3-3 浮島の沼地にリベンジする 《麗華1人称》

 中層配信2日目。

 森林エリアを抜け、湿原エリアを攻略中。



「ついにここまで来たね、麗華ちゃん」


 眼前には広大な沼地。

 水とも泥とも区別がつかぬ黒色の水面は、この世の物とは思えないほど醜悪だ。


「ええ。何度、わたくしの挑戦が跳ね返されてきたことか――」


 ここはわたくしにとっての鬼門――浮島の沼地。

 底なし沼は今日も獲物を求めている。


「今日こそ越えるよ」


「もちろんですわ」


 決意を新たに、配信開始。




 まずは結名が説明を始める。


「今回配信する場所は、なんと配信初公開です!」


 ドローンが沼地にカメラを向ける。


「その名も――浮島の沼地!!」


《カッコイイ!》

《浮島らしきものがいっぱいあるな》

《面白そう》


「実はここは麗華ちゃんが苦手なステージなの」


《ええっ!?》

《麗華様に苦手なものがあったのか!?》


「ここは浮島をテンポよく飛び移って進むステージなんだけど、麗華ちゃんは踏み込む力が強すぎて、飛び移った浮島を壊したり貫通したりしちゃうんだよね」


「そのせいで、いっつも底なし沼にドボンですわッ!」


《STRカンストがあだとなったか》

《強すぎるゆえの悩みだな》

《(Tama)底なし沼くらい歩いて行けるでしょ》


「歩いて行けるとか、そういう問題じゃありませんこと! 底なし沼に落ちたら――ドレスも髪も泥だらけになりますのよ!」


《それは困る》

《(ニート万歳)泥パックでキレイになれるんじゃね》


「なれるわけないじゃない。泥はと~~~っても臭いのよ!」


「というわけで、浮島の沼地は女子的に配信NGにしていました」


 全身泥だらけの姿を見られるのは、寝起きのスッピンを見られるよりもキツイですこと。



 ここで決意を述べる。


「ですが、今回の企画は中層完全踏破配信。この難所を完全攻略することにいたしましたわ!」


《おお~》

《いいぞ!》

《¥6000:頑張れ~~》


「そこで、皆様からの攻略アイデアを募集いたしますわー」


《募集するんかいっ!》

《まさかの俺たち任せ》



 結名がコメントを読む。


子子子子子子子子子子子子ここここここここここここさん……でいいのかな?『ゆなちゃんが麗華様を背負って浮島を飛び移る』――それやりました……でも、失敗したんです」


 わたくしが追加説明。


「沼地にもモンスターが出てきますの。わたくしを背負って戦うのは難しくて、結局2人とも落ちましたわ」


《沼にもモンスター出てくるの!?》

《麗ゆな見ていたら麻痺するけど、中層は難しいね》



 結名がコメントを読む。


「みーみっくさん『沼地を全部埋めましょう』――それいいね! 麗華ちゃんならできるよ!」


「おーっほっほっほーー! 地形破壊は得意中の得意。わたくしの専売特許。その手でいきますわー」


《林業に続き土木もやるのかー》

《またしても地形破壊ww》


「それじゃあ、いきますわー。せーーーーーの!」


 前方の地面を拳でえぐり、沼に向かって飛ばす。


 ベチャャァァッ!

 跳ねた泥がわたくしの顔をパックした。


「ここもべちょべちょなんて、思ってもみませんでしたわ!」


《(Tama)沼地に近いから地盤が緩かったね》

《ドンマイ》



 茂みで泥を拭き、衣装チェンジ完了。

 結名がコメントを読む。


「酢豚のパイナップルさん『麗華様が危なくなったら、ゆなちゃんにバリアを張ってもらいましょう』――それいいね! やろうよ!」


「じゃあ、早速行きまして」


《2人の共同作業》

《ゆなな、張り切ってるな》


「ゆながちょっと先行するよー」


 結名はピョンピョンと軽快に浮島や岩を飛び移って行く。


「それじゃあ、行きますわー」


 まずは軽くジャンプ!


《(Tama)飛びすぎ飛びすぎ!》

《麗華様のパワーあり余ってるな》

《早速ゆななの出番かよ》


「危ない! 白銀の隔壁シルバー・バルクヘッド!」


 飛び石の上にバリアが発生。

 これなら――


 ミシッ……ミシミシミシ……


《何かミシミシ言ってね?》

《壊れるううううう!》


「退避!」


 慌ててバク転でバリアから岸に逃げる。

 次の瞬間バリアは砕け散った。


「ハーッ、ハーッ、ハーッ……。あ、危なかったですの……」


《(Tama)さすがSTR9999だね》

《飛び石どころかバリアまで貫通とは》

《振り出しに戻る》


 現在手持ちのドレスはこの1着しかない。泥にかぶったら、しばらく水着で配信するはめになる。暖かい海岸エリアならともかく、ずっと水着だと風邪をひいてしまいますの。



 結名も岸に戻ってきて、再度アイデア募集。


「今度はわたくしがコメントを読みますわ。通りすがりのモデラ―様『巨大ロボを作って、沼地なんか踏み越えましょう』――って、そんなことできるわけありませんこと」


《船をへし折って変形させよう》

《泥を固めて巨大フィギュアを作ればいいんだ》

《ロボットを発掘するとか》

《スーパーロボットは俺たちの心の中にあるのさ》


 おふざけコメントが次々と流れる。


「ちょっとは真面目に考えなさい!!」


《ごめんなさい》

《ロボはないな》

《世界観に合ってなさすぎ》


 結名がわたくしに話しかける。


「巨大ロボに乗れたら楽だったかもね。底なし沼といっても、体が大きかったら足を取られないし」


「いくら何でも体を大きくするなんて――」


 1つのアイデアが浮かんだ。


「閃きましたわ!」


「何するの?」


「うふふ……。結名、貴女を無敵のロボットに乗せてあげるわ」


 準備が必要なので、いったん配信は終了。






 2時間半後。配信再開。


「見て、見て、この景色!」


 結名がはしゃぎながら手持ちカメラを回す。この素晴らしい景色を見せてあげたいという結名の気持ちはよく分かる。

 眼下には漆黒の沼地。わたくしたちの周りに並び立つ物は何も無い。わたくしたちは天空に立っている。


《空の上?》

《飛んでる?》


「麗華ちゃんが【丸太足だけロボ】を作ってくれましたー」


 前の配信終了後、森林エリアに戻り丸太を2本調達した。それを竹馬風に改造したのが、この【丸太足だけロボ】だ。

 結名はわたくしの背中につかまっている。


《竹馬、いや丸太馬?》

《またしてもお丸太が大活躍か》


《どこがロボなんだwww》

《巨大ロボの足は、飾りって聞いたけど》


 え? 全然ロボットじゃないって。

 それは――気にしないでくださいまし。



「では、ロボ発進ぃぃぃぃぃん!」


「了解ですわ!」


 ドゴン! ドゴン!

 地響きを上げ進む【丸太足だけロボ】こと、わたくし宝月麗華。

 ドローンで地上から撮影。雄大に浮島の沼地を闊歩(かっぽ)する丸太ロボの絵が撮れていることでしょう。


《なんか、ロボに見えてきたわ》

《俺も》

《スーパーロボットは俺たちの心の中にあるのさ》

《(ニート万歳)集団幻覚発生中w》



 下を見ていた結名が声をあげる。


「あ、敵発見! ブラッククロコダイルが丸太を噛み砕こうとしてるよ」


《マジか!》

《開始1分で大破コース!?》


「丸太ロボ攻撃!」


 結名の号令で片足を高く上げ、そのまま垂直に降ろす!


 ベチャ!


《瞬殺》

《丸太ロボTUEEE》

《やっぱ丸太は最強武器だな》


 敵がいっぱいやってきても――

 ベチャ!

 ベチャ!

 ベチャ!

 ベチャ!

 はい、全滅。


「おーっほっほっほーー!! 丸太ロボの前に、敵なんてありませんわ~~」


 その後は空中散歩を優雅に楽しんで、浮島の沼地を楽々クリアしたのでした。



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 前回も評価をいただきました。

 応援していただいて、本当にありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いします。

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