2-8 結名、自分の価値に悩む 《結名1人称》

 沈没船から、事務所兼自宅に帰還。

 現在、オーパーツショップの店主さんと宝箱大鑑定配信の打ち合わせ中。宝箱大鑑定配信は沈没船から持ってきた宝箱33個を鑑定してもらう企画。

 今は、基本的な配信の流れの確認を行っているところだ。


 普通のダンジョンよりも高価な宝箱が出るという裏ダンジョン。しかも裏ダンジョンのボスからゲットした宝箱まである。

 これらを売れば1億円の違約金も払える。

 そう思っていたんだけど……。


「おそらく、宝箱を全部売っても1億円には届きませんのぅ」


「すごい掘り出し物が出るかもしれませんよ」


「すまんのぅ……。裏ダンジョンとはいえ中層では、それほど高価なオーパーツは手に入らん。一発大逆転とはならんじゃろうな」


 結名の言葉に力なく首を横に振る店主さん。


「予定変更よ。違約金の話題は避けてトーク。結名、これでよくて?」


「…………」


「聞いてます?」


「ゴメン、ちょっと体調悪いから仮眠とってくるね~」




「……グス……グス……」


 自室で独り泣く。

 涙が止まらない。


 あんなに麗華ちゃんがすごく頑張ったのに、1億円返せないなんて……。

 結名、全然沈没船で役に立たなかったし。

 結名がやったことって、違約金を麗華ちゃんに押し付けただけ。完全に足引っ張ってるだけのお荷物。

 結名なんていないほうが、麗華ちゃんはもっと自由に活躍できるのに……。



「結名、起きているんでしょ。開けますわよ」


 麗華ちゃんが部屋に入ってきた。


「大丈夫だよー。少し休んだから元気、元気~」


 慌てて、元気であるように振る舞った。


「何でも話してくださいまし――わたくしたちはパートナーなのですから」


 配信とは違う落ち着いた声。

 隠そうとしていた感情がドッとあふれ出る。


「うぅ……! ゴメン、ゴメンなさい……!」


「泣いていても分かりませんこと」


「麗華ちゃんがあれだけ頑張ったのに、違約金……返せないなんて……!」


「うふふ……。おバカさん」


 麗華ちゃんの指が結名の頭を優しくなでる。


「違約金なんて、今払い切る必要はありませんのよ。また返済に向けて頑張ればいいだけ」


「でも、違約金のせいで……麗華ちゃんが自由に冒険できない……」


「もしかして、貴女。わたくしに違約金を負わせたことを気にしているのかしら?」


「うん……。結名のせいで余計なお金を……」


「貴女がトップアイドルだったから、多くの人がわたくしに注目してくれた。貴女が配信を盛り上げてくれるから、視聴者に楽しんでもらえる。貴女がカメラを回してくれるから、視聴者にわたくしの活躍を届けられる。貴女がスキルを使ってくれるから、万一の事故を避けられる。貴女が本気でクリアを目指しているから、『わたくしも頑張らないと』という気持ちが湧いてくる」


 恥ずかしいくらい褒めてくれた後、麗華ちゃんはちょっと得意げにこう言った。




「貴女に1億円、いいえ、もっともっと価値を感じた。だから、対価を支払うことにした。――それだけのことよ」




「麗華ちゃん!」


 嬉しさのあまり、麗華ちゃんに抱きついた。



 本当に結名に1億円以上の価値があるのか。

 それは分からない。

 それでも、麗華ちゃんが「ある」と言ってくれたことが嬉しい。


「貴女がいないとわたくしは自由に冒険できませんわ。――まずは、あの憎っくきタコを火あぶりの刑に処すところから始めてくださいな」



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 久しぶりに評価をいただきました。

 応援していただいて、本当にありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いします。

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