第27話 決着と黒い刃と最後の願い
壁に埋まった蒼依はゆっくりとその目を開けた。目の前には今にもとびかかってきそうなレベッカがいた。
「最後に言い残すことはあるかい?」
レベッカは問う。
蒼依は口角を上げ、笑った。
「お前の敗因はその言葉だ。」
蒼依の腕が一気に動く。握られた着剣を投げつける。レベッカはそれを弾く。そこにいたはずの蒼依はいなくなっていた。
周りをぐるりと見まわすと、蒼依は右側に立っていた。しかし彼女の身体はボロボロだ。
「その状態で何ができる?」
「それはどうだろうな。」
両腕を広げる。その左手にはグロック18C。右手にはトンプソン・コンテンダーが握られていた。
「お前を殺す。決して弟の元には行かせない。」
レベッカが近づく。グロック18Cの連射を防ぎながら一気に距離を詰めた。
二人の距離が2m以下となったとき、レベッカはその槍を突き出した。蒼依は弾の切れたグロックを放り投げ、コンテンダーを構えた。
「ここだ。」
蒼依が呟くのと同時にコンテンダーの引き金を引いた。
レベッカは槍で弾こうと銃口の前に槍を止めた。発射された弾丸は今まで以上に大きなマズルフラッシュと爆音を放ちながら、銃口から飛び出した。マッハ3を超えるほどの銀色の弾丸は槍に衝突する。そして槍を砕きながら、レベッカの右肩を吹き飛ばした。
「えっ?」
その状況にレベッカは思いもよらなかったかのように驚きを隠せない。後方に吹き飛んだレベッカは肩から先がないことに気付いた。
「嘘、どうしてあなたのその銃は私の槍より弱いはずなのに!どうして!?」
コンテンダーのトリガーガードを押し、ロックを解除。熱々の空薬莢をレベッカの足元に投げた。
それは周りに飛び散る空薬莢よりも二回りも大きい。
「今の弾丸は12.5x99㎜弾だ。お前が今まで見てきた7.62x51㎜弾とは威力が桁違いだ。それにそいつは私が特別に生み出した炸裂徹甲弾だ。どうせ私が脱出するときに使った銃と同じとタカをくくったんだろう。残念だがこの
空になった薬室に新しい12.5㎜弾を装填し、レベッカの頭に照準する。
「本当にあなたと戦えてよかったわ。アタシの誇りだ。古儀蒼依。」
「さようなら。レベッカ・エルダース。」
その50口径弾の咆哮が教会に響き渡った。
悠斗は四つん這いになりながらもゆっくりと立ち上がる。
目からは赤い血を垂れ流し、地面に染みとして残る。しかしその手に握るグロックは手放さず。
視界の半分は全く見えていない。”神聖化”によって飛ばされたせいだろう。
「まだだ。まだ何にも与えられてない。姉さんが残してくれたこの命、まだ使える‼」
ふらつきながらもその両足はしっかりと地面を捉えていた。
「まだ立ち上がりますか。さすが実験対象。考察が膨らみますね。」
久光は槍を両手で構える。悠斗もグロックをC.A.Rシステムで構える。
「うおおおおおぉぉぉぉ‼」
グロックを撃ち込む。しかしその銃弾は全て躱される。槍の一振りさえも”神聖化”されてしまえば致命傷に代わる。その攻撃の軌道を読み、悠斗は躱していく。
大ぶりになった一撃を見て、悠斗は体を低くし、鳩尾に蹴りを入れる。久光の身体が後ろに飛ぶ。
そこに両手で構えたグロックを連射する。脇腹に数発命中し、黒いスーツに液体の跡が染み出ていた。
二人が同時に走り出す。悠斗はグロックを撃ちだす。予備弾倉を生み出し、リロード。更に撃ちだす。久光はそれらを弾いていくも、一発、二発と腕や太ももを掠っていく。
二人の間隔が腕が届くほどの距離になったとき、二人は武器を持たない腕で互いに拳を繰り出した。
((この距離なら…殴った方が
「うおおおおおお‼‼‼」
「はぁあああああっ‼‼‼」
互いに弱点となる首や鳩尾を狙う。更に近距離で銃を腹を狙って撃つ。その銃口は握られ逸らされる。
槍を刺そうとも柄を掴み、軌道を変えられる。
互いに射程を無視した攻撃の応酬を繰り広げる。
「ふんっ‼」
久光の声と共に背後の地面が盛り上がり、槍が飛び出す。
その一撃は悠斗の左腕を貫いた。その左腕は指先から段々とその場から消えていく。
「ぐああああぁぁ‼」
悠斗は残った右手のグロックを瞬間で分解、バレルだけを手に残す。それを全力で久光の左鎖骨あたりに突き刺した。
「がぁっ・・・・」
バレルの穴から血が噴き出し、二人の顔にかかる。
二人の最後の叫びが砂漠に響いた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」」
久光の右手の槍が伸びる。悠斗の右手を突き出し、新しい銃を生み出そうとする。
「僕の方が一手早い。」
久光の胸の前で止まった右手は銃を構える指の形ではあったが銃は作られていなかった。
「……お前こそ、”神聖化”できてねえぜ。」
その声にハッとする。悠斗の脇腹に突き刺さった槍は刺さったまま血をで濡れているだけだった。
「しかし、あなたこそもう錬具を生み出すエネルギーが残っていないんでしょう?」
間違いなくイメージできていたはずだ。銃の形を。今までと同じように生み出せるはずだった。
腹がだんだんと冷えていくのを感じる。
久光の笑みが見える。自分は負けてしまったのか。悔しさで手が震える。
「僕の勝ちだ。」
その瞬間、手に温かいものが触れるような気がした。いや間違いなく触れている。
『ユート。教えただろう。その力の根源は意志だ。確固たる意志が動かすのだ。』
聞きなれた声、明るく導いてくれるその声。久しぶりのように感じるその声を再び聴けたことに悠斗は何よりうれしかったのだ。」
「ああ。わかってるよ。エマ。」
『「目の前の敵を殺そうという
胸の前に付きだされた銃を握る手の形が変わる。親指以外の指を下に向け、棒を握るかのように構えた手に光の粒子が集まる。それは根元の柄から段々と構成されていく。
黒い刀身をした日本刀はその手に握られていた。その刃先は心臓へ。悠斗は歯を食いしばり最後の力で腕を突き出した。漆黒の
急速に世界が戻っていく。そこにはあの研究室の中で二人は組み合っていた。
腹に刺さっていた槍が消えていく。
「君が最後の器だ……。」
そう言い残した久光は灰となって消えていった。
ドアが開き、蒼依が入ってくる。
「終わったようね。」
「ああ。」
蒼依の姿は粒子となって薄れていた。
「もう行っちまうのか?」
「私の契約はゆーちゃんを危機から救うこと。だからこの”戦い”が終わった時点で失効しちゃう。」
「そうか。ありがとう。俺にいっぱい与えてくれて。」
「ううん。私は全然だよ。もっとゆーちゃんにしてあげることがあった。だけどできなかった。もしその償いが少しでも出来たらうれしいな。」
蒼依の小さな身体が光に包まれる。
「ゆーちゃん。お母さんにありがとうって伝えておいて。そして最後に。ゆーちゃん、私はあなたを愛しているわ。私こそいろんなものを与えてくれてありがとう。」
その顔には笑顔だった。何の後悔も悲しみもない。出来ることをやり切った幸せな笑顔。
「分かったよ。姉ちゃん。」
悠斗は痛む腹を押さえながら、魔法円の中心に立つ。
そして目を閉じた。
目を開ければそこは真っ暗な世界だった
上下左右さえも判断がつかないほど暗い世界。足元には一本の骨が落ちていた。
30㎝強のその骨は一部が緑色の結晶となっていた。
悠斗はその骨を抱きしめ。心の中で強く、願いを祈った。その心は今までの戦いを思い出していた。
それは思い出というには辛いものだった。しかしそれは間違いなく自分の人生において大切な記憶でもあった。
そこで悠斗の意識はそこで途切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます