1-2 STRカンストする 《麗華1人称》

 さぁ、今日は待ちに待ったショッピングの日。

 といっても、お洋服やアクセサリーを買うのではありません。

 ダンジョンに潜るためのオーパーツを買いますの。



 繁華街の路地の突き当りにある、見捨てられたかのような静かな空間。その一画に一軒の雑貨屋が店を構えていた。

 ここではダンジョンから持ち出されたオーパーツが売られている。


「いらっしゃい」


 店の奥から出てきた年配の男性が声をかけてきた。

 オーパーツショップの店主だろう。


「見ない顔だねぇ。新人ルーキーさんかい?」


「ええ、本日デビューする宝月ほうげつ麗華よ。覚えておきなさい」


「変わったお嬢さんじゃのう。新人ルーキーさんならこの辺りにある……」


 トランクを開き万札の山を見せた。


「これはほんの一部。まだまだありましてよ」


 軍資金は生活資金を除いた、わたくしの個人資産ほぼ全額だ。これを全部使いきったら文無しになる。


「わたくしはダンジョンを本気で攻略するつもりなの。それに見合ったオーパーツ、紹介していただけませんこと」




 店の奥の奥に案内された。


「ここは一品物のオーパーツばかりを扱っておる部屋じゃ。買える範囲で好きなものを選ぶといいよ」


「買える範囲でって言われても。わたくしがいくら持って――嘘でしょ……。この剣、買えませんわ……!」


「ほっほっほ~、驚いたかい。その剣はランクEx。最高ランクのオーパーツじゃ」


「まさか、こんなにお金を出しても買えないものがあるなんて……」


「Exランクでなくとも、良い品はありますとも。分からないことがあれば何でも聞いてくだされ」


 店主の案内の元、わたくしはオーパーツを見て回った。




 いくつか見て回るうちに気になる物を見つけた。


「あら。この瓶、他のExランクのオーパーツに比べて安いわね」


 ガラスの小瓶の中には、虹色に光る不思議な液体が入っている。


「それはのぅ……」


「何かおっしゃりたいことがおありなら、はっきりとおっしゃってくださいまし」


「そのオーパーツはExランクじゃが……使えんのじゃ」


「まぁ、夢にも等しいExランクが使えませんですって! 面白いわぁー。効果を教えていただけませんこと?」


「このオーパーツは【鬼才の霊薬】。1つのステータスを9999にする効果がある」


「9999ですって!」


 人間のステータスの平均値は10前後。

 それに比べれば、ずいぶんでたらめな数字ね。


「ステータスを最大値9999まで上げるのは事実上不可能だと聞きましてよ。誠に絶大な効果じゃなくて!?」



「その代わり、他のステータスは全て1に固定される。それは強敵と戦うには致命的な弱点じゃ」


「それは困りましたわねー」


 鬼才の霊薬を飲めば、一生初期ステータス以下で戦うはめになるということだ。


「さらに問題なのは、上がるステータスは完全ランダム」


 ステータスは5つある。

 生命力を表す【HP】

 精神力を表す【PP】

 筋力を表す【STR】

 魔力を表す【MAG】

 耐久力を表す【DEF】


 5つの中からお目当てのステータスを引く確率は2割。正直低い。



「なるほどね。メリットはとても大きいが、デメリットも大きい。しかも効果は完全ランダム。皆様が飲まれなかった理由がよーく分かりましたの」


「最前線の探索者たちも誰も飲もうとしなかった。それでよい」


「あら、勘違いなさって」


 小切手を切り、店主に突きつける。




「ここでチャンスをつかまない者は、ただのおバカさんですの!」




 失敗を恐れて行動しない者は、絶対に成功しない。

 だから、わたくしは行動する。

 これが悪役社長令嬢、宝月麗華の生き様ですわ!



「分かった。後は運に天を任せるかしかないのう……」


 店主から霊薬を受け取った。


「こんな大勝負、天の神様なんかに任せられませんわ」


「!?」


 驚く店主に一言。


「どんなステータスが上がろうとも問題ありません。上がったステータスに合わせた戦略を採ればよくって!」


 そう言って、霊薬を一気に飲み干す。



「――!!」


「どうじゃ……?」


「――ちから。力が、力が湧いてきましたの!!」


 分厚い牛サーロインステーキを食べたときよりも、スッポン1匹まるごと食したときよりも、エナドリ数本決めたときよりも、すさまじいパワーを感じますのよぉぉぉぉぉーーーーー!!


 ドンッ!

 え゛っ! 足を一歩動かしただけで、コンクリートの床に足跡ついちゃったんですけど!


「か、鑑定スキルを使うまでもない! STRじゃ、STRがカンストしたわい!」


 STRは攻撃的なステータス。

 正直当たり、いえ、一番上がってほしかったステータスですわ!



「おーーーーっほっほっほーー!! 最強の悪役社長令嬢、爆誕ですわーーー!!」


 勝利の高笑いを上げ、髪の毛をかき上げると――。


 ドシューーーーン!!

 ガラガラガッシャーーーン!!

 髪の毛をかき上げた風圧で、強烈な突風が発生し、棚が倒れ店内が破壊された。


「アーーッ!! わしの店があああああ~~~!!」


 ……まずは力加減を覚えるところからかしら。




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しばらく毎日更新しています。

更新時間は基本的にお昼か夕方になります。


次の話で主人公が活躍します。

ぜひぜひ読みにきてくださいね♪

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