3-4 麗華、風邪をひく1 《結名1人称》

 中層配信3日目。

 湿原エリアの出口までもうすぐだ。



 カヤックを漕いで水辺を進む。

 水辺でもモンスターは襲ってくる。

 麗華ちゃんが前方、結名が後方を警戒する。


 上空に何かいる――鳥、ううん、鳥人間ハーピーだ!

 急いで麗華ちゃんに知らせなきゃ。


「後ろからハーピーが来るよ!」


 結名の言葉で麗華ちゃんが振り返る。


「わたくしたちを狙おうとは愚かな。――エアバレット!」


 麗華ちゃんの必殺技、エアバレット。

 指を超高速で弾いて作った、空気の弾丸。

 1撃でも食らえば、相手は死ぬ。


 ギャアアアアア~~!

 断末魔の叫び声を上げ、ハーピーが爆散。

 さすが麗華ちゃん!



 麗華ちゃんが勝利の高笑い。


「おーーっほっほっほーー! 前からでも、後ろからでも、横からでも、上からでもかかってきなさい! わたくしが圧勝してみせ――」


 麗華ちゃん付近の水面がカヤックごと盛り上がっていく。


《麗華様の下から何か出てきた》

《下、下、下!》


 ザッパァァーーーーーン!

 泥巨人マッドジャイアントが麗華ちゃんの真下から浮上。

 麗華ちゃんはバランスを崩し、そのまま水の中にダイブ。



「もぅ~~~、下から来いとは言ってませんことよ~~~!!」


 麗華ちゃんがマッドジャイアントを瞬殺。


《下から出てくるのは卑怯だろ》

《見事なフラグ回収》

《水もしたたるいい女》


 この何てことない出来事が私たちの旅に大きな影響を与えることに、この時は全然気づかなかったのでした。






 湿原エリアを抜け、海岸エリアに到着。

 少し歩いて海に出る。


「やっと海岸エリアまで来たよ~。1エリアを抜けるのに1日くらいかかっちゃうね」


《ダンジョンは相変わらず広いな》

《夜なのにダンジョン内はずっと昼か》


「今は19時過ぎかぁ。今日は朝から配信していたから疲れちゃったよぉ~。麗華ちゃん、そろそろ休もっか?」


《え~》

《え~》

《俺、会社から帰ってきて見始めたばっかりなのに~》


「いけません! わたくしの辞書に『休む』の文字はなくてよ!」


《ブラック企業かよw》

《さすが悪役社長令嬢、労働基準法は無視か》


「今日中に海岸エリアをクリアしますわーー!」


 麗華ちゃんがリュックから、一瓶の大船団を取り出した。一瓶の大船団(グランド・ボトルシップ)は1隻の船を出すオーパーツ。


「クルーザー出航!」


 結名たちはクルーザーに乗って海岸エリアをショートカットする。


「これから船上セレブパーティーと決め込みましてよ~~!」


《¥5000:1日2エリア踏破、すごい!》

《つくづくボトルシップを売らなくてよかったな》

《セレブパーティー、配信してほしい》


「おーーほっほっほーー! もちろん、配信いたしますわ!」


「準備があるから、30分だけ配信はお休みです。ごめんねー」




 結名たちはクルーザーに乗り込んだ。

 海岸エリア攻略準備万端だ。


「それじゃあ、行きますわよ!」


 船長の麗華ちゃんが号令をかける。


「山岳エリアに向かって、全速前進ですわ~~~!!」


《全速前進!》

《全速前進!》

《全速前進!》


 クルーザーを走らせたところで配信終了。

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