第14話 絞首と鏡と怒り
4人はそれぞれ構える。それは一切の構えも取らず自然体でこちらを睨む。その姿がより一層と不気味さを醸し出していた。
それ、その男は自分の身長程もある鉄塊を担いでいる。
「巨大な剣……?相手の能力は絞首じゃないのか?」
「もしかして、こいつらも共闘しているという訳か!?」
男が一気に近づく。4人は散開してそれを回避する。
アンジュは槍を生成し投げつけるも、その鉄塊を貫通することはできなかった。
男はアンジュに狙いをつける。
振り回した大剣の一撃を槍で止めるも、相殺しきれないほどのパワーで体が薙ぎ飛ばされる。
「アンジュ‼」
吹き飛んだ身体を受け止め、悠斗も槍を生み出す。
互いににじり寄りながら相手を伺う。男が動き出した。地面を蹴り上げ、浮き上がった身体。位置エネルギーを加えた振り下ろしの一撃、悠斗はそれを躱す。落下した瞬間を狙い、落下地点を考え、そこに突く。
しかしその場に男はいなかった。
男は大剣を手放し、ステゴロ勝負に移っていた。
ボクシングの構えから繰り出される左右のジャブが無防備の悠斗の腹にめり込んだ。
「あがッッ」
痛みにひるむことなく、腕を振り回すも当たらない。
その瞬間、真一の援護射撃が男の腕を掠った。
「お前らは先に行け‼こいつの相手は俺がする。」
真一が叫ぶ。
「あぁ、頼んだ。行くぞアンジュ‼」
「はい。」
二人は走り、廃ビルの中へ入っていった。
「へぇ、戦力を分散させていいんだ?」
「貴様一人殺すなど造作もない。」
男はニヤリと笑う。
「何がおかしい?」
「一人……ねぇ……?」
「シンイチ、後ろ‼」
アネットの言葉と共に真一は横に飛び退いた。
立っていた場所に男のものより一回り小さいが大型の剣が突き刺さった。
「クレイモアか!」
ビルの陰から少女が出てくる。
髪を団子にし、チャイナドレスに身を包んだ少女。その目は赤く染まっている。
「芽衣、失敗しているじゃねえか。」
「相手が備えていただけね。」
少女は自身の身長ほどのクレイモアを軽々と引き抜き、構える。
「これで2対2だな。」
「アンジュ、見えているか?」
「うっすらですが見えています。」
ビルの中は電気が通っていないのかシーリングライトは動いていない。
「どうしてあの男は奇襲できたんだ?」
「分かりません。ただあの時点では捕捉した敵は動いていませんでした。そして今も感知は天井の方向を向いています。
「あいつの特殊能力かもしれないな。」
アンジュとエマは契約者からの奇襲を警戒しながら階段を駆け上がった。
二階から三階から上がる踊り場で二人は警戒を解いた。
「まさかここまで奇襲さえもないとはな。」
「相手の陣中にいる割にはトラップさえも無し。相当な手練れなんでしょうか?」
「ま、気を引き締めなきゃな。」
階段を上るとそこには一人の青年が立っていた。
自分と同じほどの身長、ラフな格好、その茶髪は暗闇の中ではあまり目立たない。
「やぁ。」
「お前も器か?」
「大正解。僕は室橋亮吾。能力は
「……古儀悠斗。能力は
亮吾と名乗ったその少年は無邪気な笑顔を絶やさない。対して悠斗はその顔を険しくする。
(なにを考えているんだあの男。全く読めないな。)
「僕はこの出会いを偶然と思わないんだ。ここに、この時、出会ったことも必然だと思うんだ。」
「それがどうした。」
「君も思わないかい?ラプラスの悪魔は存在するんじゃないかって。」
「量子力学で否定されているだろ。」
ぶっきらぼうに言い放った言葉を受けて亮吾は少し寂しそうな顔になった。
「うーん。僕たちは彼女たちと契約した時点で運命を決められているのか。最後まで生き残り老衰までの人生を謳歌するか、他の器に殺されてそこで人生を終えるか。出来レースかもしれないって。」
今までの敵を振り返る。智也、雅人、弘文、燃焼の男、瞳。どの相手も自分の力だけでは勝てなかったはずだ。そこに必然性などない、偶々めぐり逢い、殺しあった。
誰もが自分の命を懸けて戦ってきたはずだ。
「そうは思えないな。」
「そっか。」
亮吾の上がっていた口角がゆっくりと下がる。
「残念だなぁ。君となら分かり合えると思ったんだけどな。君もそうだろう?人生に意味を持てないんだろう?」
その一言が急速に悠斗の胸の底を冷やす気がした。
冷たい、いやそんな言葉では言い表せないほど冷酷な目がこちらを貫いたからかもしれない。
「君と僕は同じだよ。自分を俯瞰的に見つめ、世界を嘲笑っている。そうでしょ?」
「違う。お前と俺は違う。」
その言葉に悠斗は感情的にしか返せなかった。
「何も違わないさ。全てを無意味に感じ、心の底から虚無の空っぽな人間、いや、人間以下の獣さ。」
無言で悠斗は槍を生み出す。
亮吾も腕から縄を伸ばす。
「はぁぁっ‼」
「アハハハハ‼」
一気に距離を詰め、槍を突き刺す。
男の鞭がしなり、その穂先の軌道をずらす。
空を切った槍をそのまま亮吾の方向へ振り抜く。
亮吾は柄の部分を掴み、捻る。圧倒的なパワーで捻られ、槍を手放した。
槍が消滅し、新たな槍を作り出す。
亮吾が動き出す。右手に握られた鞭がうねり、円弧を描きながら悠斗を襲った。
横に飛び退き、その場から離れる。鞭が地面を割り、アスファルトを露出させる。
はじけ飛んだ破片が降り注ぐ。その破片の間をすり抜け、亮吾が接近する。
槍を振るには明らかに間合いが狭すぎる。胸元が無防備だ。
「君と僕はそっくりさ。無価値な人生を歩む人形でしかないのさ。」
亮吾は耳元で囁くだけだった。
悠斗は距離を取る。アスファルトの破片の粉塵が落ち着く。
「お前、手加減してるのか?」
「君に本気なんて出すとでも、そんなことに意味があるのかい?」
「うるせぇ‼」
槍を力いっぱいに振り回すも軽々と躱されてしまい、相手に当たらず空振りに終わる。
「そんな力だけの攻撃じゃ、僕を殺せないよ。」
亮吾の冷たい言葉と暗闇に浮かぶ白い歯が悠斗の緊張を加速させた。
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