第11話  闇と光と赤い血

瞳は男の脈がないことを確認し、眼鏡の男に狙いをつけていた。アンディは死んだのか、無線からの返事はない。

「しくじったのかしら。行きましょう、シルヴィア…!?」

その瞬間、背後からの殺気を感じ取った瞳は振り向くことしかできなかった。


間違いなく死んだはず男がそこに立っていた。

足元はふらつき、瞼も閉じている。服も血塗れで汚れている。しかしその男は今、ここに立っている。

その事実だけでも彼女を同様にさせるには十分だった。


立ち上がった敵の手には小型のナイフが握られている。一瞬の風圧ともに瞳の頬を一筋のナイフが通った。

頬が裂け、髪が切れる。

それが投げナイフの一撃であることに気づいたのは敵の腕が移動し、握るナイフが消えていたからだった。


「なんて速さなの………!?」


青竜刀と環首刀を握り直し、瞳はに近づいた。

敵はナイフを逆手に構えている。

青龍刀を振り下ろす。逆手のナイフを上に向け、その刃を止める。

触れ合う刃を敵は体を動かし、滑らかにその衝撃を受け流した。

その瞬間、瞳の体に大きい衝撃が脇腹に炸裂した。

目をやれば、脇腹に敵の拳がめり込んでいる。

コンパクトながらしっかり芯の通ったパンチを振り抜き、瞳の身体を吹き飛ばした。

更に逆の腕でアッパーをねじ込む。身体が少し浮き上がり、内臓へのダメージで胃液が逆流する。

は瞳を地面に叩きつけるように服を掴み、下に引き下げる。地に付いた身体を蹴り飛ばした。骨が折れる鈍い音と共に吹き飛び、スタジアムの壁に激突させた。


「よくもぉぉ‼!!」


シルヴィアが走る。

ククリを逆袈裟斬りで振り上げる。後ろに躱し、ナイフを投げつける。

疎かになっていた左手を貫き、鉈を落とす。

怯むことなくククリを両手で構え直し、さらに追撃する。大振りな連撃は躱すことが楽なのか余裕を持ってその攻撃を避ける。

その一歩一歩が丸く、柔らかく、その容貌が故に、まるで女性かと見間違うほど優雅な翻し方だった。

シルヴィアの動きが止まる。いつの間にか脚に突き刺さっているナイフが原因だった。ククリの柄を掴み、足を掛ける。

バランスを崩したシルヴィアの胸にナイフを突き立てる。


「まさか、そんなことがね......。私の器に伝えて。ありがとうって。」

シルヴィアは静かに瞼を閉じた。身体が粒子となって消える。


「すまない。投石者よ。」


その一言を言い終え、は瞳に向き合う。


「私はお前を殺したくない。」

「綺麗事ね。この戦いは最後まで行わなければならない。」


は悲しい目をしていた。

「投石者からの最後の伝言だ。ありがとうだと言っていた。」

「そう。もう一度彼女に会えるかしら?」

「きっと会えるさ。」


瞳は青龍刀を自らの首に当てる。

「さようなら。あなたを見ていると姉のことを思い出すわ。その目がそっくりなの。」

言い終えると青龍刀を一気に横に動かした。

彼女の首が落ちた。


はその場に倒れた。まるで何かが抜けたかのように。




「さぁ、質問答えてもらおうか。何故お前はあの女と協力した?」

「契約さ、あの女に協力する代わりにあいつの情報が欲しかったのさ。刑事である彼女に接触するのが一番近かったからな。」

「お前は何の情報を得たかったんだ?」

「サイオンジ、そのラストネームを持つ人間について調べていたんだ。俺の妹はそいつのせいで死んだ。」

「サイオンジ………西園寺か」

「気をつけろよ………そいつは俺達を手のひらで転がしている………」


金髪の男の言葉はそこで止まった。男の体は隣に伏せる少女とともに消えていってしまった。


真一はアネットに向いた。

「よくやった。」


真一の大きい手がアネットの頭を撫でた。少し照れた顔が赤く染まった。


「あの人達、どうしますか?」


アネットはスタジアムの中央を指さした。

少し考え、真一は嫌そうな顔で答えた。


「連れて行くか。」

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