってられないと言わんばかりに棒読みで問いかけた真弓だが、彼女の目は至ってふざけてはいない。急展開により忘れられていたが、彼女はだいふくと「契約」なるものを交わした身である。何も聞かないまま契約した真弓に今後の事などわかるはずもない。

 今はただ、運命に身を任せるしかないと覚悟を決めた上での真剣な表情だった。


「おっと、そうだな。こいつのせいでいつも話題が掻き乱される。全く良い迷惑だ。真弓……と言ったかな。君は巫女の中でも『あの世』の者、並びに『オソレ』に対して最も戦闘に長けた刀巫女になった。君は元々の身体能力が高い故、精霊や刀との精神のシンクロ率が高くなりさえすれば、恐らく最強だ。それまでは体が追いつく事に鍛錬や苦難を強いられるが、それでも君は強くなりたいか」


 真弓は背高のヨシツネをまっすぐ見上げたまま、迷いなく言う。


「勿論だ。私は私を守れるだけじゃ、何も意味がない。逃げるつもりは無い。私を『刀巫女』としてもっと強くさせてくれ」


「……承知した。それなら、君に合った師を紹介しよう。私にできる事は巫女へのサポートくらいしか無いからな」


 自虐をかましながらもヨシツネは真弓に、丁寧に師の居場所や情報を施した。

 そんな一部始終を見ているだけで何も干渉しなかった紬はヨシツネを苦労人だなと思い、それを可哀想だとは思わずに羨ましいと感じていた。

 何か真弓の助けになりたいと思うのに、いざなろうとすればか弱い自分に務まるのだろうかと急に弱気になってしまう。ただ臆病だからだとかそう言うわけではなくて、私は真弓より自分のことを大事にしたいだけなのでは無いか。


 思考が複雑に絡まり合い、私にできる事はないようにも思えてきてしまう。


「私は…………」


 先程のだいふくとヨシツネの会話を思い出して、疑問だけがずっと頭の中をぐるぐる回っていた。


 私の存在価値とは。


 私は何なのか。


 私は、何だ。


 いつの間にか私は真弓に腕を掴まれて帰路に着き、気がつけば自宅の自室にへたり込んでいた。


 私は急に胸を襲う感情を抑えきれず、そして信じられず、啜り泣くだけ泣いた。


 明日真弓と顔を合わせることが、憂鬱だ。

 ……そう思った瞬間、私は空恐ろしくなってベッドに潜り込んだのだ。


 私は真弓を嫌いになんかならない。

 



 そう、絶対に。

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