2-5 沈没船攻略配信1 《麗華1人称》

「やっと着いたね」


「長かったですわ……」


 ダンジョン内を歩き続けて3日。

 ついに目的の階層までたどり着いた。



「ちょうど、時間ですわね」


 撮影用カメラを三脚で固定し、配信開始。


「おーーっほっほっほーー! 欲しいものは奪い取る。邪魔するものはぶっ飛ばす。わたくしが、悪役社長令嬢、宝月ほうげつ麗華様ですわ!」


《ごきげんよう》

《ごきげんよう》

《ごきげんようですわ》

《(ニート万歳)こん》


「推しが立つ現場なら、どこにだって参戦! 限界ヲタク探索者、ゆななこと石川結名ゆな。みんなと一緒に、尊み、感じたぁ~~い!」


《ゆなを感じたぁ~~い》

《ゆななを感じたぁーい》

《感じたぁ~い》


「麗華様とゆなのダンジョンちゃんねる、始まりまーーす」


《88888》

《888888》




「青い空! 青い海! 照りつける太陽! ゆなたちはついに海岸エリアまでやって来ましたーーー!」


《¥1500:待ってたよ~》

《グアムかハワイみたいなステージだな》

《麗華様、今日も暴れてくれー》

《水着水着水着》

《水着》


「ここ47層にはなんと! 誰にも知られていない裏ダンジョンがあると聞きました。教えてくれたRyuichiさん、本当にありがとうございます」


《(Ryuichi)¥50000:面白い配信楽しみにしてます!!》


 Ryuichiさんのコメントを拾って読む。


「Ryuichi様『面白い配信楽しみにしています!!』――誠にありがたき幸せ。誰も見たことがない痛快な配信を見せてさしあげますわ」



《水着》

《水着まだー》

《水着水着》

《水着水着水着》

《水着水着水着いいいいい!》


 コメントを見ていた結名が「ぷぷぷ」と笑う。


「麗華ちゃん、みんな『水着を見たい』ってコメントしかしてないよ」


 予想通りの反応だけど、そんなに言われると恥ずかしい。


「結名ぁ、ほんとにやるの? 普通にお披露目しません?」


「やるよ!」


《やって!》

《ゆな、誰よりも麗華様の水着見たがってるだろ》


「わ、分かりましたわぁーーー!!」


 覚悟を決めて、着ているドレスに手をかける。


《生着替えキタ――(゚∀゚)――!!》

《脱いだあああああ!》

《生着替えキタ――(゚∀゚)――!!》

《これ配信大丈夫?》

《大胆!》

《ワイも脱ぐわ》


 服の下には水着を着こんでいる。

 水着になってポーズを決める。


「おーっほっほっほーー! 海中でも、この宝月麗華様の美貌に酔いしれなさい!」


《¥30000:赤のワンピース型水着だ!》

《¥50000:おっしゃれ~~》

《¥20000:カッコイイ!!》

《¥2000:露出度は控えめだけど、それがいい》

《¥10000:開いた背中がセクシー》

《(麗華様の信奉者):¥50000:麗華様のおみ足。尊死》


「次はゆなだよー。ジャーーーン!」


《¥10000:黄緑のビキニだ!》

《¥3000:おっぱいおっぱい》

《¥50000:写真集以来の貴重なショットだよ》

《¥18000:おっぱいおっぱい》

《¥10000:おっぱいおっぱい》

《(百合の間に挟まりたい女)ふえぇ~~~~~》



 大量に流れるスペチャ。高額の赤スぺも多い。

 注目を浴びるのは最高に気持ちよくってよ!


「さぁ、この調子で裏ダンジョンを探しますわよ!」






 配信開始から2時間が経過。

 わたくしたちはただひたすら、海岸沿いの海を泳ぐ。



「ごめんあそばせ」


 わたくしの蹴りが鮫の脳天に直撃。

 鮫は爆散した。


「麗華ちゃん、敵の種類が変わってきたね」


 今倒した鮫モンスターは初めて出現したモンスターだ。結名の鑑定スキルによるとデビルジョーズというらしい。


「近いわね――裏ダンジョンが」


 Ryuichi様によると裏ダンジョンは高難易度。数段強いモンスターが出現すると考えられる。


「でも、わたくしが強すぎて、モンスターの強さを調べることができなくてよーー」


《悲報:デビルジョーズ君、出てきた瞬間死亡》

《(Tama)安定の麗華様クオリティ》

《脳がバグる》



 おしゃべりをしていたら、遠方に気になる物を発見。

 あれは――渦潮だ。


 渦潮に巻き込まれたら危険だ。一瞬で海底に叩きつけられてしまう。

 すぐに安全な場所へ向かわないと。


「結名。星の守り手ステラ・プロテクションをかけなさい」


 わたくしに言われて、結名がスキルを使用する。


星の守り手ステラ・プロテクション


 星の守り手ステラ・プロテクションはDEF(防御力)を上げるスキル。これで、わたくしが渦に巻き込まれても大丈夫ですこと。


《何でDEF上昇スキル使ったんだ?》

《モンスターどこにもいないよ》

《(蜘蛛衛生兵)いい勘してるね》


「結名。貴女もステプロをかけなさい」


「ステラ――」


 結名がスキルを発動させようとした、その瞬間――




 ゴゴボゴボゴボボボボ――!



 渦潮が結名の真下で発生した。


「――!」


 結名が渦にのまれた。

 すぐ隣に居たはずの彼女がどんどん遠ざかる。


「助け――」


 恐怖に顔をゆがめた結名が必死に手を伸ばす。


 逝かせない。

 こんな渦ごときがわたくしと結名の絆を引き裂こうなんて、笑止!


 怒りを力に変え水を――蹴る!

 渦潮が結名を連れ去るよりも速く、わたくしが水の中を魚雷のように駆ける。


「結名ッッ!」


 伸ばした結名の手をつかみ、体を抱き寄せた。


 だが、水流は止まらない。

 このままだと海底の岩目がけて、真っ逆さまだ。



「結名の手を引っ張ることができるのは――わたくしだけ!」



 海底に激突する瞬間。

 力を込めた拳を海底に叩きつける。


 ドゴオオオオオン!!

 拳を海底に叩きつけた力の反作用で、わたくしたちは潮流から脱出。


「ここは危ない! 迂回うかいしますわよ」


 結名を抱きかかえ、急いで安全な場所まで避難した。



「ここなら安全ね。もう渦潮に呑まれることもありませんこと」


「あの麗華ちゃん、さすがにこの体勢は……」


 ハッ、しくじりましたの!

 渦潮地帯を抜けるのに夢中になって、結名を抱いたままでしたわ。

 慌てて結名を降ろす。

 コメント欄はどうなっているかしら……。


《お姫様抱っこ》

《わたしもお姫様抱っこされた~い》

《麗華様、マジイケメン》

《惚れた》

《一生護る(意味深)》

《百合の波動を感じますぞ》


 案の定わたくしの活躍に萌えていた。






 渦潮多発地点から泳いで30分。


「あれは……沈没船ですわね」


《裏ダンジョンだ》

《マジであった》

《ガレオン船っぽいな》

《タイタニック》

《お宝ザクザクの予感》



 沈没船に到着。

 所々朽ちていたり、サンゴやフジツボに覆われていたりするが、船としての原型ははっきりと分かる。


「いよいよだね」


「ええ」


 巨大な沈没船を目の前にして、期待感が否応無く上がる。



 ここでカメラに向かって高笑いをする。


「さぁ、これからは財宝取り尽くしタイムですわ! 貧乏社長令嬢から金持ち社長令嬢に返り咲いてみせますのよー!」


《すげー》

《貧乏社長令嬢www》

《がんばれ~》

《違約金払えるといいね》



「それじゃあ、行きますわよー!」


 分厚い船腹を破壊し、できた穴から沈没船に入った。

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