エピローグ  日常と冬空と未来への祈り


「悠斗~。醤油切れたから買ってきてー。」

大きな母の声を聴き、部屋で寝ていた悠斗は起こされた。

時計を見ればもう8時だった。大学があったら間違いなく遅刻だっただろう。

今日は日曜だったことに気付き、心をそっと撫で下ろした。


まだ眠い目をこする。カーテンを開け、朝日を取り入れる。肌寒い風が部屋を通り抜ける。整えられた部屋はいつもと変わらない。


「分かったよ母さん。」

返事し、服を着替える。ジャージからいつもの服に着替え、階段を降りる。

財布は持った。玄関のから出ると青い空が迎えてくれていた。

冬の初めらしく、空はかなり綺麗だ。乾燥した空気が唇の水分を奪い、乾燥させる。

玄関を出て、10歩ほど歩いた頃だろうか。


「ユート‼待て~。私を置いていくな~~~‼」



後ろからひときわ大きい声が聞こえる。

飛び出してきたのは金髪碧眼の少女だった。


「一緒に来るか、。」

「勿論。私はいろいろなものを見たいんでな。」


エマは悠斗の横に寄り添う。今はもうない左腕側に立ち、中がないその袖を握っていた。

エマの瞳は蒼い空にとても似ていた。見る限り蒼くどこまでも続いているかのように。



開かれた窓から差す日の明かりに照らされ机の上の写真立ては光を放っている。

そこには一枚の写真が挟まれていた。そこには一人の青年と三人の少女が映っていた。

一人は金髪をたなびかせピースサインと笑顔を、一人は茶髪にぎこちない笑顔を浮かべている。そして、もう一人の黒髪の少女は少しぼやけているが間違いなく青年の横に並んでいた。写真の中の4人の笑顔は日に照らされて、その輝きを増していた。


エマは空を見上げ、呟いた。

「いい空だな。」


それに釣られて、悠斗も空を仰ぐ。

「あぁ、綺麗な澄み切った蒼い空だ。」

半分しか見えない空は十分なほどに明るく、雲一つ無く晴れ渡っている。



日常というのは儚いものだ。いつ壊れてしまうのか怯えてしまうこともあるだろう。

それでも俺はこの日常を愛したい。誰かによって与えられたこの幸せを噛み締め、この平和を願い続ける。

いつかこの日常を自分が与えられるようになるまで。いや、与えられるようになっても。いつまでも俺は祈り続けよう。


「愛する者と一緒にいられる日常を過ごせますように」と。


 (完)

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Dieu le veut ~契約者と処刑者は屍の上で祈る~ p.om. @pomwriter0808

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