2-6 沈没船攻略配信2 《麗華1人称》

 沈没船の中に入る。

 当たり前だが暗い。

 ヘッドライトをつけて様子をうかがう。


 どうやらここは通路のようだ。

 サンゴや海藻が生えており、視界は悪い。

 船体が横倒しになっているため、船室の扉が下についている。


 これは進むのに苦労しそうね。



「結名。サーチライトを照らしてくださる?」


「麗華ちゃん、実は……」


「何かしら?」


「ゆな、暗くて狭い所がダメなんですぅ~」


「そんなこと言われても困ります。わたくしの言う通り働きなさい」


 わたくしの言葉を無視して、結名がとんでもないことを言ってきた。



「麗華ちゃん、抱きついてもいい?」



「…………は?」


 わたくしが呆れて固まっている間に、結名が後ろから抱きついてきた。嫌な予感がしてコメント欄を確認。



《キタ――(゚∀゚)――!!》

《抱きついたー!》

《いいぞー、もっとやれー!》

《ハグしよ》

《ハグしよ》

《ハグしよ》

《(百合の間に挟まりたい女)ふえぇ~~~~~》



 も、盛り上がってる……。

 何ですの、この断りづらい流れは。

 あぁ、どうしましょう……。


 結名が潤んだ瞳でこちらを見る。


「ゆなを……守って……」


《守って!》

《守って!》

《守って!》

《守って!》

《(百合の間に挟まりたい女)守って~~~~~!》


「守って」コールの大合唱。

 こんなの断れるわけないじゃない。

 結名のあざとい演技、恐るべし……。


「おーっほっほっほーー! 『一生護る』と宣言したからには、もちろん守りますわー」


《ゆななのガチ百合営業の犠牲者が》


 こうして、結名に抱きつかれたまま船内探索を開始することになった。





 カシャカシャ――カシャカシャ――

 わたくしはパイレーツスケルトンの大群に囲まれている。

 1体1体は雑魚だが、数がとにかく多い。


《もう30体ぐらい倒してる》

《無限ポップ?》


 このままじゃ、らちがあきませんこと。


「結名、しっかりつかまりなさい。視聴者の皆様は、しばらく画面を見ないように」


 一気にカタをつける!


「わたくしのお宝を狙う海賊共は――」


 高速回転開始。

 激しい回転は水のうねりを引き起こす。うねりはやがて激しい渦と変わる。


「許さなくてよーーー!!」


 周囲にいたパイレーツスケルトンが渦に巻き込まれ、次々壁に激突。スケルトンたちは全滅した。



 しかし、ここでアクシデントが発生。

 突然サーチライトの明かりが消えた。


「ゴメン。サーチライト落としちゃった……」


 結名の声の調子からして、嘘ではなさそうだ。


「サーチライトの光らしきものは見つからないわね」


 サーチライトの光源が床の上になってしまって光が見えなくなってしまったのか。それとも、さっきの水流に流された拍子に何かに叩きつけられ、サーチライトが壊れてしまったのか。


「ヘッドライトがあるから、その明かりを頼りに――」


 2人のヘッドライトの光も消えた。

 最悪の偶然だ。


《配信事故》

《何も見えない配信とか斬新だなw》



「うわぁ~~ん、どうしよう~~~!!」


「落ち着きなさい、結名。ヘッドライトの電池が切れたのなら、電池を交換すれば済む話。いったん外に出ましてよ」


「麗華ちゃん……!」


 わたくしの身体を抱きしめる結名の力が強くなる。


「必ず、戻ろうね」


 頼りにしてくれているのね。

 ほんと、もう。怖がりさんなんだから。


「おーっほっほっほーー! カワイイ結名の頼みですもの、よろしくてよー!」


《こんな真っ暗な中、どうやって戻るんだ?》

《マジで何も見えんな》

《俺には見える。百合の世界が!》



 ネトォ――


「ひゃん!」


「どうしたの麗華ちゃん?」


《今の声、カワイイな》

《麗華様の声だったのか》

《なんかHくない?》

《(麗華様の信奉者):麗華様の喘(あえ)ぎ声。昇天》


「何か冷たくてぬめぬめした物が首筋に――あぁん!」


《(ニート万歳)急にエロ配信になって草》

《暗闇、仕事するな。見せろ!》

《俺には見える。エロの世界が!!》


 舐めまわすような、うようなゆっくりとした動きで、結名の指が首から下へ下へと刺激する。


「ゆ、ゆなぁ……Hなのはダメぇ……って言ってたじゃなぁ……い……」


 Hで下品すぎるのは配信ではNG。

 そう言っていたのは他ならぬ結名だ。

 LOVEの匂わせは喜んでもらえるが、生々しい下ネタはかえって引かれてしまう。


「結名、何もしてないけど。どうしたの……?」


 結名の指のような物が、ついに胸にまで手が伸びた。

 このままだと、わたくしの胸があらわになってしまう。

 それどころじゃない。

 気が変になってしまうかもしれない。


 これ以上、結名の暴走はいけませんの!



「すぐに配信復旧いたしますわ!」


 全力で水を蹴り、弾丸のように飛び出した。

 外に戻ったら、たぁ~っぷり結名をお仕置きですわ!


 バゴッ! ドゴッ! ドゴオオオオオン!!

 全ての壁が破壊され、光が目に飛び込んできた。



「ありがとう! 麗華ちゃ~~ん!」


「はぁ……はぁ……。いい加減、胸から手を離してくれます……?」


「胸なんて触ってないけど……」


「でも、わたくしの胸を……」


 そう言って、胸に目線を落とす。


 にゅるん

 1匹のタコが胸の谷間に張り付いていた。


《タコGJ!》

《タコいい仕事したな》

《タコかよwww》

《(百合の間に挟まりたい女)エロタコ許さない!》

《本当はゆなの仕業なんじゃねーの》


「よくもやってくれましたわね~~~!!」


 タコを引っぺがし、宝箱の中に押し込んだ。

 悪いタコには後でお仕置き、いや――


「今夜はタコ焼きや!!」


《麗華様、キャラ崩壊www》

《雑な関西弁じわる》


 その後電池を交換し、沈没船配信を再開。





 2時間の沈没船探索が終了。


「けっこう取れたねー」


《こんなに宝箱ゲットした配信見たことない》

《俺もこれだけゲットできたらなぁー》


 持ち出した宝箱は32個。

 1回の探索にしては上出来も上出来。

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