第13話  バイクと車と総攻撃

真一が建てた作戦はこうだ。


「二手に分かれて互いに感知能力で高さを変えて行う。それで敵を三次元的に特定、そこに俺の帯電者アンガクライトとお前の投擲者ランシャトーレを撃ち込む。それが現時点で安牌だと思う。」




「となると足が必要になるな。」


「それに関しては問題ない。」




『ガレージのバイクは好きに使え。』




そこにはかなりの数のバイクが並んでいた。


「おいおい、オンロードからオフロードにアメリカン、どうなってんだこれ?」


「俺の親父の趣味だ。好きに使え。」




一列に並べられたバイクは埃一つ被らず、美しくその場でハンドルを握る主を待っていた。




「お前金持ちなんだな。」


「つまらないもんだ。親父もお袋も一年の内帰ってくる日は少ない。俺がアルビノで動けなかった時でも週一で帰ってくるくらいだ。」




悠斗は立てかけてある鍵を取り、一つのバイクにまたがる。


GSX‐S125。鍵を刺し、捻る。メーターが動き、ランプが輝く。


悠斗は跨り、スターターでエンジンを始動させる。鉄くろがねの馬に灯が点った。


アンジュが背に乗った。


ギアを下げながら、アクセルを捻りクラッチを開放、半クラッチ、そしてクラッチを手放す。




心地よいエンジン音を吹かせながらガレージを飛び出した。




『作戦開始。』


無線から流れるその声と共にアンジュとアネットは感知能力を解放した。

二人の瞳孔が拡大した。町の中をぐんぐんと走らせる。

網目状に配置された道路はこの作戦に都合がいい。ハンドルをさらに捻る。

さらなる加速が二人の身体にののしかかる。


30分ほど南へ進んだ時、周りには人波がかなり少ない。田舎に入ったからだろう。大型の建物もなく、


アンジュが合図を送る。


「この先1㎞先、います‼。」

『了解。』


真一は立体道路を走らせる。


アネットは身体を助手席の窓から乗り出す。アンジュが広範囲に感知能力ができるようにアネットの特殊技能は立体的な位置の確認ができる。開いた瞳孔に一つのビルが映る。かなりボロボロのビル、廃ビルだろう。


「あの建物です。階は三階‼」


アクセルを踏み込み、ビルに近づく。

真一は腕を窓から出す。


「アネット、頼んだぞ。」

「はい‼」


互いの腕を絡ませ、直接接続された腕からエネルギーが供給される。

指の間に鉄球が生成される。


開放offen‼Der elektrische Stuhl ist elektrifiziert, um diejenigen zu schützen, die er liebt‼帯電者アンガクライト‼」


その声が言い終わると同時に鉄球が高速で飛翔した。




バイクを走らせているとアンジュが言っていた廃ビルが見えた。


「そのまま進んでください。」

後ろでアンジュが立つ。背中をアンジュが掴む。


開放aprire‼Quella tecnica che disegna un arco diventa una lancia suprema che trafigge i tuoi desideri.投擲者ランシャトーレ‼」


その掛け声とともに一本の槍が空を切り裂き、音速を超えた閃光がビルを狙う。

同時にビル近くの立体道路からも飛翔体が同じ場所に目掛けて撃ち込まれる。

その一撃はビルの三階を的確に打ち抜いた。


「今の一撃……」

「はい。悠斗から放出された力を私に逆流させました。これで出力を一気に跳ね上げることができました。」

「そうか。敵の反応は?」


アンジュが虚空を見つめる。


「そんな、馬鹿な!?」


悠斗はアンジュが見つめるビルに目をやった。

間違いなく直撃したはずのビルの壁が一切のダメージを追っているように見えなかったからだ。


『異常事態だな。』


真一の冷静ながら驚愕を隠せない声が無線から聞こえた。


同時刻ー


「嫌な感じがするな。間に合ってくれよ………」

エマは道路を高速で走り、のろのろと走る原付を追い越していたった。


次の日、ニュースでは道路を高速で走る少女が少し話題になったのはまた別の話だった。



「とにかく近づきましょうか。距離の利がなくなるのはあれですが、今は相手の力量を測るのが先決です。」

悠斗はGSXをそのまま走らせていくと、一台の車が近づいてきた。


「あいつの能力がわからない以上、近づくのは危険だが…。今を逃せば他の機会はない。突っ込むぞ。」

真一は運転しながら、そう話してきた。

二人は並走して敵地へ向かった。


廃ビルの駐車場にそれぞれ停め、直撃した場所を見上げる。

そこにそびえ立つ建物の壁は太い縄がぎっしりと詰まって壁を構成している。


「なんだこれは………?」


アネットが口を開いた。

「これではっきりしましたね。ここにいるのは絞首の能力ですね。」

「とにかく今はこの建物の周りを散策する。」

「相手の位置は変わっていませんね。」


4人はビルの周りを観察した。

悠斗はビルの側面の一つに違和感を覚えた。


「ここが出入り口だな。」

ビルには一部だけ縄が張り付いていない場所があった。そこにはドアが鎮座していた。

ドアノブを掴み捻る。鍵はかかっていないのか手応えもなく、するりと開いた。


「やめろ‼悠斗‼」

「待て、お前‼」

アンジュとアネットの二人の声が響く。しかしその声は悠斗の耳には聞こえなかった。しかしもう遅い。開かれたドアの先は暗闇だった。しかしその奥には赤い光が得物を待ち構えている。

ドアを開けた瞬間、それは襲ってきた。

巨大な剣、否、剣と呼ぶのも憚られるような巨大な鉄塊が頭上に振り下ろされる。

反応が遅れた悠斗はそれを素手で受けてしまった。


「ぐぉぉぉぉ‼」

へし折れる音と共にその鉄塊を握る男は脚を前に進め、押し込んでくる。

ドアから飛び出してきた悠斗とそれは組み合いながら力で押し合う。

二人の組み合いの間を縫ってレールガンの玉が飛翔する。

それの意識が弾に移った瞬間、全力で前蹴りを食らわせ、距離を取った。


「悠斗、大丈夫ですか?」

「左腕が逝った……何だあいつ。」

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