2-7 裏ボスをぼこぼこにする 《麗華1人称》

沈没船はあらかた探索した。

後は帰るだけ。

ここで視聴者のコメントを読む。


「ニシムラ様『どうやって宝箱を持って帰るの?』――なかなかいい所に気づきましたわね」


今回は宝箱開封企画が配信のラストにあるので、宝箱は開けずにそのまま持っていく。

持ち出した宝箱の数は32個。

もちろん、抱えて運ぶのは不可能。


「これを使いますのよ」


バッグから長いロープを取り出した。


「宝箱にこれをくくりつけ、引っ張っていきますの」


《デカすぎストラップw》

《ワイルドな絵になりそう》



宝箱にロープをくくりつける作業終了。

後は帰るだけだ。


「今回の配信はここまで――」


配信を終了しようとした時、


ピュォォォォォォン!! ピュォォォォォォン!! 

耳をつんざくような高音。

すぐに、激しい水流。


「つかまって!」


結名が流されないように手を握る。

もしかして、これは――


《(蜘蛛衛生兵)始まるよ》


ピュォォォォォォォォォォォン!!

沖からクジラが姿を現した。


結名が鑑定スキルを使用する。


「キャプテンホエール、Cランクボスだよ!」



《ボスキタ――(゚∀゚)――!!》

《ボスだ!》

《ボス!》

《ボスって実在するんだ》

《(Ryuichi)行かなくてよかった……》


「キャプテンホエール……。なるほど、いかにも船長キャプテンって見た目ですわね」


あごひげが生え、片目はアイパッチ、頭には巨大な海賊船長帽子。ただのマッコウクジラではなさそうだ。



キャプテンホエールは大きい。

今までの雑魚と違いワンパンで沈みそうもありませんわね。


でも、問題ありませんこと。

それ以上にスゴイものを見せてさしあげますわ!



「結名、下がってカメラを回しなさい」


「うん」


安全圏まで結名を下がらせた。

明らかに危険すぎる。


「貴方、この沈没船の船長キャプテンかしら?」


巨大な眼球がわたくしを睨む。


「残念ながら、貴方のお宝はわたくしがいただきました。――わたくしの物はわたくしの物。お前のお宝ものはわたくしのお宝ものですわ」


《悪役のセリフキタ――(゚∀゚)――!!》

《ひでぇwww》

《マジモンの悪役台詞で草》

《傍若無人すぎwww》

《劇場版だったら、味方になる悪役》

《悪役社長令嬢というかガキ大将》


視聴者を盛り上げて、準備完了。

さぁ、殺りますわ!



ボスが先に動いた。

戦艦のような巨体がわたくし目掛けて突っ込んでくる。


ドゴオオオオオン!

巨艦の主砲のような轟音が響き渡る。

海底にボスの頭がぶつかり、砂嵐が巻き起こる。


《すごい頭突きだ!》

《これくらったら、いくら麗華様でも死ぬだろ》

《麗華様はそもそもHPもDEFも1だから死ぬ》


《(蜘蛛衛生兵)こんなぬるい攻撃で麗華さんが終わるわけがない》

《(Tama)麗華様はパワーだけの女じゃないよ》


砂嵐が収まった。


「おーっほっほっほーー! そんなゆっくりした頭突きじゃ、タコが止まってしまいますわよー!」


《ボスの頭の上に麗華様がいるぞ!》

《いつの間に!》

《すげえええええ》

《蝿が止まるんじゃなくて、タコw》

《麗華様はタコに止まられてたよね》




「本気で来なさい!」


ボスの頭上から挑発する。

このまま攻撃してもよろしいのですが、もう少し遊んであげるのも配信者の務めでして。


ボスが頭を振ってわたくしを振り落とそうとする。

ここは大人しく距離を取る。


「まさか、体当たりだけのボスではありませんこと?」


わたくしの挑発の意味が分かったのか、ボスが口を大きく開けた。

より強力な攻撃が来る予感。


《何する気だ?》

《ビームでも撃つのか?》


ピュォォォォォォォォォォォン!!

激しい水流が発生。

最初よりもずっと流れが速い。


《吸い込み攻撃だ!》

《呑まれる!》

《逃げてーーー》


「そちらがわたくしを呼ぶのでしたら――」


踏ん張る力を一気に放出。


「わたくしから行ってさしあげますわ!」


《麗華様が吸い込まれる!》

《(Tama)自分から向かったね》

《反撃が始まるぞ》


クジラの吸引力とわたくしのダッシュ。

2つの力が合わさり、加速度合が増す。


クジラが口を開き切る前に――


「受けなさい! わたくしの一撃!」


渾身のファーストアタックをお見舞いした。


グヘァッッッ!

ボスが吸い込み攻撃を中断。

痛みでたまらなくなったのか、ボスは体をくの字に曲げた。


《倒れない!》

《嘘だろ》

《不死身かよ……》

《(麗華様の信奉者)ここからですぞ。必見》



「1撃で倒れないのなら――」


さぁ、とくと見なさい!





「連打連打連打連打連打連打連打ですわあああああ!!」




両腕でパンチをひたすらおみまいする。


《すげええええ!》

《オラオラだ!》

《早すぎて何も見えない》


「ハアアアアアッッッ!」


ひたすら打ち込み続ける。


《クジラ、ただのサンドバッグ》

《回避する隙も与えない》

《クジラの時、止まってる?》


ピェ……ピェ……ピェェェェェェェェン~~!!

情けない泣き声を上げ、ボスは崩れ落ち爆散した。


《¥3000:強すぎいいいい!》

《¥10000:麗華様最高!》

《¥1500:これ本当にボス戦?》

《¥5000:強すぎワロタ》

《¥50000:(蜘蛛衛生兵)裏ボス相手に意味わかんない……》



「おーっほっほっほーー! もう終わってしまいま――」


「麗華ちゃぁ~~ん」


結名がハグしてきた。


「ちょっとぉ~、いきなり飛び出さないでくださる~!」


《ゆなちゃんの攻撃は避けれないんだね》

《やっぱり、ゆなが最強》


結名を引き剥がすと、ボスが倒れていた所にひときわ目立つ豪華な宝箱を発見した。


「結名、あそこ……」


「何だろ……?」


わたくしたちは宝箱の側に行く。


《激レアが入ってるのかな?》

《激レアの宝箱も普通の木箱だよ》

《(蜘蛛衛生兵)ボスはね、特別な宝箱を落とすよ》


コメント欄を拾って読む。


「蜘蛛衛生兵様『ボスはね、特別な宝箱を落とすよ』――有識者様のコメント、誠に感謝いたします」


「特別な宝箱ぉ! 何が入ってるんだろ――!」


興奮した結名が宝箱に手を伸ばそうとする。

結名の手をそっと握って止める。


「焦っちゃ、ダ・メ・よ」


《えー、気になるー》

《じらすねぇ》



落ち着いた結名が本来の進行を始める。


「配信はいったん終了です。4時間後に配信を再開して宝箱大鑑定配信をやりまーす」


「宝箱に入っているのはゴミか。はたまた、財宝か。次の配信、必ず見なさいよ!」


《気になるところで終わったな》

《絶対見ます!》



「それでは、『麗華様とゆなのダンジョンちゃんねる』今回の配信はここまでですわ」


「チャンネル登録、各種SNSの登録。ぜひよろしくお願いしますー」


「「それでは、ごきげんよう~~~」」


《ごきげんよう》

《ごきげんよう》

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